虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月

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24 洞穴への痕跡

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 町の西門の近く。
 人だかりの中心にいたのは受付嬢のロアさんで、周りにいる男達の中にはギャオの姿もあった。
 聖女たちはいないようだ。
 
「エフィルアさん」
 ロアさんは俺に声をかけてくる。

 何をしていたのかは分からないが、あまり俺が関わらないほうが良いような気もしている。
 なにせロアさんはギルドに出入りする男達から人気が高い女の子だ。

 そして今この場に集まっている男子の面子を見ても、明らかにいつも受付カウンターの前を無駄にウロウロしているタイプの人たちなわけだし。

 案の定、ギャオを初めとした男達の視線がザクザクと俺に突き刺さってくる。
 ロアさんはかまわず話を続ける。
  
「私、洞穴のほうに用事がありまして」
「ロアさんが1人でですか」

「はい、1人です。私はこう見えても結構強いのです。ギルド職員ですから」
 そんな話をしている間にも、ざくざくざくざく鋭い視線が俺に突き刺さる。

「それでですね、良かったらエフィルアさん手伝ってくれませんか?」
「「「 !!!! 」」」

 周りにいた男達がどよめく。いや、激高する。
 当然の如く、ロアさんに対してではなく俺に対して怒りだす。

 まあ怒るのも無理はない。なにせ、ついさっき自分達は同行を断られたのに、よりによって闇属性野郎なんぞに彼女が声をかけたのだから。 

「あー、ええと、やめときましょう。きっとロアさんに迷惑が、」
「もーーーちろんだ、エーーフィルゥゥァァアッ。迷惑だよ。迷惑にきまってんだろうがよ」
 断りをいれようとすると、そこにギャオの声が割って入ってきた。

「エフィルア、お前なんかお呼びじゃない。ボロ小屋に帰って寝てな。ロアちゃんはオレが守るからよ」

 カオスだな。非常にわけの分からない状況になっております。
 そんな中、今度はロアさんの声がとんだ。

「ごめんなさいっ。今回の依頼はレベル60以上の方限定でお願いいたします」

 突然告げられた言葉は男達をいっせいに押し黙らせた。
 レベル60といえば中上級冒険者の水準だ。才能のある人が努力を惜しまなければギリギリ到達できるというレベルであり、ここにいるまだ若い駆け出し男子冒険者たちには無理な話だ。

「じゃ、行きましょうかエフィルアさん」
「え? 何で? 俺?」

 一緒に走り出したロアさんはクイッとこちらに顔を向け、ささやくように告げる。彼女にはまだ俺のレベルが無闇やたらに急上昇したことは教えていないはずだ。他者のステータスは勝手に覗くことはできない。

「私、分かるんですよ。他人ひとの強さがなんとなく」

 俺はその場の雰囲気とロアさんの勢いに逆らえず、結局彼女に連れ去られるのだった。

「ふぅ~~、この辺りまでくれば大丈夫でしょうか」

 町の魔導灯の明かりが届かない場所にまで来たころ、俺達は一度足を止めた。
 月明かりがあるとはいえ周囲は暗く、ロアさんが生活魔法【ライト】を使って道を照らした。
 俺も覚えたばかりの【ライト】を使ってみる。
 周囲を照らすほのかな光の球体が頭上に現れた。

 ロアさんのものはオレンジがかった炎のような色合いで、俺のは深い黒色の炎。球体の中で激しく渦を巻いている。同じ魔法でも見栄えは少し違うようだ。
 どちらにせよ、明かりとしての役目はちゃんと担っているのだから問題ない。

 ちなみに俺は闇属性全開野郎なわけだが、光を生み出す魔法も問題なく使えるようだ。ふうむ、光と闇は反対属性のはずだが良いのだろうか?

 光と暗、火と水、風と土
 それぞれ対になった相反する属性は互いの弱点にもなっているし、同時に習得するのは難しいはずなのだ。
 まあ、中には全属性を使いこなす大魔導士なんてのもいるみたいだし、俺だって光も闇も使えたっておかしくはない。のかもしれない。

 ただ、聖女エルリカにぶち込まれた聖属性回復魔法、あれは完全にだめだった。強烈に俺という存在を真っ向から否定するような力を感じた。
 そんな聖属性は光属性の中の小分類として位置づけられていたから、この2つは同じような性質なのかと思っていたけれど…… 良く分からん。

 火水、風土、光闇の6つに分類する考え方は6大属性分類と呼ばれるのだが、そもそも、これとは違う陰陽五行分類をとする魔法学派もあるし、他に分類の難しい属性魔法もたくさんあるし…… と、このあたりはまた追々、いずれ時間が出来たら試してみたい。
 
 さて、それにしても、ここまで来る間に思ったのだが…… 
「ロアさん。足速いですね」
「エフィルアさんも相当なものです。とてもFランク冒険者とは思えない身のこなしですし、ギルドに登録した数日前のレベルが24だった人物だとも思えないですよね」

「そうですかね? ちょっとだけは強くなったかもしれないですね」
「どれくらいですか?」
「ちょっとだけです」

 今のレベルは145だから、たぶんギルマスと同じくらい。べつに話しても良さそうな気もするがどうだろう?
 魔力値が30万を超えているという件はどうか?

 ロアさんにそれとなく質問してみることに。すると、やはり30万超のステータスはいささか問題がありそうだった。
 
 基本的にはレベルの数値と、各種ステータス値の平均は同じくらいになる。
 もしギルマスのレベルが145だとすると、攻撃力や魔力の値は、平均するとだいたい145前後ということになる。

 ただし、得意分野のステータス値は高くなるから、素早さだけ2倍あるとか、攻撃力だけ2倍あるとか、そういう感じになるらしい。

 強い武器を持てばそれだけ攻撃力も上がるが、使いこなせなければ数値にも反映されない。

 そのあたりを加味した得意分野のステータス値でも、だいたいレベル値の10倍もあったら特別な事だという。

 レベル145の人なら、魔力や攻撃力が1450くらいはあってもおかしくないという事だ。
 それに比べると、俺の魔力値30万がいかに馬鹿みたいな数字であるかが分かる。もしかすると何かが壊れて誤表示されているのかもしれない。
 魔力30万ですなどとアホウみたいな事を言ってしまって、あとから全然雑魚でしたとなるのは少し気恥ずかしい。

「それでエフィルアさんの今のステータスはどんな感じなんですか?」
「ええと、なんだか表示がおかしいので、また今度正確なものが分かったらにしておきましょうか。あ、でもギルドにはステータスを教えおく必要がありましたか?」

「いえ、それは大丈夫ですよ。ステータスは個人の重要な情報ですから、特別なときにしか開示義務はありません。それよりもギルドでは、冒険者ランクと過去の実績を重要視していますね。ま、私としてはエフィルアさんのステータスは教えてほしいですけどね。ちょっとした興味と期待と、そうですね、そう、ギルドとしての戦力に期待しての事です。でも今は、それよりも調査を進めないといけませんし」


「ですね。さらわれた子供は無事でしょうか」


 道すがら【魔導視】で確認すると、やはり地面の痕跡は洞穴に向かって続いている。ロアさんも子供は洞穴にいると考えているようで、俺達は洞穴に向かって走ってゆくのだった。

「私こうみえても、探知系の魔法がとても得意なのです。ちょっとしたものなんですよ?」
 なんとも自信ありげなロアさんは、走りながら軽く胸を張った。
 その胸部は平たい。
 
「エフィルアさん、こんな小さな胸を見ている場合ではありませんよ」
「あ、はい。すみません」

 おお、胸部分析をしている事が一瞬でバレたぞ。なるほど、気配探知が得意なだけはある。

 それからすぐに洞穴の前に到着し、ロアさんは動きを止めた。
 彼女の話によると、この小さな洞穴は俺がこの町に来る数日ほど前に突然現れたものだという。

 不可思議な点がいくつかあるからとギルドからも人を派遣して探索していたようだ。中はたいして広くなかったようだが、どうも魔物の湧きが活発になっている様子。今は監視の兵や冒険者が待機しているはずなのだが、その彼らとは連絡が付かないらしい……

 結局、そこにあったのは倒れた兵士の姿だけだった。
 入り口の近くには小川の水が少し流れ込み、水溜りになっている。
 そこから中を覗くと、さらに数体の人間が倒れていた。
 すでに全員命は無い。

 ロアさんはテキパキとポケットの中から魔導具を取り出し夜空に発射した。
 宵闇に赤い閃光が3回放たれる。ギルドへの合図のようだ。

「やはり少女さらいの人面獣は洞穴内に入って行ったようです」

 俺達はぽっかりと開いた洞穴の暗闇を覗き込む。



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