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定められた運命
第66話:二人きり
しおりを挟む「彼女ならあそこだよ」
八十神くんが指差した先は、彼がさっきまでいた岩壁の上。高さ五メートルくらいの場所に歩香ちゃんは立っていた。虚ろな目をしたままぼんやりと。やっぱり靴は履いてない。
「あんなとこに! 落ちちゃうよ!!」
「そうだね。僕が指示を出したら落ちるよ」
なんてことない話のようにサラッと言い放つ八十神くんが信じられなくて、あたしはまた一歩後ろに下がった。
あんな高い場所から落ちたら打ち所が悪ければ死んじゃうかもしれない。怪我で済んだとしても、スマホ持ってないからすぐに助けが呼べない。
「彼女を助けたい?」
「当たり前だよ!」
「じゃあ、こっちに来て」
「そ、それは……」
その要求に、あたしの周りにいた七つの光が間に立ち塞がるように移動した。空気がビリビリと軋む。みんなが八十神くんを威嚇してるんだ。
『其方が行く必要はない!』
『聞かなかったことにして帰るよ~!』
『その前に、この巫山戯たこと抜かすコイツをブッ潰してやる!』
『チビ助、もっと退がれ!!』
でも、あたしが逃げたら歩香ちゃんが。
「ああ、やっぱり邪魔されちゃうね。僕は榊之宮さんと二人で話がしたいだけなのに、なんでみんな妨害するんだろう」
耳を塞ぎ、困ったように眉を下げる。心底不思議そうな表情を浮かべて八十神くんはボヤいた。
「早く来ないと本当に落とすよ」
その言葉に反応して、岩壁の上に立つ歩香ちゃんが前に出た。もう一歩出たら落ちてしまう。
迷ってる時間はない。
『お嬢ちゃん!』
『チビ助!』
「大丈夫。話をするだけだから」
『そんな言葉など信じられるものか!』
七つの光は変わらずあたしと八十神くんの間から動かない。心配してくれているのは分かってる。でも、あんな状態の歩香ちゃんを放っておくなんて出来ないよ。
「みんな、絶対に邪魔しないでね」
みんなの間を通り抜けて八十神くんに近付く。目の前まで来ると、彼はにこやかに微笑んだ。
「来てくれると思ったよ」
「……歩香ちゃんを安全な場所に移して」
「もちろん。でも、その前に」
八十神くんは右手を伸ばし、指の先であたしの胸の間に触れた、
その途端、パッと周りが暗くなる。
「お、御水振さん……?」
振り返っても、七つの光はどこにもいなかった。
いつも側に居て守ってくれたのに、あたしが彼らを自分の意志で引き離したんだ。
七つの光が消えて、森の中は真っ暗になった。
辺りを照らすのは僅かな月明かりだけ。
「約束だからね。彼女は安全な場所まで移動させておくよ」
相変わらず無表情のまま、歩香ちゃんは後ろに下がり、岩壁から降りてきた。そして、近くにある木に背を預けるようにして座り込み、目を閉じている。意識のない操り人形状態だ。
「あの、歩香ちゃんは大丈夫なの?」
「もちろん。操ってるだけだから何の後遺症もないし、僕が解放したら元に戻るよ」
「……良かったぁ」
何にも取り憑いてないなら魂に傷も付いてないよね。後は無事に家に帰して、家族を安心させてあげなくちゃ。
「……本当に君はそういう人間なんだね」
「はい?」
また呆れたように笑っている。
どういう意味だろう。
「さて、ようやく君と二人きりで話せるようになったね。立ち話もなんだから座ろうか」
「う、うん」
近くに腰掛けるのにちょうど良さそうな丸太が転がっていたので、そこに並んで座る。足元を見れば、八十神くんも靴を履いていなかった。玄関に置きっ放しだったもんね。
夜の森は暗い。空気がひんやりしていて少し寒い。木々が風に揺れる度にザワザワと鳴るだけで何だか怖くなってくる。
「それで、あたしに話って……」
「あ、うん。そうだね。どこから話そうかな」
いざ話す段階になって、八十神くんは言葉に詰まった。表情は変わらず笑顔なんだけど、少し戸惑っているみたいな。こうなるように仕向けたのは八十神くんなのに、変なの。
「じゃあ、まず君を守っていた七つの魂について話そうか。彼らが何故君に執着しているのか、何故不思議な力が使えるのか。……知りたい?」
そんなの、知りたいに決まってる。
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