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キュートなSF、悪魔な親友
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「もっさん、どーする? 店変える?」
長峰の言葉に甘えるのもアリだが、山本が河岸を変えるというならそれに付き合うつもりで鹿倉が訊いた。
「そーだなー……かぐちゃん、俺んち来る?」
山本が少し考えた様子を見せて言う。
この店からもそう遠くないし、鹿倉には勿論断る理由なんてないから。
「わーい、行く行くー」
「んじゃ、コンビニ寄ろ」
そうして二人で話しながら歩く。
大きな月が出ていて、山本のマンションへ向かう道はそんなに人通りがあるわけではないが、街灯と月明かりだけでもかなり明るい。
「今日はさ、晴れてたから良かったってのもあるよね」
鹿倉が月を見上げて言った。
朝から晴天に恵まれ、内海とは言え潮が穏やかだったことも今日のイベント成功の一因で。
「あるある。デッキで生オケなんてかなり挑戦的なリクエストだったからね。受けるミネさんもミネさんだけど」
「ま、悪天候だったら中でそのスペースは確保してたみたいだけど。あんな博打うっちゃうトコがミネさんらしい」
「あの人、天気操れんじゃねーの?」
山本が言うと、鹿倉が「あの人なら有り得る」と笑った。
堀率いる鹿倉たちのチームと、長峰の所属するチームはよく一緒に行動する。平均年齢的には長峰のチームの方が十は上だが、だからこその連携が上手く行くようで、鹿倉と堀があまり年齢を気にせず長峰たちに突っ込んで行くのもあり、大口の企画に入るとこの二チームには壁がなくなることが多い。
そうして二人が今日の反省とかを喋っていると山本のマンションにはすぐに着いた。
一階のコンビニに入ると。
「ビールはね、先週箱買いしてるからいいよ。まあ、かぐちゃんが呑みたいヤツがあれば買うけど。でもつまみは全然ないから」
「知ってる。もっさんも料理しない人だよね」
「全然しないわけじゃねーよ。最近はちょっとだけチャレンジしてるし」
「へー。マジ? 俺、チャレンジすらする気ねーし」
「田村に甘えっぱなしだろ?」
「あいつ、すげーの、マジで。も、今やおかーさんよ?」
「栄養バランスまで考えちゃってる?」
「そ。俺の好き嫌いまで把握してっから、アレ食えコレ食え、うるせーっての」
言いながらも鹿倉がカゴに入れているのはナッツやスルメなどの乾き物で。
「かぐちゃんが食わな過ぎじゃねーの? おまえ今日、店でも殆ど食ってなくない?」
「食ったし。食ってるし」
「ほら、サラダ追加」
「いらねーし! なんで葉っぱが酒のアテになんだよ?」
「野菜食わないとおかーさんに怒られるよ?」
「今日はおかーさん、いませんから」
くふくふと笑いながら会計を済ませると、エレベーターで最上階にある山本の部屋へと向かった。
一階はコンビニだが、二階から上は通常の賃貸マンションらしく、住民専用のエントランスが別に構えてある。
最上階角部屋でベランダからは繁華街が見下ろせるので、男の一人暮らしとしてはそこそこいい物件だ。
鹿倉はどこの家でもそうするようにソファ前のラグにぺたんと座り込んだ。
「あ、ジャケット脱ぐ?」
「ん。もっさん、スウェットとか借りれる?」
「寛ぐねえ」
山本が笑いながら、黒い上下のスウェットを手渡した。
「ちょっと大きいかな、かぐちゃんには」
「大は小を兼ねる」
言って、バスルームへ向かった。
目の前で着替える、というのもアリかとは思ったが。無意識の中、どこかがそれに抵抗を感じているようで。
それを明確化するつもりはなかったので、さらっと着替えて戻る。
「あ、マジで何か作ろうとしてる?」
キッチンに立っていた山本に近付いた。
「してない、してない。さっき買ったサラダに冷凍唐揚げレンチンして乗っけただけ」
「野菜食わそうとしてる?」
「してるしてる」
「そんなんしなくても、別に野菜嫌いなわけじゃねーし。もっさんまでかーちゃんかよ?」
言いながらもその皿をソファ前のローテーブルへと運ぶ。
「ビールでいい?」
「ビールがいい」
冷蔵庫からビールの缶を二本持って、山本が鹿倉の後を追った。
テーブルを挟んで鹿倉の向かい側に山本が座る。缶をぶつけて「おつ」とだけ言って、二人でくいっと煽った。
「あー、旨」
ちょっとだけダミ声になって鹿倉が缶を置いて仰け反る。
「おっさんかよ」
「おっさんだよ、もう。もっさん気付いてた? 今日陸上班俺が一番年上だったんだぜー? そりゃ、指揮する役にもなるっつーの」
鹿倉が言いながら、袖を伸ばして掌を半分隠す。その両手で缶を包み込むように握ると、もう一度飲む。
缶の冷たさを誤魔化す女の子のようなその仕草を見て山本が小さく笑った。
「陸上班、バイトくん達が多かったからね。基本的に社員を労うってのもあったから、しょーがないけど」
「あーでも、マジで自分がおっさん化してる気はするね。こないだは連勤で死ぬかと思った」
「おいおい、まだ二十六だろ? かぐちゃんがおっさんとか言ってたらミネさん達キレるよ?」
「あの人達四十前とかだよね? 全っ然見えねーけど」
「見えない、見えない。俺、立花課長が来年五十って聞いてマジぶっ飛んだ」
山本のセリフに鹿倉が物凄い変顔をした。
「かぐちゃん、ブスだねえ」
「いや、ブスにもなるって。何それ? 知らんかった。総合受付にいるキレーなお嬢ちゃん、立花課長にキャッキャしてたよ、前。どゆこと?」
「ね。あのチーム全員、時間軸おかしいから」
「え、何? 海にずっといると時間の流れって止まっちゃうの?」
「止まんじゃね? もはや、魔法使いだよ、あのチーム」
二人してけらけらと笑う。
「まあでも、かぐちゃんも二十六には見えんよ」
「そお?」
「二十五かな」
「変わらんわ!」
鹿倉が突っ込んで。二人で笑う。
「基本的に、うちの会社って若く見えるヤツが多いよな」
「あ、それはわかる。堀さんも三十過ぎてるようには見えないし。もっさんも、下手したら俺よか年下っぽくね?」
「ぽくねーわ!」
今度は山本が突っ込んで、鼻で笑う。
「そういや、聞いたよ。笠間の結婚式でかぐちゃんがものごっつ可愛かったって」
「えー、何それ?」
「田村と笠間とで踊ったんだろ?」
「何でもっさんが知ってんのさ?」
「経理の女子が動画見せてくれた」
言われて鹿倉は笑いながら顔を隠した。
「マジかよー」
「え、それヘコむトコ?」
「ヘコんでねーし。ただただ、こっぱずかしいだけ」
「いや、でもマジ可愛かったよ。ダンス上手いし。何なら今度デビューする?」
「もっさんのが可愛いし」
酔いと恥ずかしさで眼の縁を赤くして、鹿倉がちょっと膨れて山本を軽く睨んだ。
「あれ、田村の衣装ヤバかったね」
クスクスと笑いながら山本が言う。
「太腿までスリット入ってっからね、あれ。誰が喜ぶんだっつの」
「意外に笠間がキュートで、恥ずかしがってるトコが笑えた」
「あいつが一番中身女子だったよ。なんか、嫁の下着まで付けてたってのがもう、ガチかっつの」
いよいよ爆笑した山本がひとしきり笑った次の瞬間、
「でも一番可愛かったのはかぐちゃんだよ」
と、笑いを止めて言うから。
鹿倉が一瞬固まった。
長峰の言葉に甘えるのもアリだが、山本が河岸を変えるというならそれに付き合うつもりで鹿倉が訊いた。
「そーだなー……かぐちゃん、俺んち来る?」
山本が少し考えた様子を見せて言う。
この店からもそう遠くないし、鹿倉には勿論断る理由なんてないから。
「わーい、行く行くー」
「んじゃ、コンビニ寄ろ」
そうして二人で話しながら歩く。
大きな月が出ていて、山本のマンションへ向かう道はそんなに人通りがあるわけではないが、街灯と月明かりだけでもかなり明るい。
「今日はさ、晴れてたから良かったってのもあるよね」
鹿倉が月を見上げて言った。
朝から晴天に恵まれ、内海とは言え潮が穏やかだったことも今日のイベント成功の一因で。
「あるある。デッキで生オケなんてかなり挑戦的なリクエストだったからね。受けるミネさんもミネさんだけど」
「ま、悪天候だったら中でそのスペースは確保してたみたいだけど。あんな博打うっちゃうトコがミネさんらしい」
「あの人、天気操れんじゃねーの?」
山本が言うと、鹿倉が「あの人なら有り得る」と笑った。
堀率いる鹿倉たちのチームと、長峰の所属するチームはよく一緒に行動する。平均年齢的には長峰のチームの方が十は上だが、だからこその連携が上手く行くようで、鹿倉と堀があまり年齢を気にせず長峰たちに突っ込んで行くのもあり、大口の企画に入るとこの二チームには壁がなくなることが多い。
そうして二人が今日の反省とかを喋っていると山本のマンションにはすぐに着いた。
一階のコンビニに入ると。
「ビールはね、先週箱買いしてるからいいよ。まあ、かぐちゃんが呑みたいヤツがあれば買うけど。でもつまみは全然ないから」
「知ってる。もっさんも料理しない人だよね」
「全然しないわけじゃねーよ。最近はちょっとだけチャレンジしてるし」
「へー。マジ? 俺、チャレンジすらする気ねーし」
「田村に甘えっぱなしだろ?」
「あいつ、すげーの、マジで。も、今やおかーさんよ?」
「栄養バランスまで考えちゃってる?」
「そ。俺の好き嫌いまで把握してっから、アレ食えコレ食え、うるせーっての」
言いながらも鹿倉がカゴに入れているのはナッツやスルメなどの乾き物で。
「かぐちゃんが食わな過ぎじゃねーの? おまえ今日、店でも殆ど食ってなくない?」
「食ったし。食ってるし」
「ほら、サラダ追加」
「いらねーし! なんで葉っぱが酒のアテになんだよ?」
「野菜食わないとおかーさんに怒られるよ?」
「今日はおかーさん、いませんから」
くふくふと笑いながら会計を済ませると、エレベーターで最上階にある山本の部屋へと向かった。
一階はコンビニだが、二階から上は通常の賃貸マンションらしく、住民専用のエントランスが別に構えてある。
最上階角部屋でベランダからは繁華街が見下ろせるので、男の一人暮らしとしてはそこそこいい物件だ。
鹿倉はどこの家でもそうするようにソファ前のラグにぺたんと座り込んだ。
「あ、ジャケット脱ぐ?」
「ん。もっさん、スウェットとか借りれる?」
「寛ぐねえ」
山本が笑いながら、黒い上下のスウェットを手渡した。
「ちょっと大きいかな、かぐちゃんには」
「大は小を兼ねる」
言って、バスルームへ向かった。
目の前で着替える、というのもアリかとは思ったが。無意識の中、どこかがそれに抵抗を感じているようで。
それを明確化するつもりはなかったので、さらっと着替えて戻る。
「あ、マジで何か作ろうとしてる?」
キッチンに立っていた山本に近付いた。
「してない、してない。さっき買ったサラダに冷凍唐揚げレンチンして乗っけただけ」
「野菜食わそうとしてる?」
「してるしてる」
「そんなんしなくても、別に野菜嫌いなわけじゃねーし。もっさんまでかーちゃんかよ?」
言いながらもその皿をソファ前のローテーブルへと運ぶ。
「ビールでいい?」
「ビールがいい」
冷蔵庫からビールの缶を二本持って、山本が鹿倉の後を追った。
テーブルを挟んで鹿倉の向かい側に山本が座る。缶をぶつけて「おつ」とだけ言って、二人でくいっと煽った。
「あー、旨」
ちょっとだけダミ声になって鹿倉が缶を置いて仰け反る。
「おっさんかよ」
「おっさんだよ、もう。もっさん気付いてた? 今日陸上班俺が一番年上だったんだぜー? そりゃ、指揮する役にもなるっつーの」
鹿倉が言いながら、袖を伸ばして掌を半分隠す。その両手で缶を包み込むように握ると、もう一度飲む。
缶の冷たさを誤魔化す女の子のようなその仕草を見て山本が小さく笑った。
「陸上班、バイトくん達が多かったからね。基本的に社員を労うってのもあったから、しょーがないけど」
「あーでも、マジで自分がおっさん化してる気はするね。こないだは連勤で死ぬかと思った」
「おいおい、まだ二十六だろ? かぐちゃんがおっさんとか言ってたらミネさん達キレるよ?」
「あの人達四十前とかだよね? 全っ然見えねーけど」
「見えない、見えない。俺、立花課長が来年五十って聞いてマジぶっ飛んだ」
山本のセリフに鹿倉が物凄い変顔をした。
「かぐちゃん、ブスだねえ」
「いや、ブスにもなるって。何それ? 知らんかった。総合受付にいるキレーなお嬢ちゃん、立花課長にキャッキャしてたよ、前。どゆこと?」
「ね。あのチーム全員、時間軸おかしいから」
「え、何? 海にずっといると時間の流れって止まっちゃうの?」
「止まんじゃね? もはや、魔法使いだよ、あのチーム」
二人してけらけらと笑う。
「まあでも、かぐちゃんも二十六には見えんよ」
「そお?」
「二十五かな」
「変わらんわ!」
鹿倉が突っ込んで。二人で笑う。
「基本的に、うちの会社って若く見えるヤツが多いよな」
「あ、それはわかる。堀さんも三十過ぎてるようには見えないし。もっさんも、下手したら俺よか年下っぽくね?」
「ぽくねーわ!」
今度は山本が突っ込んで、鼻で笑う。
「そういや、聞いたよ。笠間の結婚式でかぐちゃんがものごっつ可愛かったって」
「えー、何それ?」
「田村と笠間とで踊ったんだろ?」
「何でもっさんが知ってんのさ?」
「経理の女子が動画見せてくれた」
言われて鹿倉は笑いながら顔を隠した。
「マジかよー」
「え、それヘコむトコ?」
「ヘコんでねーし。ただただ、こっぱずかしいだけ」
「いや、でもマジ可愛かったよ。ダンス上手いし。何なら今度デビューする?」
「もっさんのが可愛いし」
酔いと恥ずかしさで眼の縁を赤くして、鹿倉がちょっと膨れて山本を軽く睨んだ。
「あれ、田村の衣装ヤバかったね」
クスクスと笑いながら山本が言う。
「太腿までスリット入ってっからね、あれ。誰が喜ぶんだっつの」
「意外に笠間がキュートで、恥ずかしがってるトコが笑えた」
「あいつが一番中身女子だったよ。なんか、嫁の下着まで付けてたってのがもう、ガチかっつの」
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