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定められた運命
第65話:月明かり
しおりを挟む行方不明になった歩香ちゃんを探しに八十神くんの家に入ったら、何故か神社の裏の森に落ちた。
……うーん、我ながら意味がわからない。
とにかく、この先に二人がいるのは確か。
早く見つけて保護しなくちゃ。
「あ、足が痛い……」
靴を置いてきちゃったから靴下だ。
場所を選んで進むけどたまに角のある石を踏んだりしてなかなか進まない。
辺りに転がる岩に悪戦苦闘しながらしばらく進むと開けた場所に辿り着いた。ここだけ木が生えてなくて、その代わりに高さ五メートルくらいの大きな岩が壁みたいにそびえ立っている。
「い、行き止まり……?」
更に先に進むには迂回しなければならない。
左右どちらから行こうかとキョロキョロしていたら、「榊之宮さん」と真上から声が落ちてきた。
見上げると、岩壁の上に一人の少年が座っていた。月明かりに照らされ、その姿が闇夜に浮かび上がっている。彼は足をぶらぶらと揺らし、あたしを見下ろしていた。
「や、八十神くん……」
「こんばんは。良い夜だね」
「こ、こんばんは……?」
あまりにも普段通りに話し掛けられて、思わず挨拶を返してしまった。
いやいやいや、おかしいよね。
ここは夜の森の中だよ?
なんでこんな場所にいるの?
それに、あたしが立つ場所には月明かりは射し込んでないのに、何故彼は来たのがあたしだと分かったの?
「分かるよ、君の周りはいつも明るいから」
口に出してなかった問いに八十神くんが答えた。心の中を読まれている。まるで御水振さんたちみたいに。
「僕は彼らほど君と繋がってはいないから、残念ながら読めるのは表層の意識だけなんだよね」
「ま、また読んだ……!」
これは恥ずかしい。下手なことは考えられない。
えーと、真面目なことを考えよう。
その時、微かに遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
そうだ、お母さんどうなったかな。
倒れたまま置いてきちゃったけど、ちゃんと見つけてもらえたかな。
「……おばさんのことはごめんね。榊之宮さんだけに用があったから、あそこで眠ってもらっただけなんだ」
「や、やっぱり、八十神くんがやったの?」
「うん。あ、でも大丈夫だよ。悪い影響は残らないようにしたからさ」
「な、なんで……?」
「なんでって、おばさんいつも夕食のおかず届けに来てくれたから。うちに食べに来たら?って何度も誘ってくれたし。優しいよね、榊之宮さんのお母さん。住環境について突っ込まれたくなかったから認識阻害の術を掛けておいたのに、おばさんだけはずっと気に掛けてくれていたんだ」
認識阻害。
そのせいで、中学生で一軒家に一人暮らししている八十神くんのことを誰も不審に思わなかったんだ。でも、お母さんだけは毎日おかずをタッパーに詰めて届けに行っていた。きっと純粋に食生活が心配だったからだろう。
……ていうか、さっきから何を言ってるの?
これじゃまるで、八十神くん自身が自分の意志で不思議な力を使ってるみたいじゃない。
「みたい、じゃなくてその通りなんだけど」
まだ信じてなかったんだ的な感じで笑われてしまった。確かに、前々からお兄ちゃんや御水振さんたちから言われてたのに、なんでだろう。あたしは、八十神くんは近所に引っ越してきた普通の転校生だって未だに思ってる。
流石に今夜起きてることを考えると『普通の』の部分は削除するしかないけれど。
「本当に、君は考えてることが顔に出るね」
「ピャッ!!」
気付いたら、岩壁の上に居たはずの八十神くんが下に降りていた。
音もなくあんな高い場所から降りられるものなんだろうか。あたしとの距離は約三メートル。岩壁の真下に立ち、柔らかな笑みを浮かべてこちらを見つめている。
『チビ助、これ以上近付くなよ』
「う、うん」
じりじりと後ろに退がる。
八十神くんに触れられたら、みんなが強制的に引き離されてしまう。そうなれば、あたしは夜の森の中で八十神くんと二人きりになってしまう。
ん?
何か忘れてるような……
「あっそうだ! 歩香ちゃんは? こっちに来たはずなんだけど……」
「ああ、彼女ならあそこだよ」
そう言って八十神くんが指差したのは、彼がさっきまで座っていた岩壁の上だった。
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