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第二章 学園編

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 うーんと、教室はこっちでいいのかしら。
 案内を手にしながら学園の廊下を歩いていると、急に肩を叩かれた。

「やあ、イザベル嬢。教室はあちらだから一緒に行こう」
「ヘンリー殿下! ありがとうございます」

 教室は他にもある筈だけど、一緒に行こうってことは……

「あの、ヘンリー殿下はもしかして私と同じクラスなのでしょうか」
「ああ、そうだよ。最初は違うクラスだったんだが、私達は婚約者だし同じクラスに変えてもらったんだ」

 んなーっ!? 
 折角別のクラスだったのに、余計なことを!!

「さ、左様でございますか」

 ヘンリー殿下はにっこり笑うと、そのまま私の肩を抱き歩き始めた。
 って、ちょっと! みんな見てるよ!!

「へ、ヘンリー殿下」
「ん? なんだ」
「あの、あまり距離が近いと皆に見られますわ。初日から目立つのはちょっと」
「私達は婚約者なんだから距離が近くて何が悪い。むしろこの距離感は適切だと思うが、イザベル嬢は私が側にいるのが嫌なのか?」
「え!? いや、その、嫌と言うか」

 ヘンリー殿下は嫌いじゃないし、むしろその外見はめちゃくちゃ好みなんですが、攻略対象者だから距離を置きたいんです……とは言えないしなぁ。

「反論がないならこのままでいいだろう。さ、遅れるといけないから急ごう」

 ヘンリー殿下はそのまま歩き出してしまった。
 ううう、視線が痛いわ。
 ギクシャクしながら一緒に歩くと、目の前に黒い影が過った。

「わわっ!?」

 ヘンリー殿下がグイッと引き寄せてきたので私は体勢を崩したが、殿下の引き締まった身体に抱き止められた。
 ぎゃああ! 
 学園内でいきなり抱きしめるなんて、この王太子は一体何を考えてるの!?

「ヘンリー殿下!」

 私はヘンリー殿下の胸元をグイグイ押して抵抗していると「うぅ」と女の呻き声が聞こえる。
 その声に驚き下を見ると女生徒倒れている。
 た、大変! 大丈夫かしら!?

「貴女、大丈夫!?」

 私は女性の手を引き起こしてあげた。
 ん? この子!!

「すみません。ありがとうございます」

 肩までの茶髪に、男が好みそうなタレ目でふんわりした雰囲気の美少女。
 この容姿に見覚えがあるわ。
 間違いない、この子がヒロインだわ!

「君、いきなり飛び出すなんて危ないだろう。次回からは気を付けて。はい、鞄」

 ヘンリー殿下は落ちていた鞄を拾い上げると、ヒロインに渡した。

「ありがとうございます!」

 ヒロインはパァッと明るい笑顔でヘンリー殿下から鞄を受け取ると、深くお辞儀をして足早に去って行った。

「気を付けるように言ったばかりなのにあんなに急いで。人の話を聞いていないのだろうか」

 ヘンリー殿下は何かを言っているが、考え事をしている私の頭には入ってこない。

 今のは、恐らくゲームの初期イベントだろう。
 やはりもう乙女ゲームは始まっているのね。
 せめて内容が分かればいいのに。
 あぁ、もう! これじゃ何にも対策が立てられないわ!

「イザベル嬢もそう思わないか? ……イザベル嬢?」
「へ!? そ、そうですわね」
「何か考え事か」
「え!? いえ、何も。おほほ」

 まさか乙女ゲームについて考えていました、とは口裂けても言えないわ。
 お願い、これ以上突っ込んでこないでー!

「そう。じゃあ我々も行こう」

 ヘンリー殿下は再び私の肩を抱き、歩き出した。
 恥ずかしいし注目されるのが嫌なのだが、ヘンリー殿下に抗議してもどうせ上手い事纏められてしまうのが分かっているので、私は黙って歩く事にした。

 さっきの初期イベント、違和感があるなぁ。普通なら攻略対象者は悪役令嬢の私ではなくヒロインを抱き止めるんじゃないかな? 
 側に私がいたとはいえ、ヒロインを放置ってのも何かおかしいよね。

「イザベル嬢、教室に着いたよ。中に入ろう」
「はい、ありがとうございます」

 ストーリーを思い出せない私は、答え合わせが出来ぬまま、悶々とした気持ちで教室に入った。
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