キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 その日、ミーティングルームで行われていた打合せを仕切っていたのは山本で、別チームの棚橋発案の企画を引き継ぐというのがメインの話し合いだった。
 元々の企画でも山本がヘルプでついていたので、メインで動くのは山本である。
 ただ、チーム単位での引継ぎになるので、今回の打合せには山本の下につく鹿倉だけでなく、リーダーである堀も同席していた。
 とは言え、社内での内々でのミーティングなのでそんなに堅いものでもなく、チームではムードメーカーとして知られている棚橋のキャラクターから自然と砕けた空気になるわけで。
「山本せんせー。さっきからかぐちゃんが堀さんと遊んでまーす。注意してくださーい」
 ホワイトボードに書き込んでいた山本に、棚橋がふざけて言う。
「遊んでませんー。堀さんが寝てるから起こしてるだけですー」
 くふくふと鼻の奥で笑う鹿倉が棚橋の上げた腕を払い下ろしながら反抗した。
「…………堀さん?」
「寝てねーよお。考えてただけだし。ほら、律ちゃん続けて続けて」
 山本に睨まれ、へらへらと笑いながら堀が椅子を動かしている。
「もう。まじめにやってよ、ほんと」
「やってるやってる」
 資料を手に再びホワイトボードに向き直る山本を尻目に、また鹿倉が堀の横で耳元にコソコソと何やら囁いていて。
「じゃあ、今度の水曜日にクライアントのトコ行って、正式に引継ぎの挨拶するから。ちゃんとスケジュール調整して下さい」
「はーい、俺は大丈夫でーす」
 真面目に返事をした鹿倉だけれど、その目がまだふざけていて。
「けどその日は堀さん、釣の予定だそーでーす」
「そおなんだよ。船長がね、水曜日しか空いてないって言うからねえ」
「それは大変だ。じゃあ、堀っちの代わりに俺が行って来よう」
「えー、ずーるーいー。俺も釣の方がいいー」
「……タナさん、堀さん、怒りますよ、いい加減しないと」
 へろへろと年長二人が言うのを山本がムっとして諫めたが、
「しょーがないなあ。山本せんせーの言う通りだよ、堀っち。はい、釣は再来週俺と一緒に延期」
「えー。潮目が変わるじゃーん」
「ほーりーさん!」
 いつまでもふざけ続ける二人の横で、鹿倉がまたくふくふと笑ってて。
「ちょ、まじタナさんが作った資料、この二人全然目を通してないんだから。ふざけてないで話、聞けよ」
 山本も、口調こそ怒っているけれど、目は完全に笑っている。
 実際、このメンバーで堅い話ができるなんてハナから思っていない。
 棚橋が鹿倉をサポートに付ける仕事の時には必ずと言っていいほどそこには笑いが入っているし、堀が鹿倉と一緒にいれば必ず二人でふざけ始める。そんな光景はいつも目にしている山本だから、今日のこの時間も社内的にやってますというのを議事に上げておかないといけないから開いているだけのミーティングだとわかっているから。
 それでも一応、レジュメに沿って山本が話を進める。
 暫く企画の趣旨や相手先の希望、これまでの流れなどを話していると。
「…………堀ちゃん、何でそんなにスンってしてられんの?」
 棚橋が笑いを必死で堪えながら言って。
「何?」
楕円形の会議用デスクで、三人の向かい側に座っていた山本が棚橋の言葉に資料から目線を上げる。
「だって、さっきからずっと、堀ちゃんのお尻をかぐちゃんがずっと揉みしだいてんの」
 棚橋の言葉に、鹿倉がふざけて「あ、見られた」とわざとらしく目を丸めて。
「……かぐ?」
「だーって堀さんすぐ寝ちゃうしー」
「なのに堀ちゃん、スンって」
 何もありませんと無表情を装っていた堀のマネをして見せた棚橋に、鹿倉がふひゃひゃひゃと笑った。
「スンって」と更に鹿倉もマネる。
「あーのーねー。真面目にやんないとダメっしょ? 一応議事録提出必須だよ?」
「もっさん知ってる? 堀さんのお尻最高」
「かぐ!」
「あ、じゃあ律ちゃんもこっち来なよ」
 棚橋が山本の椅子を引き、四人がぎゅうぎゅうに詰めて座る。
「狭い!」
「ほら仲良しー」
 山本の腕と、逆サイドにいた鹿倉の腕を組んでゆらゆらと揺れて遊ぶ棚橋に、
「……頼むから、話進めさして」
と山本が項垂れた。
「いいじゃん、もう。お律が全部わかってりゃ大丈夫だよ。かぐちゃんが堀ちゃんのお尻叩いて動かすから」
 言われた鹿倉がリアルに堀のお尻を叩きながら、
「オラオラー、働け働けー」
とふざけ始めた。
「働きますう、ご主人様あ」
「オラオラー」
「ああ、御無体なー」
 堀が鹿倉にノって、その場に崩れ落ちる。
 くふくふと二人して笑いながら、襲おうとする男と襲われそうな女を演じて。鹿倉が堀のネクタイを引き寄せながら「ええい、大人しくしろ」とエアーでビンタをすると、堀が大きく右や左に打たれるマネをして。
「きゃあ。ひどいことしないでえ」
「おりゃあ、働けないならカラダで支払ってもらおうか」
「お代官さまあ」
 二人のくだらないコントが始まると、棚橋が爆笑した。
「何おまえら、そーやってドサ回りでもしてんの?」
「しませんよ! でもほんと、この人たち二人いたらすぐふざけるし」
「かぐちゃん、堀ちゃんのこと大好きだよねー」
 ひとしきりコントが終わった鹿倉が、座り込んでいた堀の手を引いて立ち上がらせようとして。
「おっと」
 引っ張るフリをして、すっと手を引く。
 ので、そのまま堀がバランスを崩して。
「おい!」
「ほら、ちゃんと掴まって」
 くふくふと笑いながら鹿倉が堀の手を今度はちゃんと引いた。
「おまえなあ、かぐ。仮にも上司だろうが」
 山本が呆れながら言うと、
「尊敬してますよお。ねー、堀さん」
 鹿倉が声だけ真面目に、目はふざけたまま返して。
「尊敬しなくていいから、愛情下さい」
 堀が鹿倉の指に自分の指を絡めながら言って。二人で笑いを必死で堪えながら見つめ合うが、耐えられなくなって爆笑した。
「だから! もう、タナさんに失礼だろー」
 腹を抱えて笑い転げている棚橋が、
「いいよいいよ。寝てんだか起きてんだかわかんないいつもの堀ちゃんよか、よっぽどいいって。ほら、あとは資料に目を通しときゃわかるから、ミーティングはとっとと終わらせて飲みに行こうぜ」
と。バタバタと手元の書類を纏める。
「行こうぜ、行こうぜー」
 鹿倉がそれに倣って片付け始め。
「おいおいおいおい! まだ半分!」
「いいよお。残りは飲みながらで。七時から“大磯”の個室予約してっから、そこで続きしよー」
 堀がそんなことを言い出したので、真面目にやろうとしていた山本も大きくため息を吐くと。
「堀さんが言うなら、も、いいっスよ」
 諦めて片付け始めた山本に、鹿倉と堀が「いえーい」とハイタッチして。
「でも! かぐちゃんと堀さんはちゃんと資料に目を通しておくこと! いいね!」
 キっと鋭い目をして、二人に資料ファイルを手渡した。
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