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脳力解放
人類超越
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真っ白な部屋はどこまでも続いているかのようだったが、案外壁は近くにあった。
僕と知里ちゃん、熊本くんとアナナキーズは壁に向かって平行に並んでいた。
白一色のせいか、壁があるのか触ってみないと確かめられない。人間の視覚というのはなかなか性能が悪い。
「それでは脳の解放を施す為の場所へと向かいます」
そう言ってアナナキ♂もといアナナキっちは真っ白な壁に手をかざす。
すると、一瞬にして重厚な雰囲気の扉が現れた。
「ここまでくると何が起きてももう驚かないな」
目頭を押さえて呆れる僕とは裏腹に、知里ちゃんと熊本くんはキャッキャとはしゃいでいた。
よくもまあ今から脳みそ弄られるって時に、はしゃげるなマイハニー。
「それではどうぞ」
重厚な扉は案外スッと開き、先ずアナナキーズが扉の向こうへと踏み出す。
続いて僕達も後を追う。
手術室のような部屋をイメージしていたが、全く予想を裏切った。
そこは青空が広がり、目に鮮やかな草の絨毯が視界いっぱいに現れた。
「え? 外?」
「いいえ、ここは精神世界です」
また新しい単語が出てきた。
情報過多でもう海馬がパンパンになりそう。
「この精神世界と呼ばれる空間は、アナナキ、人間二つの種にのみ存在する、謂わば精神の生まれ出る原産地です」
精神って生産されてたんだ。へー。
「例えるなら我々は今、ミクロな状態になって自分自身の脳の中に入ってる様な感じです。今映し出されているこの空間の景色は共有されていますが、各々の精神に分かれています。一緒にいるようで、違うところに居るという状態です」
ほうほう。へー。
僕と同じ状態なのだろう。知里ちゃんも熊本くんも『へー』とわかっているのかわかっていないのか判別出来ない表情をしていた。
いや、わかってないんだろうけど。
「それではこの先からはタチバナ様とチサト様のみになります。クマモト様は少しこの精神の空間で待っていて下さい。この機を無駄にせず、自分の精神を整えられる絶好の機会なので是非、待っていただいている間に自分と対話してみるといいかもしれませんよ?」
「それをすると僕も英雄になれるんですか?」
「なれません。ですが、心に平穏が訪れる事でしょう。やってみる価値は大いにあると思いますよ?」
なんかの宗教勧誘か?
神直々なら入信も吝かではないな。
「なんだか解らないですが待っている間暇そうなので適当に対話してみます」
わー。
この子英雄になれないと聞くや直ぐに、やる気失せちゃってどうでもよくなってらぁ。
「それでは御二方。目を瞑ってください」
言われるがまま、目を瞑る。
すると、アナナキっちの手であろう感触が両肩に置かれた。
「どうぞ目を開けてください」
なにこれ? 小さい頃流行った、催眠術師ごっこみたいな流れだな。
と、思いつつ目を開けると特に変わった様子はなかったが、知里ちゃんと熊本くん、アナナキンヌは消えていた。
「あれ? みんなは?」
「我々が移動したのですよ。ここは精神世界よりも深層の精神世界です。ここに来ると通常の人間は発狂してしまいます」
うぇ!?
そんなヤバイ所なのかここ!
しかし、特にさっきの草原と変わりはない。
なにか感じるという訳でもない。
「それではこれより、松果体の解放を行います。膨大な量の情報や感覚が流れ込んでくるように感じますので、少し気分が悪くなるかもしれませんが直ぐに収まります。肉体の方にも負荷がかかりますのでこれをお飲みください。筋肉の耐久性を高め、骨の強度を強くし、これから流れてくる脳からの微細で多数の信号を受け止められるようになる薬です」
もう後戻りは出来ない。
直前になるまで実感出来なかった恐怖が、今ドッと押し寄せてきた。
だが、どうしようもない。
言われるがまま、僕は薬を飲んだ。
「それでは始めます」
え? そんな早く効くの?この薬。
胃や腸にまだ到達してないけど!?
大丈夫!?
「大丈夫ですよ」
優しい声でそう呟いたアナナキっちの声が止んだ瞬間。
僕の鼓膜は破れたのか? と思う程の静寂が訪れた。
怖い。どんな些細な音も聞こえない。
いくら頑張っても、生活上完全な無音に出くわすことは無いだろう。
次に目の前が真っ白になった。
目は閉じている。だけれど白。
なにも動かないただただ白。
首を動かしても、瞬きをしてもなにも変わらない白。
何か来る?
遠い向こうから、いや本当に遠いのかすらわからない向こうから何かがこっちへ向かってきている。と、思った瞬間。既にそれは目の前に到達しており、僕の身体を突き抜ける。
触れた感覚はない。だが、連続して僕を突き抜けるそれらは、突き抜ける度に四肢を痙攣させる。
制御の効かない僕の四肢は、ブルッブルッと、マナーモード中の着信のように震え静止し、震え静止しを繰り返す。
そしてまた知らぬ間に眼前の光景が変わった。
「お疲れ様でした。無事脳力の解放が施されました」
目の前にいるアナナキっちは、ずっとそこに居たかのように前の光景から微動だにせず、僕の肩に手を置いていた。
「なにも変化がないけど?」
あちこち自分の身体を触ってみたり、四肢を動かしたりしてみたが、別段変わった様子はない。
「ええ、通常時はなんらいつもと変わらないですよ。意識して使おうとすれば使える筈です。その訓練も追い追い行うことにしましょう。先ずはクマモト様のいる空間に戻ります」
そう言い終わると、横には先程までと代わり映えしない後輩が口を開けて寝こけていた。
こいつ、果報は寝て待ての体現者か?
「おい、くまもん。起きろ!」
大の字で寝ている熊本くんを、つま先で小突く。
「ん? ああ、遅かったっスね。待ちくたびれて寝てましたよ」
え? そんなに時間経ってないように思えたけど?
「こちらとあちらでは時間の感覚でいうならかなりの差がありますので、クマモト様との感覚に違和感が生じるのは当然です。クマモト様お待たせして申し訳御座いません」
「リアル精神と〇の部屋だなこりゃ。それで? なにか悟れたのか?」
ふわぁと大きな欠伸をして伸びをする怠惰な後輩に、なんの期待も込めず聞いてみる。
「悟れたか? いいえ、特になにも?」
案の定で逆に安心したよ。
いきなり説法とか説き出したら、もうそれは熊本くんではなくなってしまうからな。
「タチバナ様同様に変化とはすぐに感じるモノではないですからね。高速で進化した自分の身体に把握が追いついていないのでしょう」
アナナキっちの説明に、言われてみればそうかも? と納得しつつ、ポケーッとしているとなんの前触れもなしに知里ちゃんとアナナキンヌが横に出現した。
「おおお! 漲る! 漲るぞムネリン!」
え? 把握が追いついてる人いるけど?
知里ちゃんの体を、なんなのか判別出来ない赤い靄のようなものが覆っている。
「え?! もう意識的に気魄を操っているのですか?」
今まで無表情だったアナナキっちに、驚愕の表情が露わになった。
いつも薄く、開けてるから閉じてるかわからないような両目が、これでもかっというほど見開かれていた。
「あ、このオーラみたいなの気魄って言うの? アナナキンヌに聞いてもずっと"は?"しか言わないから。ていうか気魄ってなんか! かっちょいいね!」
テンションマックスを振り切って、人間とは思えない驚異的なジャンプをその場でしている知里ちゃんに、この場にいる全員があんぐりとして口を開けていた。
「これは全く予想出来なかった事象です。どう計算しても異常です」
アナナキンヌは未だに目の前の事態が信じられない様子。
これだから頭でっかちは。
僕と熊本くんなんかもう立ち直って、"知里ちゃんなら仕方ない"の境地に達している。
「かめは〇波放てる気がする!!」
そう言って知里ちゃんは、腰に両手を置き、重心を下げていた。
僕と知里ちゃん、熊本くんとアナナキーズは壁に向かって平行に並んでいた。
白一色のせいか、壁があるのか触ってみないと確かめられない。人間の視覚というのはなかなか性能が悪い。
「それでは脳の解放を施す為の場所へと向かいます」
そう言ってアナナキ♂もといアナナキっちは真っ白な壁に手をかざす。
すると、一瞬にして重厚な雰囲気の扉が現れた。
「ここまでくると何が起きてももう驚かないな」
目頭を押さえて呆れる僕とは裏腹に、知里ちゃんと熊本くんはキャッキャとはしゃいでいた。
よくもまあ今から脳みそ弄られるって時に、はしゃげるなマイハニー。
「それではどうぞ」
重厚な扉は案外スッと開き、先ずアナナキーズが扉の向こうへと踏み出す。
続いて僕達も後を追う。
手術室のような部屋をイメージしていたが、全く予想を裏切った。
そこは青空が広がり、目に鮮やかな草の絨毯が視界いっぱいに現れた。
「え? 外?」
「いいえ、ここは精神世界です」
また新しい単語が出てきた。
情報過多でもう海馬がパンパンになりそう。
「この精神世界と呼ばれる空間は、アナナキ、人間二つの種にのみ存在する、謂わば精神の生まれ出る原産地です」
精神って生産されてたんだ。へー。
「例えるなら我々は今、ミクロな状態になって自分自身の脳の中に入ってる様な感じです。今映し出されているこの空間の景色は共有されていますが、各々の精神に分かれています。一緒にいるようで、違うところに居るという状態です」
ほうほう。へー。
僕と同じ状態なのだろう。知里ちゃんも熊本くんも『へー』とわかっているのかわかっていないのか判別出来ない表情をしていた。
いや、わかってないんだろうけど。
「それではこの先からはタチバナ様とチサト様のみになります。クマモト様は少しこの精神の空間で待っていて下さい。この機を無駄にせず、自分の精神を整えられる絶好の機会なので是非、待っていただいている間に自分と対話してみるといいかもしれませんよ?」
「それをすると僕も英雄になれるんですか?」
「なれません。ですが、心に平穏が訪れる事でしょう。やってみる価値は大いにあると思いますよ?」
なんかの宗教勧誘か?
神直々なら入信も吝かではないな。
「なんだか解らないですが待っている間暇そうなので適当に対話してみます」
わー。
この子英雄になれないと聞くや直ぐに、やる気失せちゃってどうでもよくなってらぁ。
「それでは御二方。目を瞑ってください」
言われるがまま、目を瞑る。
すると、アナナキっちの手であろう感触が両肩に置かれた。
「どうぞ目を開けてください」
なにこれ? 小さい頃流行った、催眠術師ごっこみたいな流れだな。
と、思いつつ目を開けると特に変わった様子はなかったが、知里ちゃんと熊本くん、アナナキンヌは消えていた。
「あれ? みんなは?」
「我々が移動したのですよ。ここは精神世界よりも深層の精神世界です。ここに来ると通常の人間は発狂してしまいます」
うぇ!?
そんなヤバイ所なのかここ!
しかし、特にさっきの草原と変わりはない。
なにか感じるという訳でもない。
「それではこれより、松果体の解放を行います。膨大な量の情報や感覚が流れ込んでくるように感じますので、少し気分が悪くなるかもしれませんが直ぐに収まります。肉体の方にも負荷がかかりますのでこれをお飲みください。筋肉の耐久性を高め、骨の強度を強くし、これから流れてくる脳からの微細で多数の信号を受け止められるようになる薬です」
もう後戻りは出来ない。
直前になるまで実感出来なかった恐怖が、今ドッと押し寄せてきた。
だが、どうしようもない。
言われるがまま、僕は薬を飲んだ。
「それでは始めます」
え? そんな早く効くの?この薬。
胃や腸にまだ到達してないけど!?
大丈夫!?
「大丈夫ですよ」
優しい声でそう呟いたアナナキっちの声が止んだ瞬間。
僕の鼓膜は破れたのか? と思う程の静寂が訪れた。
怖い。どんな些細な音も聞こえない。
いくら頑張っても、生活上完全な無音に出くわすことは無いだろう。
次に目の前が真っ白になった。
目は閉じている。だけれど白。
なにも動かないただただ白。
首を動かしても、瞬きをしてもなにも変わらない白。
何か来る?
遠い向こうから、いや本当に遠いのかすらわからない向こうから何かがこっちへ向かってきている。と、思った瞬間。既にそれは目の前に到達しており、僕の身体を突き抜ける。
触れた感覚はない。だが、連続して僕を突き抜けるそれらは、突き抜ける度に四肢を痙攣させる。
制御の効かない僕の四肢は、ブルッブルッと、マナーモード中の着信のように震え静止し、震え静止しを繰り返す。
そしてまた知らぬ間に眼前の光景が変わった。
「お疲れ様でした。無事脳力の解放が施されました」
目の前にいるアナナキっちは、ずっとそこに居たかのように前の光景から微動だにせず、僕の肩に手を置いていた。
「なにも変化がないけど?」
あちこち自分の身体を触ってみたり、四肢を動かしたりしてみたが、別段変わった様子はない。
「ええ、通常時はなんらいつもと変わらないですよ。意識して使おうとすれば使える筈です。その訓練も追い追い行うことにしましょう。先ずはクマモト様のいる空間に戻ります」
そう言い終わると、横には先程までと代わり映えしない後輩が口を開けて寝こけていた。
こいつ、果報は寝て待ての体現者か?
「おい、くまもん。起きろ!」
大の字で寝ている熊本くんを、つま先で小突く。
「ん? ああ、遅かったっスね。待ちくたびれて寝てましたよ」
え? そんなに時間経ってないように思えたけど?
「こちらとあちらでは時間の感覚でいうならかなりの差がありますので、クマモト様との感覚に違和感が生じるのは当然です。クマモト様お待たせして申し訳御座いません」
「リアル精神と〇の部屋だなこりゃ。それで? なにか悟れたのか?」
ふわぁと大きな欠伸をして伸びをする怠惰な後輩に、なんの期待も込めず聞いてみる。
「悟れたか? いいえ、特になにも?」
案の定で逆に安心したよ。
いきなり説法とか説き出したら、もうそれは熊本くんではなくなってしまうからな。
「タチバナ様同様に変化とはすぐに感じるモノではないですからね。高速で進化した自分の身体に把握が追いついていないのでしょう」
アナナキっちの説明に、言われてみればそうかも? と納得しつつ、ポケーッとしているとなんの前触れもなしに知里ちゃんとアナナキンヌが横に出現した。
「おおお! 漲る! 漲るぞムネリン!」
え? 把握が追いついてる人いるけど?
知里ちゃんの体を、なんなのか判別出来ない赤い靄のようなものが覆っている。
「え?! もう意識的に気魄を操っているのですか?」
今まで無表情だったアナナキっちに、驚愕の表情が露わになった。
いつも薄く、開けてるから閉じてるかわからないような両目が、これでもかっというほど見開かれていた。
「あ、このオーラみたいなの気魄って言うの? アナナキンヌに聞いてもずっと"は?"しか言わないから。ていうか気魄ってなんか! かっちょいいね!」
テンションマックスを振り切って、人間とは思えない驚異的なジャンプをその場でしている知里ちゃんに、この場にいる全員があんぐりとして口を開けていた。
「これは全く予想出来なかった事象です。どう計算しても異常です」
アナナキンヌは未だに目の前の事態が信じられない様子。
これだから頭でっかちは。
僕と熊本くんなんかもう立ち直って、"知里ちゃんなら仕方ない"の境地に達している。
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