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キュートなSF、悪魔な親友
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うっとりと目を閉じた鹿倉の。
白い頬を、志麻の細長い指が辿っている。そして、その目が愛おしさに溢れていて。
まるで、映画のワンシーンのようなその絵面があまりにも美しくて。
田村はリビングの扉をそっと閉めた。
何だろう、今のは。と。自分の見たものが信じられなくて。
近くのコンビニで、とりあえず缶ビール数本とサキイカなどの乾き物、そして鹿倉リクエストのアイスと志麻もいるかな、と数種類のアイスもついでに買って。
どうせ二人が堀の話で盛り上がっているのだろうと、リビングの扉を開けた瞬間、視界に飛び込んできたその光景が。
たまたま流れていたBGMが、まるでそのシーンを説明しているかのようなラブソングだったから余計にその絵を彩っていて。
腰が抜けたかのように、田村はその場に座り込んだ。
自分は一体、何を目にしたのだろうか?
いつの間にか、鹿倉が志麻とイイ関係になってたとか?
まさか、鹿倉が本気で志麻を口説いたのか?
いやいやそんなこと、鹿倉がするはずがない。
ぐるぐると二人のラブシーンが頭の中を駆け巡り、今扉の向こうで一体どんなことが繰り広げられているのか。
それを想像するともう、頭を抱えてしまって。
動けないままでいた。
が。
「うっわー!! ソラー!!」
リビングから聞こえてきた鹿倉の悲鳴に、我に返る。
「……どした?」
扉を開けると、どうやらローテーブルにあった刺身を採ろうとしたソラが、飛び乗った瞬間にビールの缶を蹴り倒したらしく、ラグにビールをぶちまけていた。
「うわー。まじかー」
田村が呟きながら、キッチンペーパーをホルダーから取って駆け寄る。
「ソラちゃーん、もお。刺身ならやるから、テーブルに乗っちゃダメだろお」
鹿倉が言うと、獲物を咥えたソラは、田村が開けた扉から逃げ出していて。
そんな二人の様子を見ながら、志麻はくふくふと笑っていた。
「二人とも、子供の躾が甘すぎる親だよ、まじで」
「だって、普段俺たちの食ってる物になんて全然興味示さないんだよー、ソラって」
と、鹿倉が田村と一緒にペーパーでラグの水分を拭き取りながら反論。
「ダメだ、コレ。クリーニング出さないと」
「俺、ここ定位置だったのに」
毛足の長いラグの上にぺたんと座っているのがいつもの鹿倉だったので、そう言って口を尖らせた。
「しょーがない。もうあっちに移動しよう」
田村はそう言って、ローテーブルの上の料理をダイニングテーブルへと運んだ。
「かぐが食べないからウチであんまり出さないし、刺身が珍しいんだろうね」
「あ、そっか。かぐちゃん生もの苦手だっけ?」
「うん。それに、基本的に食べるのはダイニングテーブルだし。ソラ、楽しくなっちゃったんだね、きっと」
「あー。アヒージョ、冷めまくってんな。ちょい、あっため直すから二人で食ってて」
場所を変え、四人掛けダイニングテーブルの、志麻の隣にぺったりと鹿倉が座る。
「……何で、そこ、くっつくの?」
カウンターキッチンだから、目の前でイチャつかれるのはちょっとイラつく。
田村が眉根を寄せて鹿倉に問うと。
「だって俺、志麻さん好きだもん」
「俺もかぐちゃん、好きだもん」
鹿倉が志麻の腕に自分の腕を絡ませて言うと、志麻も鹿倉の頭に自分の頭をくっつけて。
「ねー」
と、くふくふ笑う。
「あのまま田村が帰って来なかったら、俺志麻さんにちゅーできてたのになー」
「かぐちゃん、それはナイショ」
「……俺はジャマでしたか」
「てか、ソラちゃんにジャマされたよね。ソラちゃんも、大好きなかぐちゃんだからジャマしたかったんじゃない?」
「ソラは弁えてくれるコだと思ってたけどー」
いつも、田村と鹿倉の行為の最中は基本的に邪魔をするコじゃないから。ビールに飽きた鹿倉がアイスを食べながら言うと、
「かぐちゃんが浮気してるって思ったんじゃない?」
志麻がニヤリと笑う。
さっきの光景が気になって、田村が
「……何してたのさ?」
と訊くと。
「ヒ・ミ・ツ」
鹿倉がまた、悪い顔でウィンクをする。
「かぐちゃん、ウィンク上手だねえ。いつもそれやって好きな子オとすの?」
「うん。でも志麻さん、オちないし」
「オちてるよー」
「だから! 目の前でイチャイチャすんなってば」
温め直したスキレットをダイニングテーブルの上に置き、田村が鹿倉を睨んだ。
「ほんと、たむちゃんって料理凄いね。昔から上手いの?」
くつくつと煮立っているオイルの中から厚切りベーコンを箸で突き刺して志麻が訊いた。
「上手いかどーかはアレだけど、料理は好きっスねー。親が忙しかったから、時々実家でもやってたし」
「田村んちって、地元で何軒かレストランやってんの。だからお父さんの影響だよね?」
鹿倉も、添えてあったバゲットをオイルに浸して齧る。「んま」と一言呟いて。
「へえ、そーなんだ? あ、じゃあ跡継ぐの?」
「継がない継がない。俺、弟いるから。今どっかで修行してるけど、そのうち継ぐって」
「いいの?」
「俺のは趣味だから。親父とか弟みたいに、突き詰めたりはできねーなーって思ったから。こうやって、誰かが旨いって食ってくれるだけでいいと思ってる」
「だから俺がいつも旨いって食べてやってんの」
「いや。かぐはあんまし食ってくれねーけど」
「食ってんじゃん」
「おまえ、殆どつっつくだけじゃん。好き嫌い激しいし。サラダ食った?」
「食ったしー。キノコも食うしー」
アヒージョの中から、マッシュルームを掘り起こして口に入れた。
「かぐちゃん、好き嫌い激しいし、運動嫌いだし、めんどくさいつって手入れも何もしてないのに、なんでそんなにお肌つるつるなの?」
志麻が言って、鹿倉の頬を撫でた。
それは、先ほど田村が固まってしまった光景と同じで。
「愛されてるからかなー」
しれっとそんな答えを返し、鹿倉はきゅるんと瞳を輝かせる。
「いいねえ」
志麻もにやりと笑う。
鹿倉に彼女がいる、と信じているだろうから恐らく、想像の中ではさぞかし可愛い女の子と愛し合っているのだろうが。
田村は存分にその肌を味わっている身として、少し照れた。
「何で田村がにやにやしてんのさ? 何? 志麻さんの裸でも想像した?」
「え? 俺? 脱いで見せようか?」
「何でだよ!」
志麻のすっとぼけた返しに、鹿倉が爆笑した。
白い頬を、志麻の細長い指が辿っている。そして、その目が愛おしさに溢れていて。
まるで、映画のワンシーンのようなその絵面があまりにも美しくて。
田村はリビングの扉をそっと閉めた。
何だろう、今のは。と。自分の見たものが信じられなくて。
近くのコンビニで、とりあえず缶ビール数本とサキイカなどの乾き物、そして鹿倉リクエストのアイスと志麻もいるかな、と数種類のアイスもついでに買って。
どうせ二人が堀の話で盛り上がっているのだろうと、リビングの扉を開けた瞬間、視界に飛び込んできたその光景が。
たまたま流れていたBGMが、まるでそのシーンを説明しているかのようなラブソングだったから余計にその絵を彩っていて。
腰が抜けたかのように、田村はその場に座り込んだ。
自分は一体、何を目にしたのだろうか?
いつの間にか、鹿倉が志麻とイイ関係になってたとか?
まさか、鹿倉が本気で志麻を口説いたのか?
いやいやそんなこと、鹿倉がするはずがない。
ぐるぐると二人のラブシーンが頭の中を駆け巡り、今扉の向こうで一体どんなことが繰り広げられているのか。
それを想像するともう、頭を抱えてしまって。
動けないままでいた。
が。
「うっわー!! ソラー!!」
リビングから聞こえてきた鹿倉の悲鳴に、我に返る。
「……どした?」
扉を開けると、どうやらローテーブルにあった刺身を採ろうとしたソラが、飛び乗った瞬間にビールの缶を蹴り倒したらしく、ラグにビールをぶちまけていた。
「うわー。まじかー」
田村が呟きながら、キッチンペーパーをホルダーから取って駆け寄る。
「ソラちゃーん、もお。刺身ならやるから、テーブルに乗っちゃダメだろお」
鹿倉が言うと、獲物を咥えたソラは、田村が開けた扉から逃げ出していて。
そんな二人の様子を見ながら、志麻はくふくふと笑っていた。
「二人とも、子供の躾が甘すぎる親だよ、まじで」
「だって、普段俺たちの食ってる物になんて全然興味示さないんだよー、ソラって」
と、鹿倉が田村と一緒にペーパーでラグの水分を拭き取りながら反論。
「ダメだ、コレ。クリーニング出さないと」
「俺、ここ定位置だったのに」
毛足の長いラグの上にぺたんと座っているのがいつもの鹿倉だったので、そう言って口を尖らせた。
「しょーがない。もうあっちに移動しよう」
田村はそう言って、ローテーブルの上の料理をダイニングテーブルへと運んだ。
「かぐが食べないからウチであんまり出さないし、刺身が珍しいんだろうね」
「あ、そっか。かぐちゃん生もの苦手だっけ?」
「うん。それに、基本的に食べるのはダイニングテーブルだし。ソラ、楽しくなっちゃったんだね、きっと」
「あー。アヒージョ、冷めまくってんな。ちょい、あっため直すから二人で食ってて」
場所を変え、四人掛けダイニングテーブルの、志麻の隣にぺったりと鹿倉が座る。
「……何で、そこ、くっつくの?」
カウンターキッチンだから、目の前でイチャつかれるのはちょっとイラつく。
田村が眉根を寄せて鹿倉に問うと。
「だって俺、志麻さん好きだもん」
「俺もかぐちゃん、好きだもん」
鹿倉が志麻の腕に自分の腕を絡ませて言うと、志麻も鹿倉の頭に自分の頭をくっつけて。
「ねー」
と、くふくふ笑う。
「あのまま田村が帰って来なかったら、俺志麻さんにちゅーできてたのになー」
「かぐちゃん、それはナイショ」
「……俺はジャマでしたか」
「てか、ソラちゃんにジャマされたよね。ソラちゃんも、大好きなかぐちゃんだからジャマしたかったんじゃない?」
「ソラは弁えてくれるコだと思ってたけどー」
いつも、田村と鹿倉の行為の最中は基本的に邪魔をするコじゃないから。ビールに飽きた鹿倉がアイスを食べながら言うと、
「かぐちゃんが浮気してるって思ったんじゃない?」
志麻がニヤリと笑う。
さっきの光景が気になって、田村が
「……何してたのさ?」
と訊くと。
「ヒ・ミ・ツ」
鹿倉がまた、悪い顔でウィンクをする。
「かぐちゃん、ウィンク上手だねえ。いつもそれやって好きな子オとすの?」
「うん。でも志麻さん、オちないし」
「オちてるよー」
「だから! 目の前でイチャイチャすんなってば」
温め直したスキレットをダイニングテーブルの上に置き、田村が鹿倉を睨んだ。
「ほんと、たむちゃんって料理凄いね。昔から上手いの?」
くつくつと煮立っているオイルの中から厚切りベーコンを箸で突き刺して志麻が訊いた。
「上手いかどーかはアレだけど、料理は好きっスねー。親が忙しかったから、時々実家でもやってたし」
「田村んちって、地元で何軒かレストランやってんの。だからお父さんの影響だよね?」
鹿倉も、添えてあったバゲットをオイルに浸して齧る。「んま」と一言呟いて。
「へえ、そーなんだ? あ、じゃあ跡継ぐの?」
「継がない継がない。俺、弟いるから。今どっかで修行してるけど、そのうち継ぐって」
「いいの?」
「俺のは趣味だから。親父とか弟みたいに、突き詰めたりはできねーなーって思ったから。こうやって、誰かが旨いって食ってくれるだけでいいと思ってる」
「だから俺がいつも旨いって食べてやってんの」
「いや。かぐはあんまし食ってくれねーけど」
「食ってんじゃん」
「おまえ、殆どつっつくだけじゃん。好き嫌い激しいし。サラダ食った?」
「食ったしー。キノコも食うしー」
アヒージョの中から、マッシュルームを掘り起こして口に入れた。
「かぐちゃん、好き嫌い激しいし、運動嫌いだし、めんどくさいつって手入れも何もしてないのに、なんでそんなにお肌つるつるなの?」
志麻が言って、鹿倉の頬を撫でた。
それは、先ほど田村が固まってしまった光景と同じで。
「愛されてるからかなー」
しれっとそんな答えを返し、鹿倉はきゅるんと瞳を輝かせる。
「いいねえ」
志麻もにやりと笑う。
鹿倉に彼女がいる、と信じているだろうから恐らく、想像の中ではさぞかし可愛い女の子と愛し合っているのだろうが。
田村は存分にその肌を味わっている身として、少し照れた。
「何で田村がにやにやしてんのさ? 何? 志麻さんの裸でも想像した?」
「え? 俺? 脱いで見せようか?」
「何でだよ!」
志麻のすっとぼけた返しに、鹿倉が爆笑した。
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