キュートなSF、悪魔な親友

月那

文字の大きさ
28 / 76
-28-

キュートなSF、悪魔な親友

しおりを挟む
「つっ……かれたー」
 鹿倉が言って、リビングの隅に引き出物の大きな袋と余興で使用した衣装や小道具の入ったキャリーケースを置くと、いつもの定位置であるソファ前のラグにころんと横になった。
「お疲れー……」
 そして田村も、同じ荷物を同じように並べ、ソファの上にごろんと横たわる。
 そのまま、二人して黙ったまま死体のように転がっていて。
 ソラが二人の死体を鼻で擽りに来たが、構ってもらえないことがわかったのかそのまま水を飲みに行ってしまった。
 今日は、二人の同期である笠間の結婚式だった。
 笠間は営業部、新婦である深山が経理部ということで、それぞれの部署からの披露宴参列者は大勢いたが、企画部からは二人だけしかいなくて。
 ただ、二人はイベント企画のプロである。
 ほぼほぼ会社メンバーだけになった二次会において、新郎である笠間と三人で超ハイクオリティな女装を決めると、その姿で某有名三人組女性ユニットのキレキレダンスを一曲丸ごと完コピし、会場の歓声を浴びたのだった。
 思えばこの一か月。仕事の合間でダンスを覚え、踊りまくり、深山の友人であるプロのメイクアップアーティストと衣装とメイクの打合せを詰め。ほぼ休み返上で仕上げた完璧な余興で。
 終わったと同時に蓄積された疲労がどっとあふれ出たのだ。
「……深山ちゃん、綺麗かったねー」
 死体であることに飽きてきた鹿倉が、ぽそ、と口を開いた。
「うん。綺麗だった。笠間、ずっと目尻垂れさがってたし」
 普段おとなし目のメイクでいる彼女だったから、ハレの日としての艶やかな姿を見たのは初めてで。
 鹿倉がジャケットのポケットからスマホを取り出すと、今日撮った写真のフォルダを開いた。
「ほら……この二人がすっごい幸せそう」
 少し体を起こして田村に見せる。
「だねー」
 そのフォルダの中には、白いドレスの深山がフラワーシャワーの中で笠間にお姫様抱っこされている写真や、淡いラベンダー色のドレス姿の深山の横で笠間が幸せそうに彼女を見つめていたり。
 勿論、新郎新婦と一緒に鹿倉たちもにこやかに笑って並んでいる写真や、深山の友人女性の群れに田村がへらへらと目尻を下げまくっている姿も収められていて。
そんな写真を一枚ずつ送って行くと。
「あ」
「出た」
 二人で目を見合わせた。
 まさに、ハイクオリティキレキレダンスの動画である。
 深山の同僚が鹿倉のスマホで撮影してくれていたのだ。
 ひらひらした赤いドレスは、三人とも少しずつデザイン違いになっていて、それぞれに似合うように、高身長の田村にはロングドレス、小さい鹿倉にはミニスカート、笠間にはその中間の丈だけれどドレープをたっぷり使ったふわふわなスカートと、まさにアイドルユニットさながらの衣装で。
 式が終わった瞬間から、深山の友人にがっちり捕まえられ、完璧なメイクを施されているからどこからどう見ても「女の子」。
 本家のようなハイヒールを履いたらさすがにダンスは無理だということで、三センチヒールの真っ赤なパンプスではあるが、脚にはちゃんとストッキングも履いている。
「メイクしてくれた篠原さんがさ、鹿倉の肌にすげーびっくりしてた」
「え? 何で?」
「男の子にメイクすんのに、ファンデ無しでここまで綺麗なのは初めてだって」
 田村が言いながら、鹿倉の頬に触れる。
「そお?」
 ふにふにと自分の頬をこねる。特に意識したことはないし、そもそもメイクなんてしたことがないわけで。
「俺、こんなだけど、女装は趣味じゃないからなー。わかんないや」
「でも一番似合ってたの、かぐだよ」
 まさに、三人並ぶとそれはもう歴然で。
 コテコテに塗ったり描いたりこねくりまわして作った田村と笠間に対し、鹿倉のメイクはつけまつげや口紅を足したくらいで殆ど手がかかっていないのに、どこから見てもしっかりと「女の子」になっていて。
「そいえば。スカート履くと中身まで女の子になるのかなー。笠間のスカート捲ろうとしたら、凄い勢いでキャッとかゆって裾を抑えてたから超笑ったわー」
 フリっフリのスカートなんて私生活で目にすることなんてないから、面白がってスカート捲りしようとした鹿倉が、恥ずかしがる笠間を追いかけるという姿を思い出した田村が。
「なんでおまえ、必死で笠間のスカート捲ってんだよ」
「だって、田村のスカートってタイトだったし。腿までスリット入ってるから超エロだし、それ捲るのは勇気がいる」
 鹿倉が言うと、田村がけらけら笑った。そして。
「俺らさ、ボクサー派じゃん? 笠間ってトランクス派らしいんだけどさ。ストッキングの下にトランクスはダメって言われたらしくてさ」
「あ、まじで? 知らんかった」
「で。笠間の高校時代の友達がいたじゃん? そいつが遠征組だったから自分の予備パンツあるよってなったんだけど、笠間が“ヤロウの使用済みパンツ履くくらいなら嫁のパンツ履いた方がいい”なんて言い出したから、面白がった深山ちゃんが自分の下着履かせたんだよ。ほら、あの二人あのままホテルのスイート泊だったし」
「なるほど。そりゃ、嫁のパンツをよそのオトコに見せるわけにはいかないか」
「そ。だから必死で隠してたの。笠間っち追いかけるおまえ、ちょーおもろかったけど」
 暫く思い出して二人で笑っていると。
「かぐのミニスカ、結構評判良かったよ。女子が捲りたいーってきゃあきゃあゆってたし」
「ヤロウのパンチラなんか、誰が喜ぶんだよ」
「少なくとも俺は見たい」
「ばっかじゃねーの?」
「かぐちゃん、もっかい着てみない?」
「着ねーわ。俺、女装趣味ねーつってんじゃん」
「いいじゃん。衣装記念に貰ってんだしさ、せっかくだから楽しもうよー。かぐ、絶対似合ってんだから。俺、もっかいタンノーしたい」
 いつになく、強めに推してくる。
 実際、本来は“女の子好き”な田村なわけだから、“可愛い女の子”に対して情熱を傾ける気持ちはわからなくもないので。
「……メイクはできねーから、顔はこのまんまだぞ?」
「いいよお。かぐちゃんの顔、好きってゆってんじゃん」
 何となく、たまには田村の願望を叶えてやるのもいいかと、鹿倉は引き出物袋の横にあった衣装袋を持って寝室へと向かい、いそいそと着替えた。
 田村たちの衣装はワンピースだったが、鹿倉の衣装は上下別れていて、胸の大きく開いたオーガンジーのブラウスのようなものを上から着ると、丈の短いスカートはウエスト部分で幅広のベルトでぎゅっと縛るようになっていて。
 細い鹿倉のウエストを強調したかったらしいが、代わりに胸に詰め物をするために下にブラジャーなんてものまで付けさせられ。
 ストッキングにしろ、ブラジャーにしろ、当然生まれて初めて身に着けたのだが、こんなにも窮屈なものだとは知らなかった、と鹿倉は世の女の子に敬意を払う。
 顔こそ何もしていないけれど、ロングなストレートヘアのウィッグも被ってフル装備になると、
「こんなもんかな?」
と姿見で確認。
 我ながら、本家のなんとかちゃんに似てなくもない、なんてくふっと鼻で笑った。
「たーむー。こんな感じ?」
 廊下を出、リビングの扉を開けて上半身だけをそっと覗かせた。
「…………」
 その姿に、田村が固まる。
「おいおい。可愛いとか何とかゆえよ。こっちは結構恥ずいんだから」
 少し赤くなった鹿倉が、口を尖らせながら全身を現すと。
「……すげ」
 つかつかと歩み寄ると、そのまま鹿倉を横抱きにした。
「え?」
「めっっっちゃ可愛い!!!」
 ぎゅうっと抱きしめながら言うと、そのままソファへとそっと横たわらせる。
「……たむ?」
「やっぱ、おまえの可愛さは異常だわ」
「なにおお?」
 ちょっとばかにされてるのかと眉を顰めた鹿倉に、田村がキスをした。
「このまんま、ヤっていい?」
「……中身は俺のままだぞ?」
 その声を遮るように、今度は深く口付け舌を潜り込ませる。
 ぴちゅぴちゅと音を立てて、お互いに口の中を味わう。
 鹿倉も、こんな流れになることはわかっていたから当然異論はない。
 流されるだけじゃなく、応えるように舌を絡ませた。それだけでも、息が上がる。熱が、加わる。
 田村がスカートの中に手を入れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...