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学校の怪
第44話:醜悪な存在
しおりを挟む歩香ちゃんは叶恵ちゃんを庇っていたわけじゃなかった。縁結びの祠を壊した疑いを掛けられている叶恵ちゃんに、更に慰霊碑を壊した罪を被せ、糾弾されている彼女を守ることで八十神くんに良く思われようとしていた。
その切っ掛けはほんの些細なこと。
そんなことのために、お兄ちゃんが鎮めていた慰霊碑の動物たちの魂を呼び起こした。
『醜悪な……』
『欲望に忠実な子だよね~』
『くだらねぇ』
御水振さんたちも、怒りを通り越して呆れている。あたしもそう。なんだか虚しくなっちゃって、これ以上何も言えなくなった。
これも慰霊碑が荒らされた悪い影響のせい?
『慰霊碑を壊す前からあの者はああだった。自己中心的な人間だったということだ』
そっか。
慰霊碑壊した張本人だもんね。
今はただ、こんなくだらないことで眠りを邪魔され、辛い記憶を呼び覚まされてしまった動物たちに対して申し訳ないきもちでいっぱい。
「それで、私が犯人だって先生に言う?」
開き直って踏ん反り返る歩香ちゃん。
八十神くんは、うーんと考える素振りを見せたあと、ニコッと笑った。
「そんなことしないよ」
「! ……そう」
先生に言わないという返答に、歩香ちゃんの声が上擦った。バレた時点である程度覚悟はしていたんだろう。それなのに、証拠品を所持する八十神くんは真実を明かさないと言ったのだ。
「面白かったから、黙っておくのはそのお礼」
「……ふふ、やっぱり八十神くんはそこら辺の男子とは違うわ」
目の前で交わされる二人の会話の意味が分からず、あたしは呆然とするしかなかった。
何考えてるの?
信じられない。
「証拠さえ無ければ君に疑いが向くことはない。今度はちゃんと見つからないように処分しなよ」
「ありがと八十神くん」
レースのハンカチに包まれた赤い絵の具のチューブ。慰霊碑を壊した犯人の証拠。それをアッサリ歩香ちゃんに返してしまった。
八十神くんは一体何を考えてるの?
『もう関わるな。其方には理解できん人種だ。アレは何があっても反省などせぬ』
『そーそー! お嬢ちゃんはもう十分頑張ったんだからさぁ。ねっ?』
あたしの目的は、不安定になった慰霊碑を正常な状態に戻すこと。動物たちの魂は全て浄化し終えている。役割は果たした。
果たしたけど、……
掃除の時間が終わり、あたしは教室に戻った。
終礼の間、歩香ちゃんは何食わぬ顔で席につき、時折隣の叶恵ちゃんに笑顔で話しかけていた。
やっぱり、黒い靄より歩香ちゃんの方が怖い。
「夕月、顔色悪いよ」
「まだ治ってないのよ。早く帰りましょ」
「う、うん」
千景ちゃんはカバンを持ってくれて、夢路ちゃんは腕を組んで体を支えてくれた。
いつも助けてくれる二人の存在がとてもあたたかくて、あたしは帰り道で泣きそうになった。
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