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第2話(4)
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「あの負霊の気配が、消えた。無事本体に戻ったみたいね」
「お嬢様、今宵もお見事でございました。失礼致します」
ノワール、お疲れ様。『形態移行(チェンジ)』――。再び口づけをして杖を鍵へと戻していると、蓮がやって来ました。
彼は近づくや、慣れた手つきでエリスの身だしなみを整えます。戦闘によって乱れた髪を手早く直したり、洋服に付着した風で巻きあがった埃を落としたり。いつも携帯している櫛たちで手早く直し、それが済むと、丁寧な所作で手作りのクッキーを渡しました。
エリスが操った力の源は魔力であり、失った魔力は自然回復もしくはカロリー摂取で補えます。そのため深夜にもかかわらずサブレを3枚口にして、今はソフトクッキーを7枚も摂っているのです。
「ありがとう、蓮。本当に、貴男の作るお菓子は美味しいわ」
とはいえ――。甘味、特に洋菓子は、エリスの大好物。義務であり趣味でもある一時(ひととき)を満喫し、ハンカチで口元を拭うと5時の方角に目を向けました。
「『怨』の原因の把握、回帰の両方が無事終わった。肉体と精神への負担を考えると、本体の――橋本涼子の救済は、朝。起きて、目を覚ました直後が適切ね」
「承知致しました。それでは橋本様の動向を把握できるよう、仕込みを致します」
蓮が目を瞑ると周囲が再びぐにゃりと歪んで、人払いの警戒は解除されました。そうしたあと蓮は再び長方形の和紙を取り出し、今度は「『感』」の声と共に7時の方向へとソレを投げました。
すると5センチほどの人型かつ透明になってヒラヒラと飛んでゆき、やがては茶色の屋根の家に――橋本涼子が暮らす家に到着。そして玄関の扉をスルリと抜けると2階へと飛んで行き、『式神(しきがみ)』が枕元に降り立ちました。
「橋本様。プライバシーの侵害となる行為ですが、非常事態ですので。どうかお許しくださいませ」
「ふふ。貴男のそういうところ、好きよ。本心でそう言える人って、そうそういないもの」
深々と頭を下げる『相棒』に対して目を細め、しかしながら、柔らかな表情はすぐになくなってしまいます。その理由は、彼女の視線が真後ろにある家へと――橋本涼子を苦しめた人間である、加藤百合(かとうゆり)へと向いたからです。
「できるならば今すぐ懲らしめたいところだけど、残念ながら今はその時ではないわ。蓮」
「畏まりました。『感』」
再び札は人型の紙へと変化して、今度の式神は百合の枕元へと降り立ちまます。
ですが今回は、相手への謝罪の言葉はありません。蓮もまた瞳に静かな怒りを宿し、ピンク色のカーテンがかかった窓を――その先で呑気に眠る、性悪な元凶・百合を見据えていました。
「人の姿をした、畜生。一日も早く、そういった存在が消えて欲しいものです」
「ええ、そうね。…………加藤百合、今日はゆっくりと休むといいわ。今夜が貴女にとって、最後の日常となるのだからね」
クスリ――。エリスは冷たい微笑みを向け、やがて2人の姿は五芒星と共に消えたのでした。
「お嬢様、今宵もお見事でございました。失礼致します」
ノワール、お疲れ様。『形態移行(チェンジ)』――。再び口づけをして杖を鍵へと戻していると、蓮がやって来ました。
彼は近づくや、慣れた手つきでエリスの身だしなみを整えます。戦闘によって乱れた髪を手早く直したり、洋服に付着した風で巻きあがった埃を落としたり。いつも携帯している櫛たちで手早く直し、それが済むと、丁寧な所作で手作りのクッキーを渡しました。
エリスが操った力の源は魔力であり、失った魔力は自然回復もしくはカロリー摂取で補えます。そのため深夜にもかかわらずサブレを3枚口にして、今はソフトクッキーを7枚も摂っているのです。
「ありがとう、蓮。本当に、貴男の作るお菓子は美味しいわ」
とはいえ――。甘味、特に洋菓子は、エリスの大好物。義務であり趣味でもある一時(ひととき)を満喫し、ハンカチで口元を拭うと5時の方角に目を向けました。
「『怨』の原因の把握、回帰の両方が無事終わった。肉体と精神への負担を考えると、本体の――橋本涼子の救済は、朝。起きて、目を覚ました直後が適切ね」
「承知致しました。それでは橋本様の動向を把握できるよう、仕込みを致します」
蓮が目を瞑ると周囲が再びぐにゃりと歪んで、人払いの警戒は解除されました。そうしたあと蓮は再び長方形の和紙を取り出し、今度は「『感』」の声と共に7時の方向へとソレを投げました。
すると5センチほどの人型かつ透明になってヒラヒラと飛んでゆき、やがては茶色の屋根の家に――橋本涼子が暮らす家に到着。そして玄関の扉をスルリと抜けると2階へと飛んで行き、『式神(しきがみ)』が枕元に降り立ちました。
「橋本様。プライバシーの侵害となる行為ですが、非常事態ですので。どうかお許しくださいませ」
「ふふ。貴男のそういうところ、好きよ。本心でそう言える人って、そうそういないもの」
深々と頭を下げる『相棒』に対して目を細め、しかしながら、柔らかな表情はすぐになくなってしまいます。その理由は、彼女の視線が真後ろにある家へと――橋本涼子を苦しめた人間である、加藤百合(かとうゆり)へと向いたからです。
「できるならば今すぐ懲らしめたいところだけど、残念ながら今はその時ではないわ。蓮」
「畏まりました。『感』」
再び札は人型の紙へと変化して、今度の式神は百合の枕元へと降り立ちまます。
ですが今回は、相手への謝罪の言葉はありません。蓮もまた瞳に静かな怒りを宿し、ピンク色のカーテンがかかった窓を――その先で呑気に眠る、性悪な元凶・百合を見据えていました。
「人の姿をした、畜生。一日も早く、そういった存在が消えて欲しいものです」
「ええ、そうね。…………加藤百合、今日はゆっくりと休むといいわ。今夜が貴女にとって、最後の日常となるのだからね」
クスリ――。エリスは冷たい微笑みを向け、やがて2人の姿は五芒星と共に消えたのでした。
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