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学校の怪
第43話:真犯人
しおりを挟むあたしが八十神くんから心配されたのを目の当たりにして、歩香ちゃんは嫉妬を隠そうともせず詰め寄ってきた。
「なんでよ! なんでアンタたちばっかり気に掛けてもらえるのよ!」
アンタたちって、どーゆーこと?
「──あれ、こんな所にいたんだ」
空き教室のドアが開き、涼やかな声が響いた。
歩香ちゃんの肩越しに見えたのは、柔らかな笑みを浮かべた八十神くんの姿。
「やっ八十神くん!」
慌ててあたしの肩から手を離し、笑顔を取り繕う歩香ちゃん。
いやいや、さっきの剣幕ぜったい見られてたし。誤魔化せると思ってるのかな。なんだか気が抜けちゃって、あたしはその場に座り込んだ。
本人はまったく気にした様子もなく、八十神くんの方へと軽やかに歩み寄る。
「もしかしてぇ、私を探しに来てくれたの?」
「そうだよ」
「やだ、ウソぉ!」
なんと、八十神くんは歩香ちゃんに用事があったらしい。初めて彼から関心を持たれ、歩香ちゃんは顔を真っ赤にして照れ始めた。
浮かれていられるのはそこまでだった。
「これ、君のハンカチだよね」
そう言って八十神くんが制服のポケットから取り出したのは、縁にレースが縫い付けられた可愛らしいハンカチだった。
それを見た歩香ちゃんは一瞬で顔色を失った。
「……ッ!」
そのハンカチには赤い絵の具のチューブが包まれていた。中身が全て絞り出され、ぺちゃんこになったチューブ。真っ白だったはずのハンカチには赤いシミがついている。
「これ、一昨日校舎の裏で見つけたんだよね。奥には行かなかったから、慰霊碑がどうなってたかまでは見てないけど」
あの日、校舎裏に向かう八十神くんの姿を確かに見掛けた。なんであんなところにと思ってたけど、二階の窓から落し物を見つけて拾いに行っていたのかも。
八十神くんは終始笑顔で話している。
愛しい彼から話し掛けられているというのに、何故か歩香ちゃんは真っ青な顔で小刻みに震えている。
「な、なんで? 私、確かに──」
「ゴミ箱に捨てたのに、って?」
「!!」
あれ?
雲行きが怪しくなってきた。
「そう、コレは現場にあったわけじゃない。昇降口の片隅に置かれたゴミ箱の中から見つけたんだよ。今の発言からすると、やっぱりコレを捨てたのは君なんだね」
つまり、歩香ちゃんが慰霊碑を倒し、赤い絵の具を掛けた真犯人ってこと?
「なんでそんなことしたのか聞きたくて」
「……っ」
単なる興味本位で聞いているのだと、その話し方から伝わってきた。
「……八十神くんが叶恵なんかに声を掛けるからいけないのよ」
「え?」
「言ったじゃない。休み明けに登校してきた叶恵に向かって『大丈夫?』って。私にはそんな風に声を掛けてくれたことなかったのに!」
「だから彼女の絵の具を拝借して、彼女がやったかのように見せるために慰霊碑を?」
「……そうよ」
糾弾されるわけではないと悟った歩香ちゃんは途端によく喋るようになった。開き直っているみたい。さっきまでの可愛らしい笑顔から、口の端を歪めた意地悪な笑顔になっている。
八十神くんから個人的に声を掛けられた。
たったそれだけのことで、親友の叶恵ちゃんを陥れるためだけにあんなことをしたの?
「で、でも、歩香ちゃんはみんなから疑われてた叶恵ちゃんを庇っていたよね。なんでそんなこと」
「私が『親友を守る心優しい女の子』だってアピールするためよ。まあ、八十神くんにはバレちゃったから意味ないけど」
「そんな……」
男子たちから叶恵ちゃんを守る姿を見て、カッコいいと思った。これぞ親友の在り方だって感動した。
あれは全部ウソだったんだ。
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