黒い鍵の令嬢と陰陽師執事は、今夜も苦しむ魂を救う

柚木ゆず

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幕間 願

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((アト、スコシ、ダッタ、ノニ! ノニィィイイイイイイ!!))

 自分の動きが勝手に『巻き戻し』状態になってゆく中。橋本涼子の姿をした黒の化け物は、心の中で怒り狂っていました。

((イヤダアアアア! イヤダアアアアアアアア!! トマレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!))

 このままでは自分は消えてしまう――。
 本能的にそう感じた化け物は必死になって不思議な状態を止めようとしますが、それは無理。どう足掻いても身体は少しも動いてくれず、どんどんと本体――眠っている本物の橋本涼子の身体に近づいていってしまいます。

((ユリ! ユリ、ヲ、ユルセナイ! ユルセナイ! ツライ! クルシイ! ユルセナイ、カラ! コロスウウウ!! コロ、サセテエエエエエエエ!!))

 絶対に、このまま消えるわけにはいかない――。
 でも、やっぱりどうにもならない。
 巻き戻っていた化け物はついに涼子の部屋まで戻って来てしまい、『自分はもう、このまま戻って消えてしまう』と感じて諦めてしまいました。

((ナンデエエエエエエエエエエエ!! ナンデエエエエエエエエエエエエエ!! サセテ、クレ、ナイノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――…………。コレ、ハ……?))

 これまでで最も激しく心の中で叫んでいた、化け物の声。痛々しい叫び声が、突然ピタリと止まりました。

((…………ナニ……? アタタカイ……?))

 さっき不思議な鍵を突き刺された場所である胸が、急にぽわっと温かくなったのです。
 そして。
 それを感じた瞬間――

『苦しい時間は、あと少し。すぐ、楽にしてあげるわね』

『さっきから、何度も言っているでしょう? 貴女を救済するのよ』

 ――そんな声とエリスの優しい微笑みを、思い出したのでした。

((…………コエ。カオ……))

 化け物にはその言葉の意味が、まったく分かりません。
 でも。

((……オチ、ツク……))

 胸の温かみはとても心地が良くて、怒りの感情が徐々に小さくなっていきました。

((…………ネムタク、ナッテ、キタ……。コロサナイ、ト、イケナイ、ノニ……。ネム、タイ……。コロサナイ、ト、イケ、ナイ、ノニ……。ネム、タ、クテ………………。スウ、スウ、スウ、スウ、スウ))

 やがて化け物の心は眠ってしまい、安らかに橋本涼子の身体へと吸い込まれていったのでした――。






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