人類レヴォリューション

p-man

文字の大きさ
上 下
12 / 40
脳力解放

Part 2

しおりを挟む
 生まれて初めてかめは〇波を目視した。
 僕の知っているそれと、なんら違和感がない波動は真っ直ぐに草原を突き進み、やがて爆発した。
 知里ちゃんは既に地球人を脱したようだ。

 "気魄"
 新しい単語が出てきた。
 アナナキっち曰く、気魄とはある一定の知能のある生物が元来持って生まれた素質だそうだ。
 この気魄のお陰で人は知識を蓄えられるし、言語を駆使して会話できる。

 記憶というものはとても曖昧なモノで、それは形に出来ないが、しっかりと思い出として残っている。哲学的に考えるならば今ある記憶は立証が出来ないので、もしかしたら今生きている事が全てで、思い出という過去は、脳によって創り出された夢かもしれないらしい。
 と、そんな事言われてもどうしようもない。

 人間の膨大な記憶は、気魄の補助によって成り立つらしい。
 シナプスとかニューロンとか、難しい単語が出てきたのでそこはスルーしたが、大まかにいうならば気魄製造所から生成された気魄さんは、脳の各部署や体内各細胞に送られ、海馬では記憶という仕事を手伝い、腕の細胞に行けばそれを増強させる仕事を手伝いと、オールラウンダーな助っ人外国人ということらしい。

 その気魄は精神性と深い関係があり、精神性の優れた生物ほど量とコントロールを高い水準で駆使できる。

 その水準を超人的な古代人間と同じようにする施術が先ほどの解放だったらしい。
 アナナキ達が古代人間に鍵を掛けたというのは、脳に存在する松果体という器官の制限であり、この松果体なる器官が気魄の生成を司っている。

 この気魄、上手く使えば運や勘と呼ばれる"必然"を予測する能力すらも高め、予知などにも繋がるというからびっくりたまげた。
 あながち、ノストラダムスも嘘つきだった訳じゃないかもしれないし、運も実力の内とは言い得て妙という事だ。

 本来、アナナキ達によって制御されたこの松果体をなんらかの偶然や鍛錬によって解放した人間達が、歴史の教科書などに載っている偉人たちであるという。

 しかし、この松果体の性能を偶然によって開花させた人たちは精神が持たず、気が狂ってしまう。

 ヒトラーとかラスプーチンとか言われてみればそうなのかも?  と思わざるを得ない。
 俗に言う変人は、もしかしたらこの現象が原因なのかもしれないし、勿論違うかもしれない。
 釈迦やキリストが精神性を重要視して、聖書やらお経に組み込んでいるのも、これに起因しているように思える。


 だが、この目の前のサイヤ人と化した知里千景を見る限り、どうも精神性が高い人間とは僕は到底思えていない。

 なにこの人?  なにこの人外。
 なに?  僕もこれと同じ事出来る感じ?
 いくら妄想で何百回と体にオーラを纏わせ、手から波動を出して敵を殲滅する様を思い描いても、いざそれが実現すると逆に引く。

 嗚呼、父さん母さん。
 こんな人外をお許しください。





「んで?  なんで僕は撃てないの?」

 もうどれくらいの時間が経ったのだろう。
 時間という概念が無駄な事が分かったのはいいが、いくらなんでもだいぶ慣れるのに手間をくっているのはわかる。

 僕は知里ちゃんのようにオーラも纏えないし、波動も撃てていない。
 え?  なに?  異世界転移チート無双なんじゃないの?

 というか、なんで熊本くんの方が人外みたいな動きし始めているの?

「先輩!  見てください!  めっちゃ速いっス!  僕の走り!  これボルト余裕で抜けますよ!」

 シュタタタっと草原を駆け回る熊本くん。

「ねえねえ、アナナキっち。これは一体どういう流れかね?」

 横で僕と同じように人外に成長していく熊本くんを眺めているアナナキっちにお尋ねしてみた。

「んー。難しい問題ですね。まさかクマモト様があれほど精神性を高められるとは予測出来ませんでした」

 ザルだな!!  3000年の集大成の割にはズブズブ過ぎんか!  予測計算!

「なんで脳力解放してない熊本くんが化物じみた動き出来るの?」

「あれが現時点での人間が出せる最大限の力だという事はわかります。ですが、ここまで速く使い熟せるのは本当に異常です」

「じゃあ熊本くんも脳力解放出来るんじゃないの?」

「それとはまた別の次元ですね。いくら自身との対話に成功し、自己を高めたとしても、そこは許容量の問題ですので、クマモト様に解放を施すと壊れてしまいます」

 所謂器の大きさってやつか!
 へっ!  僕の器は英雄クラスなんだよ!

 だからハエみたいに僕の周りをうろちょろするな!!

「なんで!  僕は解放したにも関わらず!  扱いこなせないの!!?」

 このままでは、熊本くんとのパワーバランスが崩れてしまうではないか!!

「もしかすると、タチバナ様はチサト様のような攻撃的センスがないのかもしれません」

 ……は?
 なにその絶望感満載なカミングアウト。
 セカンドオピニオンを要求する!

「アナナキンヌ!  どう思う!?」

「センスががないのかもしれません」

 オーマイガッ!
 セカンドオピニオンの速さが尋常じゃない!

「え?  ちょい待ち!  それ解放した意味なくない!?」

「いえ、もしかしたら…」

 お?  特殊な力とかなのか!?

「付与に特化しているのかもしれません」


 エンチャンッツ!!?

「へ?  それって補助要員てこと?」

「補助というのは素晴らしいことですよ?」

 いやいや補助って時点でマイナスイメージじゃん!

 補助輪外したくて、ウズウズしてた小学生の頃を思い出したよ!  不意に!

「チサト様。ちょっと宜しいですか?」

 ぴょーんぴょーんと、ノミの様に飛び回る知里ちゃんに声を掛けた。

「なに?」

 数十メートルは先に居たはずの知里ちゃんは、瞬間移動でもしたのかと思う程のスピードで、目の前に現れた。

「少しご協力願います」

 アナナキっちは徐ろに知里ちゃんを僕の前に誘導し、僕の手をとって知里ちゃんの肩に置いた。

「タチバナ様。イメージしてみてください。自分の中にある暖かな感触のモノをチサト様の中に流すイメージです」

「……中に?」

 ほんのり顔を赤らめる知里ちゃん。

 僕はそれをスルーして、言われた通りに自分の中で蠢く、暖かな感触のモノを、知里ちゃんに触れている手を介して流す事に集中する。

 すると、腹の奥から徐々に移動する暖かな感触のモノが、知里ちゃんに触れている手を流れて掌で飽和した。

「きゃっ!?  なんか熱いのきてるぅ」

 妙にいやらしい気持ちになる言い方だな。
 集中が途切れそうになるのを我慢して、流し続ける。

「わわわ。なんか体から勝手に気魄が出てるんだけど?」

 そう言われてみれば、知里ちゃんの全身から青い気魄が噴き出している。

「タチバナ様。もうやめて良いですよ。チサト様の許容量を越えたようです」

「え?  ちゃんと付与出来てるってこと?」

「ええ、かなりの量がチサト様に付与された様です。安全装置としての制御でチサト様の体が、タチバナ様の気魄を外に流してしまう程に。タチバナ様、倦怠感はありませんか?」

 ふにゃふにゃした恍惚の表情になった知里ちゃんから手を外し、そのまま肩を回してみる。

「いや?  特になにもないけど?」

「そうですか」

 顎に手を当て思案顔のアナナキっち。

「タチバナ様の気魄量はこの状況を察するに、膨大な量だと推測します。付与は我々アナナキも専門の付与師によって、治癒や強化で使用するのですが、大抵は少しの量付与しただけでも相当の倦怠感に襲われます。見たところタチバナ様の気魄の色が青色でした。これは付与に特化した気魄の色です。やはりタチバナ様は攻撃的ではなく、治癒や強化を得意とするタイプのようですね。しかも弩級の」

 上げて下げて上げてきたな。
 気魄量は膨大だけれど、使い道はギフトのみ。
 宝の持ち腐れ感も膨大なのだが?

「そんな事はありませんよ?  こと戦闘において、攻撃的な役割だけではなく、治癒や強化を付与できる付与師は必須となってきます。特に治癒は重宝されます」

 なぜか嬉しそうなアナナキっち。

「そしてチサト様のあの淡い赤色の気魄では付与は見込めませんが、相当の威力を持つでしょう。その特色によっての個性は無駄なものなどないのです」

「はぁ、まあいっか。ノリノリで前衛に出て死んじゃわない後衛ポジションだし」

「後衛?  認識に差異がありますね。付与師は最前線に身を置く役割ですよ?」

 聞いたことねえよ!  そんなアクティブなヒーラー!

「戦場は一刻も無駄に出来ない場面の連続ですので、後衛に下がる暇は前衛にはありません。よって付与師も攻撃的な役割の者のそばにいる事が鉄則となってきます」

「普通拠点のテントみたいなところで怪我人の治療ってのがお決まりヒーラー、エンチャンターだろうよ!」

「それは治癒に手間を食う場合に限るでしょうね。しかし付与師は即座に治癒や強化をする事が出来るのです。いちいち拠点に戻る方がリスクが高いのです」

 ごもっともです。
 いやいやいや!  死ぬくない!?
 付与師ほぼ人間なんだけど!?

「ふふふ。まだお気付きではないようですね」

 不敵に笑ってみせるアナナキっち。

「なにを?」

「付与師とは謂わば分け与える存在です。体内から自身で使用することは出来ませんが、掌を介した付与を"自分に"分け与えさえ出来れば良いのですよ」

 なるほど!!

「って、それなら普通に使わせろよって話だよね」

「まあその手順を踏まなければならないのは手間の問題でデメリットとなりますね。攻撃的な役割の気魄と付与師の気魄とでは気魄の流れが根本的に違います。前衛の気魄は全身から放出出来ます。ですが、付与師は一定の箇所から、個体へと流れて初めて放出されるのです。この原理はまだ謎に包まれている点が多いのです。恐らく付与師の体内で生成された気魄は一度付与することによって練度が高まるのでしょう。逆説的に考察すると、付与しないと練度の低い気魄になって上手く作用出来ないのではないかと予想されます」

「なるほど。でもそれなら自分に付与しても練度低いまんまじゃないの?」

「いえ、御安心下さい。アナナキの付与師曰く、"流す"作業が練度を高めているのです。前衛の全身から放出する気魄は経路が単純で、気魄を練るどころかあやふやなままの使用なのです。ですが一度体内で気魄を確認し流すという工程を挟むことによって気魄を自覚し、コントロールしているのでしょう」

「ほうほう。なんか理解出来たような気がする」

 端的に言えば、気魄のコントロールが上手いから付与できるって事でしょ?

 よし!  わかんね!  やってみっか!

 僕は内野手はサードばりのバッチコイスタイルで掌を両膝に当ててみる。
 腹の底から二手に分かれて、両腕を通過するのを感じる。腕から流れた気魄は掌を介して膝に流れ出す。

「おお!」

 感嘆の声が漏れた。
 膝がホッカイロを乗せられたようにあったかくなった。

「すげっ!  太腿パンパンになった!!」

 パンプアップした太腿は、まだ確認もしていないのに驚異的な力が宿った事を理解した。

 ビュッ!!

 バッチコイスタイルから勢いよくジャンプしてみた。

「ひっ!?  死ぬ!」

 ビルの3階くらいの高さまで勢いよく飛び上がった僕は、その高さに驚いた。
 落ちたら死ぬ。21年間の経験上類を見ない高さからの落下に、おしっこちびりそうになる。

 突然の僕の打ち上げに驚いた知里ちゃんと熊本くんは、口をポカンと開けてアホ面をこちらに向けている。

 先程までの何もできないフラストレーションが打ち上げられた気分で少し心地よくもないではない。

 すたっ。
「およ?」
 難なく着地を決めた。

「自分で飛んで着地出来ないなんて不条理があるわけないわな」

「素晴らしい自己付与です」

 自分でやってみてなんとなくわかった。
 例えるなら自分でマッサージするのと同じだな!

 自分の体を自分でほぐすっていうと、ん?  なんか意味無くね?  って思うけど、実際やってみればしっかりほぐされていて気持ちがいい。

 深くは考えない!  それが大事!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スペーシアフォース

山ピー
SF
宇宙で平和を守るヒーローの物語

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...