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キュートなSF、悪魔な親友
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「志麻さん、聞いた? 堀さんこないだうっちーパイセンとアキさん連れておもてなし釣り会やったって」
リビングのローテーブルには田村が作ったつまみが並べられていて、鹿倉が着いて間もなく志麻が差し入れと言って刺身を持って現れたので、なかなか豪華な飲み会となっていた。
外では何度も二人になっているけれど、この部屋で二人きりなんて緊張で何も話せないのがわかっているから、二人きりで呑みな、と最初に鹿倉に突き放された時は本気で焦った田村だったが。
ソラを抱いて歩き回りながら必死で鹿倉を説得した後、ほっとすると同時に冷蔵庫とにらめっこして。
簡単に作れるつまみをいくつか用意していると、ちゃんと鹿倉が来てくれたから思わず抱きしめてしまった。
当然そんな場合じゃないから即頭をはたかれたけれど。
「アキさんって、社長の奥様の、あのアキさん?」
「うっちーパイセン、アキさんが辞める時、直に引継ぎ受けてるからあの二人って仲いいんだって。堀さん、結構緊張したーとかゆってたけど、絶対してないね、堀さんのことだから」
「あー、わかる。兄さん船の上では最強だから」
二人が笑いながら話しているのを、田村は複雑な感情で見ていた。
だって、二人のネタが堀だから。
最近、とにかくこの二人が堀の左右を囲っているのが悔しい。
「ハンコ貰いにうっちーパイセンのトコ行ったらさー、またよろしくねって堀さんに伝言頼まれた。あれ、完全にオとされてたよ。オンナの目、してたもん」
鹿倉がわざと目を細めて言うと。
「うひゃー、パイセンご主人もいるのにー」
志麻がテーブルをバシバシと叩きながらへらへら笑った。
「いても関係ないっしょ。もはやアイドルだよ、堀さん」
「老若男女かんけーねーもんなあ。社長も堀さんが使うってなるとあっさり船差し出すもんね。ミネさんが俺より堀ちゃんの名前で船借りた方が早いって言ってた」
“老若男女”がつるっと言える志麻の滑舌の良さに、田村は何気に感心する。
「みんな釣り行くときって、社長のクルーザー借りるんでしょ?」
「そうそう。結構いい船持ってんの、社長」
堀を手放しで褒め称えるのが悔しい。しかも、この二人が、というのがより一層悔しさを倍増させる。
面白くない、と思いつつもそれを口に出せないでいた田村が、黙ってサラダを二人に取り分けた。
「わ! 何コレ、旨!」
差し出された皿から素直に一口食べた志麻が驚いて田村の顔を見た。
「レタスとザーサイのサラダ。こないだ、志麻さんザーサイ好きって言ってたから作ってみた」
自分に興味を示してくれたのが嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。
田村のその表情の変化を鹿倉はしっかりと見ていたようで、さっきからくふくふと笑っている。
「すげーうめえ! もお、マジでたむちゃん、ウチに嫁に来てくれー」
「ダメー。田村は俺の嫁だからー」
「えー。一人占めすんなよー。かぐちゃん、彼女いんだろお?」
志麻の言葉に、鹿倉がほんの一瞬だけ固まったように見えたが、
「あれ、バレた?」
と、しれっと返す。こんな状況でも何食わぬ顔で、息をするように嘘を吐くのが鹿倉である。
「すっげー可愛いんだよね。もお、俺なんかが想像できないくらいピュアピュアで、ボケまくってくれるし、なんたって料理が超絶上手い。最高」
田村を見ながら言う鹿倉の言葉に少し考えていた志麻が、
「……待って。かぐちゃん、それって……」
黙ったまま田村を指差した。
「ねー。めっちゃ可愛いカノジョでしょ?」
「……あんだよー。マジのヤツ、来いよー。恋バナ期待したじゃん」
人を玩具に、二人で遊んでくれるから。
もはや田村には口を挟むスキもなく。
「じゃあ志麻さんの恋バナしよーよお」
「俺には何も、ネタがねーんだよ。俺、今日はかぐちゃんの彼女の話聞けると思ってたのになー」
「残念でした。そーそー簡単には話しません。ね、田村?」
いつものきゅるんとした笑顔を見せる。ここで田村に振るのが悪魔的だとは思うが、
「俺もかぐの話よか、志麻さんの話のが興味ある」
と。そうそう遊ばれてたまるか、と持ち直した。
「俺の話って。そんなん、学生時代にはモテたぞ、っていうクソつまんねー話にしかなんねーんだけど」
「えーでも志麻さん、女の子にきゃあきゃあゆわれんの、好きじゃん」
「そんなん、好きじゃない男なんかいねーだろ。堀さんなんか見てみろよ、敬老イベントで熟女にきゃあきゃあゆわれてふにゃふにゃ嬉しそうに笑ってたぞ」
「あー、わかるわ、それ。あの人守備範囲広いよね。どっかの企業の周年祭企画でも、じじい相手に転がしてたもん」
「マジこえー!」
けらけらと笑い転げている二人を尻目に、田村は冷蔵庫へと向かった。
鹿倉はともかく、志麻が結構な勢いでビールを空けるので、在庫確認。
「あ」
まずい。いつも野菜室にごっそり詰めているビールが空になっている。
「かぐー、おまえ野菜室のビール知らね?」
「えー? こないだ上のを飲み切ったから、そっちのを上に上げといたけど」
「うわ、まじか」
「あれ? ビール足りない? 俺、買いに行ってくるよ?」
「いやいや。志麻さんはお客さんだから、いいっス。かぐ、行ってきて」
「俺もお客さんだから」
「何が客だ、ばーか。おまえにとっちゃほぼ我が家状態じゃねーか」
「じゃあ、じゃんけん!」
「何で!」
「はい、最初はグー、じゃんけんポイっ」
言うが早いか、秒で田村が負けた。
「俺ねー、アイス食べたい。チョコのヤツ」
「はあ?」
「いいじゃん、ついでついで。そこのローソンだろ? ハーゲンダッツのとかは言わないから」
「ゆってんじゃん!」
へらへらと笑いながら、玄関へと向かう田村の後を鹿倉が追う。
「おまえ、志麻さんと二人になってから、俺のこととか言うなよ?」
志麻がついてきていなかったので、コソコソと鹿倉に釘を刺す。
「じゃあ、代わりに俺が志麻さん口説いとく」
「それもナシ! いいから、頼むからいらんこと言わんでくれ」
「いらんことは言わんけど、いることはゆっとく」
「何だよ、それは」
「田村にはヒミツー」
「……やっぱ、おまえが買い出し行けや!」
「じゃねー、行ってらっしゃーい」
田村の抵抗も虚しく、毎度の如く鹿倉がもの凄く可愛いウィンクをきっちり決め、玄関の扉を閉じた。
リビングのローテーブルには田村が作ったつまみが並べられていて、鹿倉が着いて間もなく志麻が差し入れと言って刺身を持って現れたので、なかなか豪華な飲み会となっていた。
外では何度も二人になっているけれど、この部屋で二人きりなんて緊張で何も話せないのがわかっているから、二人きりで呑みな、と最初に鹿倉に突き放された時は本気で焦った田村だったが。
ソラを抱いて歩き回りながら必死で鹿倉を説得した後、ほっとすると同時に冷蔵庫とにらめっこして。
簡単に作れるつまみをいくつか用意していると、ちゃんと鹿倉が来てくれたから思わず抱きしめてしまった。
当然そんな場合じゃないから即頭をはたかれたけれど。
「アキさんって、社長の奥様の、あのアキさん?」
「うっちーパイセン、アキさんが辞める時、直に引継ぎ受けてるからあの二人って仲いいんだって。堀さん、結構緊張したーとかゆってたけど、絶対してないね、堀さんのことだから」
「あー、わかる。兄さん船の上では最強だから」
二人が笑いながら話しているのを、田村は複雑な感情で見ていた。
だって、二人のネタが堀だから。
最近、とにかくこの二人が堀の左右を囲っているのが悔しい。
「ハンコ貰いにうっちーパイセンのトコ行ったらさー、またよろしくねって堀さんに伝言頼まれた。あれ、完全にオとされてたよ。オンナの目、してたもん」
鹿倉がわざと目を細めて言うと。
「うひゃー、パイセンご主人もいるのにー」
志麻がテーブルをバシバシと叩きながらへらへら笑った。
「いても関係ないっしょ。もはやアイドルだよ、堀さん」
「老若男女かんけーねーもんなあ。社長も堀さんが使うってなるとあっさり船差し出すもんね。ミネさんが俺より堀ちゃんの名前で船借りた方が早いって言ってた」
“老若男女”がつるっと言える志麻の滑舌の良さに、田村は何気に感心する。
「みんな釣り行くときって、社長のクルーザー借りるんでしょ?」
「そうそう。結構いい船持ってんの、社長」
堀を手放しで褒め称えるのが悔しい。しかも、この二人が、というのがより一層悔しさを倍増させる。
面白くない、と思いつつもそれを口に出せないでいた田村が、黙ってサラダを二人に取り分けた。
「わ! 何コレ、旨!」
差し出された皿から素直に一口食べた志麻が驚いて田村の顔を見た。
「レタスとザーサイのサラダ。こないだ、志麻さんザーサイ好きって言ってたから作ってみた」
自分に興味を示してくれたのが嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。
田村のその表情の変化を鹿倉はしっかりと見ていたようで、さっきからくふくふと笑っている。
「すげーうめえ! もお、マジでたむちゃん、ウチに嫁に来てくれー」
「ダメー。田村は俺の嫁だからー」
「えー。一人占めすんなよー。かぐちゃん、彼女いんだろお?」
志麻の言葉に、鹿倉がほんの一瞬だけ固まったように見えたが、
「あれ、バレた?」
と、しれっと返す。こんな状況でも何食わぬ顔で、息をするように嘘を吐くのが鹿倉である。
「すっげー可愛いんだよね。もお、俺なんかが想像できないくらいピュアピュアで、ボケまくってくれるし、なんたって料理が超絶上手い。最高」
田村を見ながら言う鹿倉の言葉に少し考えていた志麻が、
「……待って。かぐちゃん、それって……」
黙ったまま田村を指差した。
「ねー。めっちゃ可愛いカノジョでしょ?」
「……あんだよー。マジのヤツ、来いよー。恋バナ期待したじゃん」
人を玩具に、二人で遊んでくれるから。
もはや田村には口を挟むスキもなく。
「じゃあ志麻さんの恋バナしよーよお」
「俺には何も、ネタがねーんだよ。俺、今日はかぐちゃんの彼女の話聞けると思ってたのになー」
「残念でした。そーそー簡単には話しません。ね、田村?」
いつものきゅるんとした笑顔を見せる。ここで田村に振るのが悪魔的だとは思うが、
「俺もかぐの話よか、志麻さんの話のが興味ある」
と。そうそう遊ばれてたまるか、と持ち直した。
「俺の話って。そんなん、学生時代にはモテたぞ、っていうクソつまんねー話にしかなんねーんだけど」
「えーでも志麻さん、女の子にきゃあきゃあゆわれんの、好きじゃん」
「そんなん、好きじゃない男なんかいねーだろ。堀さんなんか見てみろよ、敬老イベントで熟女にきゃあきゃあゆわれてふにゃふにゃ嬉しそうに笑ってたぞ」
「あー、わかるわ、それ。あの人守備範囲広いよね。どっかの企業の周年祭企画でも、じじい相手に転がしてたもん」
「マジこえー!」
けらけらと笑い転げている二人を尻目に、田村は冷蔵庫へと向かった。
鹿倉はともかく、志麻が結構な勢いでビールを空けるので、在庫確認。
「あ」
まずい。いつも野菜室にごっそり詰めているビールが空になっている。
「かぐー、おまえ野菜室のビール知らね?」
「えー? こないだ上のを飲み切ったから、そっちのを上に上げといたけど」
「うわ、まじか」
「あれ? ビール足りない? 俺、買いに行ってくるよ?」
「いやいや。志麻さんはお客さんだから、いいっス。かぐ、行ってきて」
「俺もお客さんだから」
「何が客だ、ばーか。おまえにとっちゃほぼ我が家状態じゃねーか」
「じゃあ、じゃんけん!」
「何で!」
「はい、最初はグー、じゃんけんポイっ」
言うが早いか、秒で田村が負けた。
「俺ねー、アイス食べたい。チョコのヤツ」
「はあ?」
「いいじゃん、ついでついで。そこのローソンだろ? ハーゲンダッツのとかは言わないから」
「ゆってんじゃん!」
へらへらと笑いながら、玄関へと向かう田村の後を鹿倉が追う。
「おまえ、志麻さんと二人になってから、俺のこととか言うなよ?」
志麻がついてきていなかったので、コソコソと鹿倉に釘を刺す。
「じゃあ、代わりに俺が志麻さん口説いとく」
「それもナシ! いいから、頼むからいらんこと言わんでくれ」
「いらんことは言わんけど、いることはゆっとく」
「何だよ、それは」
「田村にはヒミツー」
「……やっぱ、おまえが買い出し行けや!」
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