30 / 86
本編
第30話:謙太の選択 2
しおりを挟む「……事情はわかったよ。おまえが選んだことだ。俺が口を挟むことじゃない」
「うん」
「それで? なんでそれが大事な話し合いを早く切り上げて俺んちに来た理由になるわけ? じっくり話せばもっと良い選択があるかもしれないのに」
龍之介に対する報告ならメールや電話一本で済む。今日連絡がつかなかったとしても急ぐ話ではない。明日以降に回せば済む話だ。直接会って話す必要もない。
呆れ顔で問い質す龍之介に対し、謙太は至極真面目な顔で居住まいを正して向き直った。
「早く会いたかったから」
「は?」
「オレが、リュウに会いたかったんだ」
「…………どういう意味?」
意味がわからず、龍之介がまた尋ねる。
謙太は室内を見回した。
見える範囲には必要最低限のものしか置かれていない。雑貨どころか余分な家具すらない。キッチリした性格の龍之介らしいといえばそうだが、それにしても生活感が無さ過ぎる。
謙太のマンションも片付いている方だが、三人暮らしだからかどうしても雑多な感じになってしまう。
こんな無機質な空間で龍之介が一人で暮らしていたのだと、謙太はこの日初めて知った。
「オレが離婚を選んだのは陽色の件もあるけど、寧花との関係がぎこちなかったからなんだ。結婚してからずっと。陽色が生まれてからも他人行儀で」
「……」
交際一ヶ月半での授かり婚とはいえ、今まで時間はたくさんあったはずだ。それでも寧花と心を通わせることは出来なかったという。
「寧花が出てって、リュウが来てくれて、オレが何にも知らなくて何にも出来ないことをいっぱい怒って教えてくれただろ? ……あんなの寧花から一度も言われたことなかった。夫婦なのに、頼み事ひとつされたことなかった」
龍之介は育児の知識と経験がない謙太を叱り飛ばし、無理やり実践させた。
夜泣きの対応。
ミルク。
風呂。
オムツ交換。
離乳食。
買い物。
育児サークル。
どれも寧花から求められたことはなかった。
謙太もそれに疑問を抱かなかった。
「リュウと生活してみて、オレと寧花はまだ他人のままだったんだって気付いたんだ」
「そんなの、……」
龍之介は焦った。
あの日々に影響を受けたのは自分だけではなかったのだと気付いたからだ。そのせいで親友が離婚を決意した。
取り返しのつかないことになった気がした。
「俺がおまえに色々言えたのは友達だからだろ。十年来の付き合いなんだから、比べる方がおかしいよ」
「分かってる。でも、オレはリュウがいい。リュウと一緒にいたい」
「……」
「寧花が出てって陽色と二人きりになった時、リュウしか頭に浮かばなかった。近くに他の友達が何人も住んでるのに。母さんに頼ることも出来たのに。何でか分からなかったけど、オレ、たぶん──」
リビングの床に正座して、膝の上で拳を握り締める謙太を見下ろし、龍之介は血の気が引くのを感じた。そして、無意識のうちに口の端を歪めて笑っていた。
はは、と乾いた笑いが無機質な部屋に響く。
「本当におまえは馬鹿だな。寂しい時に優しくされたらすぐ懐く。そんなんだから貧乏クジばっか引くんだよ」
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?
すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。
書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。
亮輔はすっかり慣れきっていた。
しかしある日、こう書かれていた。
「男に告白されるだろう」
いや、ちょっと待て。
その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。
犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。
これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。
他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
