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魔法学校編

50.

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 戦闘演習は無事終了した。
 カレルによって医務室に運ばれたセツは軽度の熱中症だろうと診断されたが、涼んで水分もしっかり取ればかなりよくなり、その晩しっかりと睡眠も取れば体調はすっかり回復した。
 それでもカレルは思慮深く、翌日花屋の仕事があるセツを送迎してくれた。他愛のないことを交わしながら一緒に寮に帰り一緒に食堂で夕食を取り一緒に部屋に戻るまでは穏やかな一日だったのだが——セツは今、カレルの足元で正座している。椅子に座っているカレルは優雅に足を組み、机に頬杖をついて、セツを見下ろしている。
 高貴かつ厳然な景色に思わず唾液が滲んでしまうが、今、セツはカレルから尋問を受けている。
 内容はもちろん、戦闘演習の日にも突っ込まれた、ミレーと交わしたやりとりについて。

「つまりミレーが言っていたのは、「お前自身をもらう」ってことじゃなくて「プレゼント選びのためにお前の力を貸してもらう」って意味だったってことか」

 もちろんアリサが絡んでいることは伏せたが、ミレーの相談に乗ったことと彼女がセツに向けた賭けを一言一句漏らさず伝えた。

「俺と契約している身で他のやつとどうこうなろうとしていたわけでもないと」
「それはもちろん。俺がカレルとの契約を反故するわけないよ」

 カレルとの間にしっかりとした契約が横たわっていることを改めて意識すると胸がすこしちくりとするが、なにがあってもセツはカレルを裏切るよう真似は決してしない。
 カレルはセツをしばし見つめてから「まぁ、そうだな」と零した。信頼されている、というよりかは、セツの長年の熱烈と執着から信じざるを得ない、という感じなのだろうとは思う。

「というかお前、ミレーと知り合いだったのか」
「顔を合わせたのはあの戦闘演習の日がはじめてだよ」
「顔を合わせたのは?」
「えっと、ミレーって学長の養子でしょ。学長とは仕事で会うことがあるから、そのときに結構話は聞いていたんだ」
「ああ、なるほどな」

 決して前世で画面越しに会っていたことを零さないように注意して言葉を紡ぐ。

「俺の知ってるミレー・ヘイズは周囲との関わりを拒んでいる少女だ。境遇を考えれば理解できないことはないし、閉ざされた扉を無理に開ける気も覗き込む気もさらさらないが……それでもお前はたった一日のうちのほんの少しの時間で、そんな相談や賭けを吹っ掛けられるくらいに親しくなったんだな」

 そう言うカレルの口ぶりや表情は尖っているというか、呆れているというか……どことなく拗ねているようにも感じた。
 今の話のどこに拗ねる要素がとセツは少し考える——ミレーと親しくなりたいと思っていた時期がカレルにはあったのだろうか。ゲーム上でカレルがヒロインの情報を主人公に教えてくれたり、時には賛美するシーンがあったが、そこでは特にミレーを贔屓している様子はなかったと思う。だが、この世界とゲームの相違点は数多ある。例えば、カレルがミレーに恋をしていたって可能性だってありえなくはない。
(だったらカレルがあそこまでミレーに突っかかったのは分らなくも……いやでもそれなら夜伽相手にわざわざ男を選んだりしないか)
 カレルの好きな人も、カレルの心境もセツには計り知れない。ただ、色々な可能性を考えるたびにセツの胸はどうしようもなく落ち着かなくなる。

「一見近寄りがたく感じるかもしれないけれど、話してみたら楽しいし面白いよ」
「へぇ」
「俺の場合は、ミレーはお花が好きだからそれで話が合ったのもあるけど」
「俺もそれなりに詳しいと思うけど」

 そこで張り合うということは、やっぱりカレルもミレーと親しくなりたいのだろうか……そう思ってから、あ、と思い出す。

「ごめん、カレル」
「……なにが?」
「その、ミレーがユーティアに興味を持っているらしくて、いろいろ聞かれたんだけど……そのときに、俺がこの街でユーティアを見たことがあるっていうのがバレちゃって。さすがに、カレルが育ててるってことまでは気づかれてないと思うけど」

 カレルはひとつ瞬くとそっと視線を逸らし、短く息を零した。

「別に俺がユーティアを育ててること、内緒にしとけとか言ってないから謝ることないだろ」
「でも……カレルの秘密基地にあったものだから。カレルにとってはもうそうじゃないかもしれないけれど。でも、俺はまだその認識が抜けなくて」

 青い瞳がまたこちらを向き、セツを反射する。

「……あそこは今でもずっと、俺の秘密基地だ」
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