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本編
第27話:分かれ道
しおりを挟む翌朝、玄関先で龍之介は謙太にカバンを手渡した。仕事用のカバンとは別のものだ。
「着替えが入ってる。乗り換えの時間を考えたら仕事終わりにそのまま実家に行ったほうがいい。昼間のうちにおばさんに連絡しとけよ」
「……うん」
「じゃあ行ってこい」
「わかった」
ドアを開けて出て行く謙太を見送り、龍之介はホッと息をついた。
昨夜の宅飲みで出た空き缶やゴミをまとめてマンションのゴミ置き場に捨てに行ったり、洗濯をして部屋の掃除をしたり、客用布団を干したり。謙太たちが帰ってきたらすぐに生活できるように整える。
「楽しかったな」
小さな子どもの体温。
気の置けない親友との語らい。
向かい合っての食事。
狭い布団。
嵐のような日々だったけど、過ぎてしまえば一瞬で、だからこそ龍之介の心に深く刻まれた。
掃除の際に、カウンターの上に置きっぱなしになっている封筒に気が付いた。先週の木曜に謙太が市役所で貰ってきたものだ。中身は離婚届だと思われる。それを置いていったということは、やはり寧花に戻ってきてもらうつもりか、と龍之介は小さく笑った。
乾いた洗濯物を取り込み、布団をクローゼットに仕舞い、全てを綺麗に片付ける。
最後に、壁にある結婚式の写真が飾られた額についた埃を軽く払う。その隣にある生まれたばかりの陽色の写真を見て、龍之介は目を細めた。
「やっぱり可愛い」
最初は謙太の子どもだから可愛いのだと思っていた。でも、血が繋がっていないと知ってからも陽色は陽色だ。可愛くて愛しいと思う気持ちは変わらなかった。
きっと謙太も同じはずだ。
寧花を説得して戻ってきてもらい、また親子三人で暮らす。
それが一番簡単で平和的な解決法だ。
「そうなったら、俺はもう二度とここには来ない。謙太にも、会わない」
マンションの部屋から出て鍵を閉めてから、手のひらの中の合い鍵を見つめた。どこのゆるキャラか分からない微妙なキーホルダーがついている。
龍之介はそれを名残惜しそうに握り締めたあと、そっとドアのポストに入れた。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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