虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

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25 救出せよ

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 月夜の晩の洞穴の入り口。小さな川の音がドウドウと反響している。

 俺は冒険者ギルドの受付嬢ロアさんと共に、その内部へと入っていくことになった。

 月明かりのある外とは違って、少し進む中は真っ暗闇。
 灯した【ライト】の明かりが洞穴のぼこぼことした壁にくっきりとした陰影を作る。いかにも探索って風情も楽しいが、このままではちょっと見づらい。

 奥へと続く道はさらにクネクネと曲がり見通しが悪い。暗い隙間のそこかしこに何かが潜んでいるようだが、気配を拡散させていいるのか、位置を正確にはつかめない。

 ここでまた【魔導視】を使って内部を覗くと、暗視スコープのように違う世界を見ることができた。
 入り口付近には兵士が戦った時のものであろう斬撃の魔力跡がうっすらと残っている。

 そして奥には…… グニャグニャとめちゃくちゃに放出されてる微弱な魔素の乱流があった。意図的な妨害が施されてるように思う。

「ロアさん、どこに何が潜んでいるか分かります?」
「このままだと正確にはつかめません。探知術が妨害されてるみたいです」

「やっぱり。だけど何かがいるのは確かですね」
「そうなりますね」
 何かが隠れていて、妨害術のようなものを展開しているのは明らかだった。それならば。

「ちょっと明るくしてみましょうか?」
「ライトを、ですか? 分かりました」

 俺は生活魔法【ライト】の出力を徐々に上げていく。
 体感的になんとなく分かるのだが、今の光球は魔力値で1~2くらいの出力となっている。これを最大で30万倍くらいにはできるわけだが、実際にはどうなるだろうか。ちょっとやってみよう。


 徐々に徐々に魔法出力をあげてゆく感覚。光球は輝きを増し、球体の内側から外に向かって張り詰めるように膨らんでゆく。ふむふむ、まだまだいけそうだな。と思いながら少しだけ魔力を込めると、パバァァンと響く大音響。光球は突然に破裂してしまった。
 まだまだ小さな出力だったし、安定してコントロールできている感覚もあったのに。一定の出力を超えたところで突然暴走し始めたような。

 もう一度試してみると、やはり全く同じ現象だ。出力に制限がかかっているような? やはり属性の相性とかがあるのかもしれない。俺の闇属性が邪魔しているのか? 

 それでは今度は数を増やしてみよう。すると、これは全く問題なく、小さな光球ならいくらでも生み出すことが出来きそうだった。

「エフィルアさん? どれだけ作るつもりですか?」
 気がつくと、ロアさんに止められるまでひたすら光の球を発生させていた。
 もはや洞穴内を埋め尽くす勢いで、すっかり中が丸見えである。
 
 そして、いたいた、居たぞ。人のような顔を持つ四足の獣。頭の部分は人のようだが、あの身体は魔狼のものだな。

 地面の窪みに、壁の穴に、そして天井にペタペタと張り付いている人面獣達がそこにはいた。
 昼間の太陽の下のように明るくなった洞穴内で、能面のように無表情な獣が貧弱なキバを剥いてこちらに近寄ってきていた。

「それじゃ、このまま魔法をぶち込みますね」
 もはや肉眼で見えてしまえば、彼らが掛けていた妨害術も関係なかった。
 近くにさらわれた子もいないようだし遠慮も要るまい。

 トカマル君も人間モードに変化して戦闘態勢だが、少し待ってもらう。
 敵は未知の生き物だし、まずは遠距離攻撃で様子を見る。

 俺が唯一使える攻撃魔法【魔弾】
 魔素の塊りをそのまま敵にぶち込むシンプルな魔法だ。

 これを手の平から直接発射する。本当は杖でも使っておもむき深く、魔法らしく発射したいところだが、残念ながら俺の持っている武器は魔法むきじゃあない。

 それでも、機関銃のようにいくらでも手の平から連射できてしまう魔弾は心地よく、弾幕を張るように手当たりしだいブチかましながら少しずつ奥へと進んでゆく。

 爆滅飛散してゆく獣の身体からは、何かモヤのようなものが抜け出しているようだ。

「これは怨念や瘴気が、魔狼に取り付いたものみたいですね。魔物なんて元から瘴気の塊みたいなものなのに」
 トカマル君は、またしても訳の分からない物を吸収していた。

「ほんとはちょっとお腹一杯です」

 いま本当に食べたいのは鉱石らしい。霊魂系はすでに十分だという。
 昨日コボルトさん達に貰ったコバルト鉱石の塊なんかは垂涎の逸品らしいが。あれは今晩の夕飯にでも食べさせてあげよう。

 あまり探索し甲斐のなくなった洞穴を速やかに突き当りまで進む俺達。

「ふーむ、なるほどなるほど、これが今のエフィルアさんの……」

 ロアさんは何か独り言をつぶやきながらトコトコとついて来ていたが、突き当たりの壁まで到着すると、そこを探るように触り始めた。

「この奥に魔物の反応がありますね。おそらく子供もいます。さてと、本来なら何かこれを開ける方法を探すところなのですが、今回は出来る限り最短の方法で……」
 こちらを見つめるロアさん。

「エフィルアさん。もしかしてこの壁って破壊できますか?」
「破壊ですか?」

 どうだろうか? なにせ覚えたての事ばかりで、こっちも1つ1つ手探りなのだから。

 俺はとりあえず壁の厚さを確認してみる。
 コツンコツン
 石の壁だ。厚さは良く分からない。薄くはないという事だけは分かる。
 そしてこの壁を構成している要素の半分程度は結界のような物だと分かった。

 “魔導視”を使ってみると、そのギミックは手にとるように分かった。
 基本的に特定の魔物だけがすり抜けられる造りになっている。制作者はあの人面獣たちだろうと思う。

 何とかすれば上手くすり抜ける方法もありそうだが……。
 それよりも、せいっ

 俺は、適度な力を込めて呪法刃の短刀を振った。刀身の長さは壁の厚さを超えられるくらいに調節してある。
 スカアアン! と一刀両断に切れる壁。よし上手くいった。

 と、思いきや、切断面がジュゥジュゥと音を立てて煮えているし、結界を力技で切断したせいでちょっとした破裂が発生する。

 たいした衝撃ではなかったけれど、あまりスマートな感じではない。
 威力も少し高すぎたようだし、まだまだ練習が必要だろう。

 さて、目の前には奥へと続く通路が現れていた。
 急な坂道になっていて、地下へと続いている。

 少し下ったところには、ハァハァと荒い息づかいでヨダレを垂らしながら半裸の少女にまたがっている人面獣がいた。 
 
 その獣は少女に襲い掛かろうとしたのだが、誠に申し訳ないことに、その直前に俺の魔弾が獣を爆滅させてしまった。

 獣の残骸から立ち上るモヤモヤの光をトカマル君が吸収して、はい、ご馳走様。 

「ああ~、流石にもう食べ疲れました。どれだけ死霊と怨念が渦巻いてるんですかね、この土地は」

 ちなみにトカマル君はただパクパクと食事をしてばかりいるわけではないらしい。
 食べた霊魂や怨念を浄化したり、冥府送りにしているみたいなのだ。
 もしかするとそれは意外と重労働なのかもしれない。

 ポンポコになったお腹をさすりながら、トカマル君は俺の頭の上に戻ってグデグデし始めるのだった。
 
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