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第3話 あの日から今日まで リシャール視点
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妹のマリオンは人格が破綻していて、両親も同類。エミリーさんはそんな家族にいつも心身を苛まれている。
あの日偶然ランファーズ家の内情を知ってから、僕はずっと彼女を救いたいと思っていた。
でも――。
それの実現は、とてつもなく難しかった。
『リシャール、お前の気持ちはよく分かる……。その話を聞いて、わたしもどうにかしてあげたいと思っているのだよ……。だがな、首を縦には振れんのだ』
あんな扱いを受けていても、エミリーさんはランファーズ子爵家の一員。貴族が貴族に干渉するとなると、あらゆる問題が発生してしまう。
リスクがいくつも生まれてしまう。
この上なく酷い、ハイリスクノーリターンな行動。チュワヴァス子爵家や領地領民を最前線に立って護る立場にある当主としては、到底了解できることではなかった。
僕自身も、それは理解していた。けど――。
諦めるつもりはなかった。
だって、そんな事実を知って――いつもいつもあんな目に遭っていると知って、放っておけるはずがないじゃないか。
だから僕は、必死で探した。
一番の障害となっている『ハイリスクノーリターン』をなくし、チュワヴァス家に迷惑をかけないで解決できる方法を探し始めた。
それは茨の道。いくら考えても良いやり方が見つからず、何度も何度も下を向いてしまった。
けれど今から一か月前に、その状況は大きく変化することとなるのだった。
《リュミエール水彩画部門 金賞受賞》
一流画家への登竜門と言われている、由緒あるコンテスト。そこで、非常に名誉ある賞を――画家としての将来を約束される賞を、いただくことができたのだった。
((……よかった。これでやっと、前に進める))
俗に言う、青田買い。上位入賞を果たした画家の――巨匠になるかもしれない人間の初期作品を欲しがる人は多くいて、それは非常に高値がつく。
……どの作品も大切な宝物なのだけれど、我を通すには代償がつきもの……。
僕はこれまで描いた作品を売れるだけ売り、大金を――ランファーズ家からエミリーさんを『買える』だけの額を用意した。
その状態で――
「……なるほどな、これだけあれば喜んで差し出すだろうな。ただ――」
「それでも、デメリットは残っていると承知しております。ですので、そうであっても『エミリー・ランファーズをウチに迎え入れるべき』であるということを――そのデメリットを打ち消し、更には大きなメリットとなるものが存在しているということを、これから説明致します」
「打ち消し、メリットになる……? なにがあるというのだ……?」
「将来この家に、リュミエールの金賞受賞者がもう一人増える――恐らくは、それ以上の賞を受賞する大物が誕生する。ということですよ」
僕は初めてエミリーさんの絵を見た時、衝撃を受けた。絵に、色に、感情を乗せられるということを初めて知って、尊敬であり憧憬を抱くようになった。
でも……そんな彼女は家族に活動を快く思われていないせいで、あまり――僕の半分も絵の勉強をできておらず、『技術』の面で遥かに劣ってしまっていた。
そしてその『技術』は才能センスと異なり、時間をかければ誰だって身につくもの。つまりまともな環境さえあればエミリーさんは、もっともっと羽ばたけるのだ。
「僕には彼女を護りたいという想いも、次期当主として『家』や領地領民を護らなければならないという思いもあります。最悪どちらも傷付けてしまうような嘘はつきませんよ」
「…………確かに、そうだな」
「あちらが、エミリーさんを喜んで手放す方法を――自分で考えていて反吐が出てしまうような、下卑た言い分を考えております。それによってランファーズ家が関わるあらゆる問題も発生しなくなります。……ですので父上、お願いします。この計画を実行させてください」
そうして父上――その後親族を説得し、僕は急いで準備を整えてお屋敷を発ち――
「こんにちはお嬢さん。おひとりでどちらに行かれるのですか?」
――その道中で偶然エミリーさんを見つけ、声をかけたのだった。
あの日偶然ランファーズ家の内情を知ってから、僕はずっと彼女を救いたいと思っていた。
でも――。
それの実現は、とてつもなく難しかった。
『リシャール、お前の気持ちはよく分かる……。その話を聞いて、わたしもどうにかしてあげたいと思っているのだよ……。だがな、首を縦には振れんのだ』
あんな扱いを受けていても、エミリーさんはランファーズ子爵家の一員。貴族が貴族に干渉するとなると、あらゆる問題が発生してしまう。
リスクがいくつも生まれてしまう。
この上なく酷い、ハイリスクノーリターンな行動。チュワヴァス子爵家や領地領民を最前線に立って護る立場にある当主としては、到底了解できることではなかった。
僕自身も、それは理解していた。けど――。
諦めるつもりはなかった。
だって、そんな事実を知って――いつもいつもあんな目に遭っていると知って、放っておけるはずがないじゃないか。
だから僕は、必死で探した。
一番の障害となっている『ハイリスクノーリターン』をなくし、チュワヴァス家に迷惑をかけないで解決できる方法を探し始めた。
それは茨の道。いくら考えても良いやり方が見つからず、何度も何度も下を向いてしまった。
けれど今から一か月前に、その状況は大きく変化することとなるのだった。
《リュミエール水彩画部門 金賞受賞》
一流画家への登竜門と言われている、由緒あるコンテスト。そこで、非常に名誉ある賞を――画家としての将来を約束される賞を、いただくことができたのだった。
((……よかった。これでやっと、前に進める))
俗に言う、青田買い。上位入賞を果たした画家の――巨匠になるかもしれない人間の初期作品を欲しがる人は多くいて、それは非常に高値がつく。
……どの作品も大切な宝物なのだけれど、我を通すには代償がつきもの……。
僕はこれまで描いた作品を売れるだけ売り、大金を――ランファーズ家からエミリーさんを『買える』だけの額を用意した。
その状態で――
「……なるほどな、これだけあれば喜んで差し出すだろうな。ただ――」
「それでも、デメリットは残っていると承知しております。ですので、そうであっても『エミリー・ランファーズをウチに迎え入れるべき』であるということを――そのデメリットを打ち消し、更には大きなメリットとなるものが存在しているということを、これから説明致します」
「打ち消し、メリットになる……? なにがあるというのだ……?」
「将来この家に、リュミエールの金賞受賞者がもう一人増える――恐らくは、それ以上の賞を受賞する大物が誕生する。ということですよ」
僕は初めてエミリーさんの絵を見た時、衝撃を受けた。絵に、色に、感情を乗せられるということを初めて知って、尊敬であり憧憬を抱くようになった。
でも……そんな彼女は家族に活動を快く思われていないせいで、あまり――僕の半分も絵の勉強をできておらず、『技術』の面で遥かに劣ってしまっていた。
そしてその『技術』は才能センスと異なり、時間をかければ誰だって身につくもの。つまりまともな環境さえあればエミリーさんは、もっともっと羽ばたけるのだ。
「僕には彼女を護りたいという想いも、次期当主として『家』や領地領民を護らなければならないという思いもあります。最悪どちらも傷付けてしまうような嘘はつきませんよ」
「…………確かに、そうだな」
「あちらが、エミリーさんを喜んで手放す方法を――自分で考えていて反吐が出てしまうような、下卑た言い分を考えております。それによってランファーズ家が関わるあらゆる問題も発生しなくなります。……ですので父上、お願いします。この計画を実行させてください」
そうして父上――その後親族を説得し、僕は急いで準備を整えてお屋敷を発ち――
「こんにちはお嬢さん。おひとりでどちらに行かれるのですか?」
――その道中で偶然エミリーさんを見つけ、声をかけたのだった。
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