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キュートなSF、悪魔な親友
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鹿倉と堀がイチャイチャしている。
という毎度お馴染みの状況を、焼酎のお湯割りをチビチビと呑みながら山本は観察していた。
大きな山が片付いた堀と鹿倉に、山本が声をかけて打ち上げがてら一緒に呑もうと誘ったのだ。
「はい、堀さん。あーんして」
「んん? 何コレ?」
「わさびずしー」
わざとわさびをてんこ盛りにした寿司を堀の口に放り込んで、「ぶっふぉお!!」と噎せて咳き込んだ堀を見て爆笑している悪い鹿倉。そんな、ふざけた光景ではあるが、どこからどう見ても鹿倉と堀がイチャついているとしか見えない。
「かぐう、おまえ、何すんだよお」
「んじゃ、つぎこっちー」
今度は熱々の鍋から取り出した白滝を「あーん」と堀の口に突っ込み。
「うわっち、アチっ!」
ふひゃふひゃと笑っている鹿倉が信じられない山本は、眉を顰める。
「もっさんも、いる?」
黙っている山本に、鹿倉がいつものくふくふ笑いをしながら、お皿のつみれを箸でつまんでみせる。
「……まじで、堀さんのことそーゆー扱いできるかぐが信じらんない」
「へ?」
楽しくなったのかやたらとハイペースで呑んでいた堀は既に酔ってへろへろで、自分の皿の豆腐を掴みきれなくて箸で刻みまくっているのだが、横から鹿倉に「あーん」と言われる度に律義にそれを口に入れていて。
「ほらほら。じゃ、次コレねー」
そして再び鍋から直接なにやら白い塊を取って堀の口に放り込み。
懲りずに「アチ、アチ」と暴れている堀は、怒ることもなく楽しそうで。
「俺、堀さんのこと尊敬してんだけど」
「そんなん、俺だってソンケーしまくりだよー。はい、次」
全く敬っているとは思えない態度で、堀の口にまた熱々の豆腐を突っ込んだ。
「うあっつっ! 熱っ」
「ほらほら。こぼしちゃダメじゃん」
とおしぼりで堀の口元を拭ってやる。嬉しそうにされるがままの堀がふにゃふにゃ笑っていて。
「……意味わからん」
「あー、もっさんヤキモチー? もっさんもほら、やってみ。堀さん何でも食べてくれるから」
「そーゆートコ。まじ信じられん」
口の中が熱くて仕方ないのか、手元にあった鹿倉のハイボールを一気飲みした堀は、ついに机に突っ伏して眠ってしまった。
「あーあ、もう。こんなトコで寝たら風邪ひいちゃうよー」
鹿倉が言いながら、ハンガーにかけていた自分のジャケットを堀の肩にかけた。
「……かぐちゃん、酔ってないんじゃない?」
「酔ってない、とは言い切れない。けど、堀さんがこんなになっちゃったから、俺まで潰れたらもっさん大変じゃん」
言われてみれば、鹿倉がさっきからアルコールではなくウーロン茶しか飲んでいないことに気付いた。
「俺ね、ずーっと堀さん口説いてんだけど、絶対にのってくんないんだよね」
おつ、と新たに来たウーロン茶のグラスを山本の焼酎にぶつける。
「口説くって……」
「二人で呑み、行こってゆってんだけどいつもフられる」
「え? 二人で呑んだことないの?」
「ないよー。大抵誰かいるし。別に取って食うわけじゃないんだからさー、たまにはいいじゃんって言ってんのに、いつも何かっちゃー逃げんの、この人」
眠っている堀の頬を人差し指でふにふにと突っつきながら鹿倉が口を尖らせた。
「みんなさー、俺と堀さん仲良しだよねーって言ってくれるのに、ほんとは堀さん俺のこと避けてんのかなーとか、思っちゃうわけよ」
「……えっと。かぐちゃん、堀さんのことスキなの?」
「好きだよー、ほんと、大好き。仕事デキんのに鼻にかけないし、俺がどんだけふざけても怒んないし」
山本が二の句を告げなくなった。
鹿倉は本気で堀に惚れてる、ということなのか?と衝撃を受けてしまったのだ。
「うちのチームってさ、みんなして俺と田村のこと育てようとしてくれてるじゃん? それがすごい、嬉しい。大事にされてるなーって思うし」
「そりゃ……まあ、大事だよ。仲間だし」
「うん。でね。そーゆーウチのチームの優しい雰囲気って全部この人が作ってんだろーなーって思うとさ、尊敬以外の何物でもない」
鹿倉の目が、本当に愛おしげに堀を見ているから。
山本は黙ったまま焼酎を飲むしかできなくなる。
「あ。ごめん、ゆっとくけど俺、もっさんも大好きだよ?」
「何だよいきなり」
「いや、何か黙っちゃったから」
「え?」
「こないだねー、志麻さんにも好きってゆったら、じゃあ付き合おっかーってなったのね。だから志麻さん、俺の彼氏ー」
「……なにそれ?」
くふくふと笑いながら鹿倉が言う。
「だからあ。堀さんも、もっさんも志麻さんも、ついでに田村も大好きだよってこと」
そう言って、「やーん、はーずかしーい」なんて全然思っていない顔で続け、山本に微笑みかけた。
「かぐちゃんさ、どこまで本気で喋ってる?」
へらへら笑っているから真意が掴めない。山本がストレートに問うと。
「いつだって本気で喋ってるよお?」
「たまには、ほんとの話、したいんだけど」
「じゃ、この後二人で呑みなおす?」
鹿倉がきゅるんと瞳を輝かせて誘ってきた。
どこまでが本気なのかわからなくて、山本はただゴクリと生唾を飲んでしまう。
「なーんて。堀さんと違ってもっさんなら口説かれてくれるかなって」
鼻の奥でふざけたようにくふくふと笑いながら言うから、
「かぐちゃん、なら今度ほんとに二人でサシ呑みしよ。しっかりおまえの本音、聞き出してやっから」
わざとニヤリと嗤って、自分を取り戻すように返した。
「んふ。お手柔らかにね」
鹿倉の綺麗なウィンクがまた、驚異的に山本の心を擽って。
負けてたまるか、と手元の焼酎をぐっと煽った。
という毎度お馴染みの状況を、焼酎のお湯割りをチビチビと呑みながら山本は観察していた。
大きな山が片付いた堀と鹿倉に、山本が声をかけて打ち上げがてら一緒に呑もうと誘ったのだ。
「はい、堀さん。あーんして」
「んん? 何コレ?」
「わさびずしー」
わざとわさびをてんこ盛りにした寿司を堀の口に放り込んで、「ぶっふぉお!!」と噎せて咳き込んだ堀を見て爆笑している悪い鹿倉。そんな、ふざけた光景ではあるが、どこからどう見ても鹿倉と堀がイチャついているとしか見えない。
「かぐう、おまえ、何すんだよお」
「んじゃ、つぎこっちー」
今度は熱々の鍋から取り出した白滝を「あーん」と堀の口に突っ込み。
「うわっち、アチっ!」
ふひゃふひゃと笑っている鹿倉が信じられない山本は、眉を顰める。
「もっさんも、いる?」
黙っている山本に、鹿倉がいつものくふくふ笑いをしながら、お皿のつみれを箸でつまんでみせる。
「……まじで、堀さんのことそーゆー扱いできるかぐが信じらんない」
「へ?」
楽しくなったのかやたらとハイペースで呑んでいた堀は既に酔ってへろへろで、自分の皿の豆腐を掴みきれなくて箸で刻みまくっているのだが、横から鹿倉に「あーん」と言われる度に律義にそれを口に入れていて。
「ほらほら。じゃ、次コレねー」
そして再び鍋から直接なにやら白い塊を取って堀の口に放り込み。
懲りずに「アチ、アチ」と暴れている堀は、怒ることもなく楽しそうで。
「俺、堀さんのこと尊敬してんだけど」
「そんなん、俺だってソンケーしまくりだよー。はい、次」
全く敬っているとは思えない態度で、堀の口にまた熱々の豆腐を突っ込んだ。
「うあっつっ! 熱っ」
「ほらほら。こぼしちゃダメじゃん」
とおしぼりで堀の口元を拭ってやる。嬉しそうにされるがままの堀がふにゃふにゃ笑っていて。
「……意味わからん」
「あー、もっさんヤキモチー? もっさんもほら、やってみ。堀さん何でも食べてくれるから」
「そーゆートコ。まじ信じられん」
口の中が熱くて仕方ないのか、手元にあった鹿倉のハイボールを一気飲みした堀は、ついに机に突っ伏して眠ってしまった。
「あーあ、もう。こんなトコで寝たら風邪ひいちゃうよー」
鹿倉が言いながら、ハンガーにかけていた自分のジャケットを堀の肩にかけた。
「……かぐちゃん、酔ってないんじゃない?」
「酔ってない、とは言い切れない。けど、堀さんがこんなになっちゃったから、俺まで潰れたらもっさん大変じゃん」
言われてみれば、鹿倉がさっきからアルコールではなくウーロン茶しか飲んでいないことに気付いた。
「俺ね、ずーっと堀さん口説いてんだけど、絶対にのってくんないんだよね」
おつ、と新たに来たウーロン茶のグラスを山本の焼酎にぶつける。
「口説くって……」
「二人で呑み、行こってゆってんだけどいつもフられる」
「え? 二人で呑んだことないの?」
「ないよー。大抵誰かいるし。別に取って食うわけじゃないんだからさー、たまにはいいじゃんって言ってんのに、いつも何かっちゃー逃げんの、この人」
眠っている堀の頬を人差し指でふにふにと突っつきながら鹿倉が口を尖らせた。
「みんなさー、俺と堀さん仲良しだよねーって言ってくれるのに、ほんとは堀さん俺のこと避けてんのかなーとか、思っちゃうわけよ」
「……えっと。かぐちゃん、堀さんのことスキなの?」
「好きだよー、ほんと、大好き。仕事デキんのに鼻にかけないし、俺がどんだけふざけても怒んないし」
山本が二の句を告げなくなった。
鹿倉は本気で堀に惚れてる、ということなのか?と衝撃を受けてしまったのだ。
「うちのチームってさ、みんなして俺と田村のこと育てようとしてくれてるじゃん? それがすごい、嬉しい。大事にされてるなーって思うし」
「そりゃ……まあ、大事だよ。仲間だし」
「うん。でね。そーゆーウチのチームの優しい雰囲気って全部この人が作ってんだろーなーって思うとさ、尊敬以外の何物でもない」
鹿倉の目が、本当に愛おしげに堀を見ているから。
山本は黙ったまま焼酎を飲むしかできなくなる。
「あ。ごめん、ゆっとくけど俺、もっさんも大好きだよ?」
「何だよいきなり」
「いや、何か黙っちゃったから」
「え?」
「こないだねー、志麻さんにも好きってゆったら、じゃあ付き合おっかーってなったのね。だから志麻さん、俺の彼氏ー」
「……なにそれ?」
くふくふと笑いながら鹿倉が言う。
「だからあ。堀さんも、もっさんも志麻さんも、ついでに田村も大好きだよってこと」
そう言って、「やーん、はーずかしーい」なんて全然思っていない顔で続け、山本に微笑みかけた。
「かぐちゃんさ、どこまで本気で喋ってる?」
へらへら笑っているから真意が掴めない。山本がストレートに問うと。
「いつだって本気で喋ってるよお?」
「たまには、ほんとの話、したいんだけど」
「じゃ、この後二人で呑みなおす?」
鹿倉がきゅるんと瞳を輝かせて誘ってきた。
どこまでが本気なのかわからなくて、山本はただゴクリと生唾を飲んでしまう。
「なーんて。堀さんと違ってもっさんなら口説かれてくれるかなって」
鼻の奥でふざけたようにくふくふと笑いながら言うから、
「かぐちゃん、なら今度ほんとに二人でサシ呑みしよ。しっかりおまえの本音、聞き出してやっから」
わざとニヤリと嗤って、自分を取り戻すように返した。
「んふ。お手柔らかにね」
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負けてたまるか、と手元の焼酎をぐっと煽った。
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