キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 同じチームだからと言って、田村と鹿倉が毎日一緒に仕事して毎日一緒に帰宅して、なんてことはない。
 だからその日、田村が帰宅した時。
 玄関のドアの前にずぶ濡れで座り込んでいる鹿倉を見た瞬間、今日一緒にいなかったことを後悔した。
 ここ二週間ほど、鹿倉が家に来なかったという事実もある。とりあえず鹿倉が堀と組んでやっている企画が大詰めを迎えているから忙しいという話は志麻からも聞いていたし、そんな時期に来ないことは今までもあったからあえて誘うこともしていなかったし。
 しかも、たまに見かける鹿倉は堀にべったりで、やたらと二人でこそこそと話していたり、そうかと思えば真剣な顔で山本に何やら話している姿も目にしていて。
 変に田村に気を使っているのかと思うと少し寂しいと思っていたが、だからと言って自分も鹿倉に構える余裕のない状況で。
 クリスマスに向けたイベントの下準備が目白押しになっているこの時期、どのチームも多かれ少なかれ企画は複数抱えているので、田村もまた家には寝に帰るだけのような状況ではあったのだ。
「鹿倉? おま、どしたの?」
 想像してしまうのは、つまり、鹿倉が堀さんに告ってフラれて自暴自棄な状態で傘もささずに雨の中を歩いてここまでやってきたのか、ということで。
 質問してはいるものの、答えを知ることより先にこの濡れネズミ状態の鹿倉をどうにかしてやらないと。
 慌ててカギを開けて中に入る。タオルがどうとかよりも、とにかくバスルームに突っ込もうとして。
「あ。待って」
 鹿倉が抵抗した。
「いや、話は後でいくらでも聞いてやっから、とにかくあったまれ!」
「じゃなくて」
「いいから、何も言うな。わかってるから」
 傷ついて、恐らく一人になりたくなくて、だからここに来ているんだろうから。今のこの鹿倉の状態を見れば、それくらいわかる。
 田村が鹿倉の濡れた服を脱がせようとして。
「?」
 鹿倉が丸めていたジャケットを奪い取った瞬間。
「にゃあ」という鳴き声と同時に姿を現したのは。
「へ? 猫?」
 鹿倉と同じようにずぶ濡れになっている子猫。ちょっと茶色がかった、けど恐らく地色は白くて。子猫だからかまだ青い色の丸い目が田村を見て再び「にゃあ」と鳴いた。
「そう、さっき公園の植え込みんトコで拾ったの。めちゃくちゃ可愛くない?」
 鹿倉が興奮した声で言う。
「あ……うん、可愛い」
「でしょー? すっげー可愛いし、俺が手を出したらすり寄って来たんだよ。もうこれは運命じゃね?って。連れてきた」
 目が。
 想像していたそれと全然違う。
 フラれて傷ついて、なんて暗い目とは真逆なそれは、とにかくいつもの鹿倉の三割増しのキラキラで。
 しかも、ずぶ濡れの濡れネズミだというのにも関わらず、興奮しているせいか頬が少し赤らんで、でも元々色白なのに雨に濡れているせいで余計に白く冷め切っている肌にその赤い頬がなんとも言えない色気を出していて。
「……連れてきたって」
「飼おう! ね、田村。こいつ、ここで飼お!」
 有無を言わせない勢いで。自分よりも背の低い鹿倉が、ものすっごい可愛い顔でものすっごい色気を出して、目をキラキラさせて上目遣いに強請るというこのシチュで。
 一体誰が断れるというのだろうか?
「うん」
と田村は首肯するしかなかった。
「いやったあ!」
 いやいやいやいや、いやいやいやいや。
 勢いで頷いたものの、ちょっと待て。
「なんでウチ?」
「だって俺んちペット不可」
「だっけ?」
「ここ、OKでしょ? 俺、世話するし」
「ええ? まじでゆってる?」
「田村も今頷いたじゃん。さ、お風呂入ろ」
 猫ちゃんもあったまろーねー、なんてのんきに言ってさらっと全裸になると、田村の手から子猫を奪い取り、鹿倉はとっととバスルームに消えた。
 最早、家主の意見なんて聞く気がないらしい。
 田村は唖然としながらも、とにかく鹿倉が脱ぎ捨てたずぶ濡れの衣類を洗濯機に突っ込むと、自分も仕事帰りだったのを思い出して部屋に着替えに向かった。
 猫、かあ。
 確かに、いずれは猫か犬を室内飼いしたいと思っていたから、あえてペット可の今のマンションを選んだわけだし。元々実家でもいろいろな動物を飼っていたから、猫の世話だって全然嫌だとは思わないけれど。
 既に鹿倉がペットみたいなもので。
 気まぐれで懐いて来て、気まぐれで甘えてくる鹿倉は、恋人でもない、ただただ可愛がっているだけの存在、といってもおかしくない状態だから。
 そんなペット状態の鹿倉に、更に「愛玩動物」が増えるなんて。
 どうするよ。
と思いつつも、既にスマホで猫の飼い方、なんてのを検索しつつ、最低限必要な物を買い揃えないと、なんて考えている自分がいて。
「田村―!」
 バスルームから鹿倉に呼ばれる。
「何?」
「ちょっとこいつ、受け取って。タオルで拭いて乾かして。俺、自分洗うから」
 何だろう。普段抱いているこっちの気持ちなんてお構いなしに真っ裸で子猫を手渡され、再び有無を言わせぬ様子でバスルームの奥に消える鹿倉に複雑な心境で。
 田村はタオルで子猫を包むと、そのままリビングへと移動した。
 白字にほんのり茶色なのは、汚れていたわけではないようで。
 興奮してみゃあみゃあ鳴いている子猫を「よしよし、大丈夫、大丈夫」と優しくタオルで拭いてやり、ある程度タオルドライをすると今度はドライヤーをかけて完全に乾かしてやる。すると、フワフワの毛の色がミルクティっぽいのがわかった。
 本当に、可愛い。
「ねー、めっちゃ可愛いよねー」
 子猫を抱き上げていると、バスルームから出てきた鹿倉が濡れた髪をタオルで拭きながら言った。
「すげー人懐っこいけど、どっかの飼い猫とかじゃねーの?」
「えー、違うでしょ? だって、首輪してないし、植え込みんトコで震えてたんだよ? 飼い猫って感じはしなかったけど」
「飼うのはまあ、全然かまわないけど。とりあえず、しばらくは近所で迷い猫の噂とか聞かないか、気にしておかないとなー」
「んじゃ、名前付けよ」
「いや、だから。しばらくは他の飼い主の存在とかさ」
「いないって。だいじょぶ、だいじょぶ。ね、田村、名前付けてあげなよ」
「何で俺? かぐが付けたらいいじゃん」
「だって飼い主は田村だから」
「はあ?」
「俺、ここんちの世帯主じゃないもん」
 けろっとそんなことを言い、鹿倉は冷蔵庫からビールを出してきてとっとと飲み始めた。
 既に田村の腕の中で寝ている子猫を見るだけ見て、触れることもせず。
「どゆこと?」
「その子は田村の。俺は、世話は勿論するけど、飼い主は田村」
「何で?」
「俺、犬しか飼ったことないから、飼い方わかんねーし。ここは田村んちだし。何なら俺も田村のペットだし」
 さっき、まさにそんなことを考えていただけに、田村は少し驚いた。
「おまえのことペットなんて思ってねーし」
「いいよー。ペットで。セフレって言うより聞こえ、いいじゃん」
 あっけらかんと鹿倉が言って、にやっと嗤う。
「猫とはヤれないけど、俺とはヤれるから、ちょっとだけ格上ってことで」
 ビールを持って再び田村の傍に寄ると、今度は軽くキスをして飲みかけのビールを手渡してきた。代わりに子猫を受け取った鹿倉は、ソファにあったクッションを床のラグに落とすと、その上にそっと子猫を下す。
「おまえ、何? スイッチ入ってる?」
「うん。寒かったし、お風呂であったまって、田村がこいつ抱いてるの見たらちょっと欲情してきた」
「意味がわからん」
 子猫を置いた鹿倉は、田村をソファに押し倒した。
「とりあえず、一回シてからメシにしよーぜ」
 言って、田村にキス。
 最初は軽く。けれど、唇を開いて舌を進入させるとそこからは濃厚に。
 スイッチオン状態の鹿倉の舌は熱く、甘く。田村の欲望を容易く煽る。
 水気を帯びたキスの音に、田村の下半身も完全に熱を帯びて。
 シャワー直後の鹿倉だから、既にフワフワといい香りを纏っているだけに、その素肌を味わいたいという思いは、性急な気質の田村としては一枚だけのスウェットさえも邪魔で仕方なくて。手早く脱がせて上半身を露わにさせると、胸の突起に吸い付いた。
「や……ん」
 快感を素直に声に出した鹿倉のその声がまた。田村の欲情を煽る。
自分から誘っていた鹿倉だから、上を脱がされた後は何の抵抗もなく自ら下も総て脱ぎ去っていて。屹立している自分のソレを田村に見せつけるように扱いている。そうして完全に起ち上っているソレに田村の手を導くように触れさせた。
 そして、自分のモノを田村に任せる代わりに、鹿倉は田村を脱がせる。
「待って、俺シャワー浴びてない」
「いいよ、そんなの」
 田村のズボンを脱がせ、パンツの上からソコを撫でる。欲情して潤んだ目で、ソレを愛おしそうに撫で上げると、先走りでパンツが湿るのがはっきりとわかる。
 と。ぐいっとその下着を剥がし取ると、勢いよく跳ね上がった田村のモノを口に咥えた。
「ああっ……よ、よっくん! それはっ……」
 鹿倉の口腔内はやたらと熱くて。
 それはもう、何度もされているからどこをどうしたらどれだけ田村がイイのかわかっているから。
 大きすぎて喉の奥まで咥え込んでも晒されている根本の部分を指で擦り、音を立てて唇で抽挿を繰り返しては鈴口を舌で舐り上げる。
「だ……だめ、よっくん、出る。そんなんしたら、先に出るから!」
 口の中でイきそうになり、鹿倉の口からソレを出す。
「一回出してもいいよ? そんくらいじゃ、おさまんないでしょ?」
 小悪魔的な微笑みを湛えて言い、鹿倉は再びソレを咥えた。
 今度は完全にイかせるつもりで。ぐぷぐぷと音を立てながら激しく唇で扱く。喉の奥まで入れながら吸い上げて、今度は半分出してその先を舌先でチロチロと舐め上げる。
 時折うっとりとした目を田村に見せ、裏筋を舐め上げながらその目で煽る。
 激しさと色気を上手く絡ませて、じゅぼじゅぼと激しく唇で扱き上げると、田村の射精を口の中に受け止めた。
「…………よっくん、ごめん」
「あやまんなよ。一回出した方が、俺の中でいっぱいたのしめるでしょ?」
 苦味のせいか、さっきより更に潤んだ瞳を少し細め、その言葉の意味を田村にわからせるように微笑む。その悪魔のように艶めいた表情で、田村のソレは一回の放出では何もなかったかのように硬さを増し。
 鹿倉のソレもかなり勃ち上がって先走りで濡れているけれど、田村に軽くキスをするといつも使っているローションをチェストの抽斗から取り出し、受け入れる準備を始めた。
「もうね。俺も限界だからさ。リュウ、挿れて?」
 自らの指を濡らすと入口に宛がい、完全に見せつけるようにずぶりと差し込んだ。
「んんっ……」
 少しの抵抗感の後、ゆっくりと指を飲み込んだソコはいやらしく田村を誘っていて。
 田村は鹿倉の手を止めると、自分の手にローションを取り、鹿倉の指よりも太く骨張った指をソコに入れる。
「あっ……ん」
 鹿倉の声が高くなる。
 そして、指を増やしてぐちゅぐちゅと掻きまわし、いつもの鹿倉のポイントを攻める。
「やっ……んっ……指、だけじゃ、や」
 はっきりと、ソレを欲している鹿倉がまた田村を煽る。
 だから。
 田村はコンドームを装着すると、指とローションで解きほぐした入口に自身を宛がうと、軽い抽挿だけするとそのまま奥まで突き入れた。
「ああっ!」
 圧迫感なのか快感なのか、もうわからない鹿倉の喘ぎ声が響く。
「よっくん、痛くない? 大丈夫?」
「……だいじょぶ。だから。もっと。奥まで来て?」
 ぐいっと自分から田村にしがみつくように、迎え入れることで。鹿倉の一番イイ所にソレが当たる。
 濡れた音が鹿倉の入口からずっと洩れていて、その音がどれだけ快感を味わっているかを田村に伝える。
 温かく纏わりついてくる鹿倉の中は、筆舌に尽くしがたい快楽で。
 永遠にその中を掻きまわしていたい感覚と、射精したいと願う欲望とのせめぎ合いで、自分でも恐ろしくなるくらい、昂る。
 鹿倉の声が快感を追うごとに高くなる。
 それが愛おしく、又より一層の猛りを生んで。
「ああ、イイっ……イイよお……リュウ……」
 ずくずくと突き上げる度に鹿倉の喘ぎ声は掠れながらその快感を追っていて。
 一度放出しているから少しだけ余裕がある田村は、鹿倉の中を何度も突き上げた。それこそが鹿倉の望んでいた状況だとわかったから、少しでも長くその中の感触を味わう。
 湿ったぐちゅぐちゅという音も、肌がぶつかる破裂音も、総てが二人の欲情を高めるBGMで。
 田村の息遣いが荒くなるのもまた、鹿倉の喘ぎ声に拍車をかけて。
 何度か動きを緩めて射精感を抑えようとした田村だったが、その度に鹿倉がまるで追い立てるように腰を振る。
 鹿倉の中はまるで麻薬のように田村の快感を煽ってくる。
さすがに、射精感に抗えなくなった田村が、激しく突き上げると、二人の間にある鹿倉のソレもびくびくと膨れていき。
「あ……んっ……リュウ、ダメ、俺、イく……んっ」
 何度目か田村がソコを突き上げると、鹿倉が自分で自身に手を添えて射精した。と、同時に田村も中で二度目の放出をして。
 ぐったりと、けれど決して鹿倉に全体重をかけることなく、覆いかぶさった。
 そうして、声も出せないでいる田村がやんわりと鹿倉の素肌を味わっていると。
「ミウ……ミウ」
 まるで、自分も飼い主と同じようにその肌を味わいたいのだとでも言うかのように、鹿倉の手に猫がすり寄って来て。
「…………志麻さんってさ」
その頭を撫でてやりながら、鹿倉がまだ少し掠れた声でその名前を口にした。
「え?」
 鹿倉に覆いかぶさったまま息を整えていた田村が、この状況下で突然何を言い出すのかと訝ると。
「名前、何だっけ?」
 情事の後始末はいつも田村がしているので、とりあえず起き上がって動き始めたけれど、鹿倉が何を問うているのか理解できず。
「なんか、かっこいい名前だったよね?」
「空芽。志麻空芽だよ」
 一緒に組んで仕事してるけれど、そうそう下の名前を呼ぶことはない。とは言えフルネームはちゃんと把握している。
「あー、そんな感じだったね。じゃあ、ソラ」
「うん、空、に木の芽の芽でガ」
「うん、じゃなくて。ソラ」
「は?」
 鹿倉も起き上がると、裸のまま猫を抱き上げて自分の目の高さまで持ち上げると。
「キミの名前は、ソラ、ね」
「は?」
「雄だか雌だかわかんないけど、ソラならどっちでもいけるくない?」
 いや、とりあえず下着をつけるくらいはしろ、と鹿倉のボクサーパンツを手渡し、代わりに猫を預かる。
「あ、さんきゅ」
 言って下着だけじゃなくちゃんとスウェットも着て。
 飲みかけていたビールに口を付けると、鹿倉はそのままキッチンの方へ向かった。
「ソラが食えるものって、何かあるかな?」
 冷蔵庫を開け、ちょっとしたつまみとして常備してあるちくわを探り出すと、小皿に小さくちぎって入れて。
「ソラ? って、こいつ?」
「ちくわ。食うかな?」
 匂いに気付いた猫が、まだいろいろと把握できないでいる田村の腕の中から飛び降りて、鹿倉の元へと擦り寄っていく。
「お。いいねえ。やっぱり魚がいいのかね?」
「あ! 待って、そのままやっちゃダメ。塩分強いから、水洗いして」
 ちくわに食いつきかけていた猫から、慌てて田村が小皿を持ち上げた。
「そーなの?」
「うん。人が美味しいって思う味付けは、動物には濃すぎるから」
「そっか。じゃあ、これから気を付けるね」
 ざるにとって水洗いして、再び小皿に入れたちくわを足元に下ろすと、嬉しそうにそれを猫が食べ始めた。
「やっぱ、田村じゃないとダメだね」
「何が?」
「俺は飼い主にはなれないよ。そーゆーこと、わかんないし」
「いや、それは何というか、実家でいろいろ飼ってたからさ」
「ん。だから、田村、ソラのこと可愛がってね」
 はぐはぐとちくわを食べる猫の頭を撫でながら、鹿倉が言う。
「って……こいつ、ソラ?」
「うん、ソラ。志麻さんの分身だと思って可愛がって」
 にこって。ほんとに、何のウラもない笑顔という、鹿倉の最大の武器で田村に首をかしげて見せる。
 から。
 そんなもん、誰が逆らえるというのか。
 田村はまるで操り人形のように頷くしかできなかった。
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