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第1部4章
03 呪いを解く方法
しおりを挟む一日に何度も頭を鈍器で殴られれば、その衝撃から前後の事柄を忘れそうになる。
(なんで、なんで……このタイミングなの……)
待ち望んでいたそれは、最悪のタイミングで訪れた。
イーリスが、殿下の呪いを解く方法を探してくれれば、彼は、一ヶ月という寿命から解放される。彼の死は免れる。しかし、番契約の際に、彼から私も呪いを譲り受けている。だから、彼が解放されたとしても、私は解放されない。また、違った形で呪いがうつってしまっているからだ。それは仕方がないことなのだ。だから、小説のロルベーアは呪いが解かれず死んでしまった。いや、殺されてしまったのだ。
(……最悪だ)
殴られたような衝撃で忘れていたが、私は殿下から答えを貰えるはずだった。そう私も覚悟を決めて、少し期待していた。もしかしたら、あり得るかも知れないと。別に、好かれようと奮闘したわけじゃない。私達はなるようにして、今の関係に落ち着いた。無駄な努力をしていない分、これらの時間が無駄だったとは思わない。それでも、自然に縮まっていった距離を、一瞬で崩されたような気がして、私は腹が立つと同時に、悲しみのそこに落とされた。誰を恨むわけでも、殺意を抱くわけでもない。ただ、そうなると決まっていた小説の未来にたどり着いただけだ。
(仕方ないわよ……)
自分でも驚くほど、冷静だった。受け入れるしかないと、何となく察していたのだろう。タイミングを――
殿下の方をちらりと見れば、信じられないというような顔でマルティンを見ている。しかし、ゆるやかに上がった口角を見れば、彼が歓喜に震えているのが分かった。ああ、そうだ……どうせ、この人も。
私は俯くことしかできず、もう一度ドレスにシワを作る。彼がくれた真っ赤なドレスは、私には似合わないようだ。
「殿下、よかったですね」
「こ、公女……?」
「言ったじゃないですか。聖女様はきっと殿下の呪いを解いてくれるって。私、言いましたよね」
「だが、公女」
「殿下、急いで神殿の方に」
と、マルティンが殿下を促す。皇族側としても、帝国から見ても殿下の呪いが解けることが優先なのだ。私もその呪いの一端を背負っていると言っても、たかが公爵令嬢で。優先すべきは、帝国の太陽なのだと。
しかし、殿下はその場から動こうとしなかった。マルティンが慌てておろおろとし始め、私の方を見た。私も瞬きをするしかなく、何故彼は動かないのだろうかと真紅の彼を見る。彼は、何故かその場で思考しているようで、迷っているようにも見えた。一体何に迷うことがあるのだろうか。
「殿下、よかったじゃ――」
「公女、黙っていろ」
「……っ」
「マルティン、それは、今すぐいかなければならないのか」
「は、はい。いち早く来て欲しいと、神殿の方から。皇帝陛下からの指示でもあります」
「チッ……まず、呪いを解く方法が分かったと、まだ試していないのだろう。そんな不確定なものに、一日ほど費やせというのか。俺に」
「で、ですが殿下。これは、陛下からの命令です。これまで、呪いを解く方法は一つしかないと思われていましたが、あったんです。その奇跡にまずは喜ぶべきじゃないでしょうか。聖女様も、寝る間も惜しんでその方法を探し出したのです。帝国民も、皆、殿下に生きて欲しいのです」
「俺の番を殺してまでもか」
「そ、それは」
ギロリと私の方を見る。
何故そこで、私が殺されるという話になるのか。いや、私の死が確定している以上、殺すしかないのかも知れない。だって、私の解除方法は、殿下と同じ真実の愛を見つけることだから。
しかしまあ、皇帝陛下の命令ならいかなければならないだろう。いくら父親だからと言って、その命令を蹴るわけにはいかない。だって陛下が帝国のルールだから。
殿下は苛立ったように髪の毛をむしり、何度も舌打ちをしていた。
「公女も一緒に来い」
「な、何故私もなのですか」
「公女も、同じ呪いにかかっているんだ。一緒にいけば解除して貰えるかも知れない」
「お言葉ですが殿下、それは無理だと思います。私は貴方の呪いを半分受けましたが、同じ呪いではありません。呪いが伝染する際、その解除方法も変わってしまったのです。殿下の呪いは解けるでしょうが、私はその方法では解けないでしょう」
「何故決めつける」
「……」
「公女」
小説を読んだから、としか言えないけれど、彼にそんなことを言っても無駄だと私は口を閉じる。ご都合主義なのか、悪役には死しかないのか、ロルベーアもその魔法で解除して貰おうとしたが無駄に終わった。だから、結末は見えている。
私は目を伏せ首を横に振った。その行動がさらに腹を立てたようで、私の手首を捻りあげ立ち上がらせた。
「痛いです。殿下、先ほどから! 暴力はやめてくださいと、いつも言っているじゃないですか」
「だったら、公女は俺の心を抉るそれをやめろ。いいから、公女もついてこい」
「だから、何でですか! 殿下は呪いが解ける、それでいいじゃないですか」
「公女は!」
「私は……私は、殿下の呪いが解けた場合、貴方を一人にしないために、殿下に殺されます。それでいいです」
「俺がよくない」
「何でですか!」
「で、殿下、ロルベーア様……時間がありません。お二人は一緒にいく、ということでいいですか」
と、しびれを切らしたマルティンが言う。殿下は私から手を離さないまま、そうしてくれ、とマルティンに伝えると、彼は、分かりました、とひとこといって部屋を出ていった。
「離してください」
「離したら逃げるだろう」
「……」
「公女、俺の側にいろ」
殿下は、縋るようにそう言うと、私の両手を握る。まだ震えていた冷たい手を私は握り返すことはできなかった。
だってそれって、私に呪いを解除したところを見せつけるってことでしょ? そんなの拷問じゃない……
私が手に入らないもの。ヒロインとヒーローの感動のシーン……それを、悪役の私は目の前で見ることに、見せつけられることになる。その時、私は平気でいられるだろうか。いいや、絶対に。
「公女」
「何ですか、殿下」
「俺の呪いが解けたら、公女の呪いもとく方法を探すようイーリスに言おう。だから、公女……自ら死を選ぶことだけはしないでくれ。俺に公女を殺させないでくれ」
「……」
殿下のその一言に、また足枷をつけられる。この人は私に何をしたいんだろうか、何を求めているんだろうか。
結局殿下からあの言葉の続きが貰えないまま、私達は神殿に向かうことになった。
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