キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 鹿倉が怒っている。
と、田村ははす向かいのデスクでけだるげな様子でパソコンとにらめっこしている鹿倉をちらちらと横目で見ながら、半分頭を抱えていた。
朝。とにかくくったりとしている鹿倉にシャワーを浴びせ、丁寧に体を洗ってやる。熱いシャワーのおかげか、とりあえず田村を睨みつけるだけの気力が戻って来たらしく、鹿倉はムッとしたまま、田村の用意した朝食を食べて二人で出勤した。
その間も田村は朝から何度も謝り倒して。
とにかくヤり過ぎた、ごめんと。
「……今日、まだ水曜日」
「わかってる! ほんとにごめん!」
 田村の運転する車の助手席で、黙ったままスマホゲームをしている鹿倉が、必要最低限しか喋ってくれないことも、いつものフワフワ笑顔を見せてくれないのも、自分が悪いことが百も承知だから。
 会社に着いても黙ったまま、PC起動させて何やら書類を広げ、背もたれに寄りかかりながら腕を組んでそれを見つめていた鹿倉は、時折大きくため息を吐きながら今度は机に頬杖を付いて。
「かぐちゃん、どしたの?」
 志麻の席に営業の笠間が来ていて、ついでに田村に問いかけた。
「え? あ、何が?」
 理由は他の誰よりも自分が知っているけれど、そんなことは口が裂けても言えないから。
「眠たそうだよね?」
 と笠間が言うが、
「いやいや、違うね」
 志麻がニマニマと嗤いながら悪い顔で首を振る。
「あれは眠たそう、じゃなくてけだるげってヤツだね。昨夜、彼女と相当頑張ったんだろうねえ。雰囲気がオトナだよ、うん」
「志麻さん、それセクハラじゃないっすか」
「そおかなあ? 女性社員じゃないからセーフじゃね?」
「いや、アウトでしょ?」
「でもそんな感じじゃね?」
 二人がうんうんと頷きながら、かといってそんなことを本人に訊けるわけでもなく、ただただ色気に溢れているけだるげな鹿倉を遠目に見ていて。
 当然ながら田村も何も言えないし、ただただ曖昧に笑っていると。
「おっはよーさん。お、かぐちゃん、どしたー? 朝からお疲れじゃん」
 そんな三人の空気なんてお構いなしで、堀があっけらかんと鹿倉に声をかけた。
「……はよーざいまーす。めっちゃお疲れでーす」
 さすがに上司に対して反抗的な態度をとることもなく、鹿倉は多少不機嫌な様子ではあったが、それでもいつものように可愛く返事をする。
「何々? 朝から疲れるようなことしてきた?」
 空気を全く読まない堀は、志麻たちが遠巻きに見ている様子なんて意に介さず、ずかずかと聞いた。
「昨夜田村が寝かしてくんなかったんですよ」
 鹿倉が軽くそんな返事をするから、田村の心臓が口から出そうになる。志麻と笠間も田村を見るから、慌てて田村が首を振ると。
「あいつ、酒入るとしつこいし。こっちがギブアップするまでやめねーし」
 何を言い出すんだ、と田村がおたおたと狼狽えているのを鹿倉はそのままチラリと横目に捉え、意地悪く唇の端で嗤って見せる。
「何? ゲーム?」
「そ。格ゲー。最近二人でよくやってんだけど、あいつ弱いくせに絶対俺に吹っ掛けてくんの。で、俺が負けるまでやめねーから、マジだるい」
 その言葉に、それまで完全に色っぽい話を期待していた志麻たちの顔から一気に興味が失せ、笠間は「じゃ」とデスクを離れた。
「あー、懐かしい。俺もよくゲーセンでやってたなー」
「マジで? んじゃ、今度一緒にしよーよ」
「えー。やだよ。かぐちゃんとやっても俺やられるだけだし」
「んなことないし。ほら、今度一緒にご飯行ってさ、ついでにゲーセンで対戦しよ」
 上司相手にほぼほぼタメ口でへろへろと話す鹿倉は、これこそが人たらしの所以と言われる甘え方で堀の袖をつんつんと引っ張る。
「行かねーよお」
「何でー? 俺、堀さんと呑みたいよ?」
 上目遣いにそんなセリフとさらっと口にする。まさに「あざと可愛い」を自然とやってのける鹿倉に、横で見ていた田村が内心感心する。
 これは本気でオとそうとしているのでは、と思っていると。
「ほら、今から長峰さんトコの打合せあるし、明後日のヤツの打ち上げ、一緒に連れてきてって言われてるし」
 手には企画書を持ち、既に予約済みのミーティングルームのカードキーを堀の目の前にひらひらとさせていた。
 完全に仕事モードへと切り替えている鹿倉と共に堀がデスクから離れると、後に残された田村と志麻は目を見合わせ、
「あれ、何だったん?」とお互いに首を傾げることしかできなかった。
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