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本編
第28話:深夜の訪問者
しおりを挟む今までどうやって過ごしてきたのか分からなくなるほど龍之介は謙太との暮らしに慣れてしまっていた。
いざ一人になってみると、それを嫌でも実感してしまう。
ひとり分の家事より手間が増えて煩わしいはずなのに、何をするにも張り合いがあった。現状を維持するための掃除や、腹を満たすためだけの食事。これまで義務的に行っていたものが意味を持った。
カタカタとキーボードを打つ音だけが薄暗い室内に響く。溜め込んだ仕事をこなす間だけ無心になれたが、少しでも暇が出来るとあの数日間を思い出してしまう。
龍之介にとって特別な日々。
あの時、何故謙太のマンションに向かってしまったのか。
あそこで龍之介が行かなければ、謙太は実家の母親に助けを求め、陽色の世話を頼み、寧花の実家にも速やかに連絡が行っただろう。
下手に手助けをしてしまったがために謙太は気を緩め、結果的に解決が遅れた。
完全に止まった指に気付いて、龍之介はキーボードの上に倒れこんだ。横目で見たスマホ画面は真っ暗なまま。仕事の連絡すら受ける気がせず、帰宅後すぐに電源を落としたからだ。
金曜の夜、謙太は仕事帰りにそのまま実家へ帰った。
今は土曜の夜。一日で話し合いが終わるわけがない。恐らく明日に持ち越して、そこで今後の方針が決定するのだろう。
明日の今頃には、謙太は寧花と陽色を連れて帰り、今まで通りの生活に戻る。例え血が繋がっていなくても謙太ならきっと良い父親になれる。そうなるように龍之介が教え込んだのだから。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。龍之介は何処からか聞こえる音で目を覚ました。
机の上に突っ伏したまま寝入ってしまっていたらしい。変な体勢で寝たせいで身体のあちこちが固まっている。何とか起き上がり、音の出所を探る。
それが自分の部屋の扉を叩かれている音だと分かった瞬間、龍之介は青褪めた。
時間は日付が変わったくらいの深夜。
外は真っ暗で、室内も真っ暗。
そこに響き渡る扉を叩く音。
酒に酔った不審者か、それとも近隣で何かトラブルがあったのか。このまま居留守を決め込もうかと思ったが、周りの住民に迷惑が掛かってしまう。
警察を呼ぼうとスマホを手に取った時、知っている声が聞こえてきた。
「リュウ、いるんだろ!? リュウ!!」
「──ケンタ、なんで」
地元に帰っているはずの謙太が龍之介の家の前にいる。しかも、何度も何度も扉を叩き、大声を出して騒いでいる。
すぐに玄関へと向かい、鍵を開けようとして、そこで龍之介は動きを止めた。
扉越しに声を掛ける。
「……ケンタ」
「っ、リュウ! やっぱり居た!」
龍之介の声を聞き、謙太は嬉しそうな声を上げた。だが、一向に開かない扉に気付き、再びドンドンと叩き始める。
「おい、やめろ。何時だと思ってるんだ」
「開けてくれ。話がしたい」
「なんで俺んとこに来た。おまえは寧花さんと今後の話し合いをしてるはずだろ?」
「もう終わらせてきた。だから頼む、開けてくれ。でないと大声出すぞ」
扉の向こう側には謙太以外の気配も感じる。近隣の住民が騒音に気付いて出て来たのだろう。今は深夜だ。これ以上騒がれては困る。
「……覚えとけよ」
鍵を回し、ドアレバーを下げて扉を開く。
通路の明かりに照らされた謙太は、龍之介の顔を見てホッと表情をゆるめた。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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