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本編
第30話:謙太の選択 2
しおりを挟む「……事情はわかったよ。おまえが選んだことだ。俺が口を挟むことじゃない」
「うん」
「それで? なんでそれが大事な話し合いを早く切り上げて俺んちに来た理由になるわけ? じっくり話せばもっと良い選択があるかもしれないのに」
龍之介に対する報告ならメールや電話一本で済む。今日連絡がつかなかったとしても急ぐ話ではない。明日以降に回せば済む話だ。直接会って話す必要もない。
呆れ顔で問い質す龍之介に対し、謙太は至極真面目な顔で居住まいを正して向き直った。
「早く会いたかったから」
「は?」
「オレが、リュウに会いたかったんだ」
「…………どういう意味?」
意味がわからず、龍之介がまた尋ねる。
謙太は室内を見回した。
見える範囲には必要最低限のものしか置かれていない。雑貨どころか余分な家具すらない。キッチリした性格の龍之介らしいといえばそうだが、それにしても生活感が無さ過ぎる。
謙太のマンションも片付いている方だが、三人暮らしだからかどうしても雑多な感じになってしまう。
こんな無機質な空間で龍之介が一人で暮らしていたのだと、謙太はこの日初めて知った。
「オレが離婚を選んだのは陽色の件もあるけど、寧花との関係がぎこちなかったからなんだ。結婚してからずっと。陽色が生まれてからも他人行儀で」
「……」
交際一ヶ月半での授かり婚とはいえ、今まで時間はたくさんあったはずだ。それでも寧花と心を通わせることは出来なかったという。
「寧花が出てって、リュウが来てくれて、オレが何にも知らなくて何にも出来ないことをいっぱい怒って教えてくれただろ? ……あんなの寧花から一度も言われたことなかった。夫婦なのに、頼み事ひとつされたことなかった」
龍之介は育児の知識と経験がない謙太を叱り飛ばし、無理やり実践させた。
夜泣きの対応。
ミルク。
風呂。
オムツ交換。
離乳食。
買い物。
育児サークル。
どれも寧花から求められたことはなかった。
謙太もそれに疑問を抱かなかった。
「リュウと生活してみて、オレと寧花はまだ他人のままだったんだって気付いたんだ」
「そんなの、……」
龍之介は焦った。
あの日々に影響を受けたのは自分だけではなかったのだと気付いたからだ。そのせいで親友が離婚を決意した。
取り返しのつかないことになった気がした。
「俺がおまえに色々言えたのは友達だからだろ。十年来の付き合いなんだから、比べる方がおかしいよ」
「分かってる。でも、オレはリュウがいい。リュウと一緒にいたい」
「……」
「寧花が出てって陽色と二人きりになった時、リュウしか頭に浮かばなかった。近くに他の友達が何人も住んでるのに。母さんに頼ることも出来たのに。何でか分からなかったけど、オレ、たぶん──」
リビングの床に正座して、膝の上で拳を握り締める謙太を見下ろし、龍之介は血の気が引くのを感じた。そして、無意識のうちに口の端を歪めて笑っていた。
はは、と乾いた笑いが無機質な部屋に響く。
「本当におまえは馬鹿だな。寂しい時に優しくされたらすぐ懐く。そんなんだから貧乏クジばっか引くんだよ」
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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