【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

文字の大きさ
33 / 86
本編

第33話:堂々巡り

しおりを挟む


 謙太けんたの言葉を信じられるほど龍之介りゅうのすけは単純ではなかった。彼の過去の経験が全てを拒む。また捨てられるかもしれないと怯えるくらいなら最初から受け入れなければいい。

 一生独りで生きていく。
 それが龍之介の選んだ道だった。

「子どもだけが家族の絆じゃないだろ」
「子どもが原因で離婚する予定の奴に言われたくないね」
「……ホントだな。説得力ないわオレ」
「ケンタの癖に物分かりがいいじゃねーか」
「今までなんだと思ってたんだよ」
「………………バカ?」
「想像以上にディスられてる!」

 真面目な話からいつもの掛け合いに移り、二人は声をあげて笑った。笑い過ぎて目の端から涙がこぼれる。ひとしきり笑った後、冷静に戻って気まずい沈黙が流れた。

「……でさぁ、おまえは結局どうしたいわけ?」
「どうって……」
「寂しさを舐め合って、男二人で一緒に暮らそうってか?」
「うん、まあ、そうなるかな」
「否定しろよ」
「いや、だって実際リュウと暮らしたいし」
「…………はあ~~……」

 深く長い溜め息を吐き出して、龍之介はガクリと肩を落とした。何をどう言おうと謙太は譲りそうにない。堂々巡りだ。

 時刻は真夜中。
 そもそも、うたた寝しているところを起こされたのだ。精神的な疲れもあって、龍之介はもう休みたかった。

「その話はまた今度な。おまえもう帰れ」
「やだ」
「おまえが帰らなきゃ寝られねえじゃねーか」
「一緒に寝ればいいじゃん」
「は? やだよ」

 龍之介の家には客用の布団は無い。誰かを泊める予定など無いからだ。普段使ってる寝室のベッドには自分以外誰も寝たことはない。

「追い返したらまた騒ぐぞ」
「……おまえ、ホントふざけんなよ」

 無理に部屋から出せば再びマンションの通路で騒がれてしまう。先ほど既に近隣の住民に迷惑を掛けたばかりだ。また騒ぎを起こせば確実に住みづらくなる。

 拒否するという選択肢を封じられ、龍之介は謙太を睨みつけた。

 しかし、だんだんとどうでもよくなってきた。どうせ追い出すつもりなのだ。謙太が根を上げて逃げ出すまで付き合ってやってもいいかと思い始めていた。
 眠くて正常な思考が出来なくなっていただけかもしれないし、今度こそ信じてみたいと思ったからかもしれない。

「……わかったよ、今日は泊まってけ。言っとくけど、おまえに貸す服なんかないぞ」
「大丈夫。リュウが持たせてくれた着替えがあるから」

 そう言って、謙太はカバンを軽く叩いた。
 金曜の朝、土日二日分の着替えを持たせていたことを思い出し、龍之介は準備の良過ぎる過去の自分を呪った。






「狭い」
「文句言うなら床で寝ろ」
「すんませんでした」

 龍之介の寝室にあるのはセミダブルのベッドだ。一人ならこれで十分だが、男二人で寝るには狭い。それでも謙太の家の客用布団よりはマシだ。肩はくっつくが、なんとか並んで仰向けにはなれる。

「そういえば、おまえ一度自宅に帰ったんだろ? なんで着替えのカバン持ってきてんの?」
「リュウんちに泊めてもらおうと思って」
「最初からそのつもりで来たのかよ。……はあ、信じらんねえ。馬鹿じゃねーの」
「電話通じないしドア叩いても出てこなかったから焦った焦った」

 もし龍之介が不在だったり宿泊を拒否されたとしても、その辺のホテルに行くか自宅に帰れば済む話だ。しかし、謙太はそうはしなかった。

「おまえ、もしかして一人で寝られないのか?」
「確かに実家では眠れなかった」
「……、……そっか」

 今回の件で謙太も深い傷を負った。そう考えると何だか気の毒に思えて、龍之介は謙太を蹴落とそうとしていた足を引っ込めた。

「まあ、家族と話し合ってたら夜が明けただけなんだけど」
「なんだそりゃ」

 前日の夜から実家に帰ればそうなるだろうと分かっていた。先に身内と今後の方針を擦り合わせておかないと話し合いが進まなくなってしまうからだ。
 逆に、そのせいですんなり話し合いが終わったとも言える。良かれと思って早めに実家に行かせたのだが、その結果がコレだ。

「母さんと父さんは陽色ひいろに会えなくなるのは嫌だから絶縁だけはしないでほしいって譲らなくて。前々から寧花ねいかに頼んで写真いっぱい送ってもらったりしてたらしい。血が繋がってなくても、もう関係ないってさ」

 戸籍の話や子連れ再婚での虐待の可能性云々は主に謙太の母親からの入れ知恵だったようだ。

「あと、リュウと暮らしたいって言ったら母さんにグーで殴られた」
「は? おまえ親に何言ってんの???」
「別れた後どうする気だって詰め寄られたから、つい。そしたら『リュウ君に迷惑かけるな!』って」
「おばさんの言う通りだよ。早速迷惑掛けられてるもん。あーあ、布団狭いなー」
「でも、あったかいよな」
「…………そうだな。湯たんぽ代わりにはなるかもしれないな」

 一緒にいるとあたたかい。
 二人はいつの間にか眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?

すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。 書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。 亮輔はすっかり慣れきっていた。 しかしある日、こう書かれていた。 「男に告白されるだろう」 いや、ちょっと待て。 その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。 犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。 これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。 他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

処理中です...