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本編
第17話:ストレス
しおりを挟む金曜の夜。
今日一日ほとんど寝ていたおかげで、陽色の熱は平熱に戻った。謙太も微熱程度まで下がっている。食欲もあるし、他の症状もない。やはり知恵熱だったようだ。
「病み上がりに無理はしない方がいい。明日一日様子見て、大丈夫そうなら日曜に寧花さんの実家に行ってこい」
「そうだな。……って、オレと陽色だけで!?」
「部外者の俺が行ったらおかしいだろ」
「えー、陽色連れて電車乗ったことない」
「知るか」
しかし、実家に寧花が居ればいいが、もし居なかった場合を考えると子連れでの移動はリスクが高い。
月曜からは謙太も会社に行かなくてはならない。その時までに寧花が戻るか、陽色の預け先を確保しておく必要がある。
「はあ、仕方ない。母さんに連絡するかな」
「そうしろ。…………エッ、おまえ、今回の件をまだ親に言ってなかったの!?」
「うん」
寧花が出て行ったのが火曜の夜。
謙太は誰より先に龍之介に助けを求めた。身内である自分の親よりも先に。
とっくに連絡済みだと思い込んでいた龍之介は頭を抱えた。孫の一大事である。知っていれば謙太の親が真っ先に駆けつけているはずだ。
「自分の実家を通じて寧花さんの実家に連絡入れてもらうって手があるだろ。おまえのスマホは着信拒否されてるかもしんないけど、旦那の実家の家電まで拒否してないはずだ」
「……なるほど!」
「なるほど、じゃねーよ」
妻に逃げられたなど身内には言いづらい。しかし陽色がいる以上、このまま寧花に家出され続けられては困るのも確かだ。
謙太は腹を括り、ようやく実家の母親に電話して事の次第を伝えた。すると……
『アンタ! なにやらかしたの!!』
「声でけーよ母さん」
『子ども置いて出てくなんて尋常じゃないわよ! 浮気でもしたの!?』
「し、してないって!」
スピーカーをオンにしていないにも関わらず、謙太の母親の声は龍之介の耳にまで届いた。すごい剣幕で謙太を責めまくっている。
『出てって何日も経つってのに、アンタは迎えにもいかないで!』
「し、仕方ないだろ。昨日から陽色が熱出して」
『はあ~もう。ひー君は大丈夫なの!?』
終始母親の勢いに押され気味の謙太を見兼ねて、龍之介が電話の相手を変わった。
「おばさん、龍之介です。ご無沙汰してます」
すると、電話の向こうの謙太母の態度が激変した。
『あらぁ、リュウくん!? そこにいるの?』
「はい、謙太から呼ばれて。陽色の熱は下がったので安心してください。それと、謙太も今熱があって体調悪いんです』
『まあぁ……そうなの。リュウくんがいるなら安心だわ。ごめんなさいね、うちのバカが面倒を掛けてェ』
さっきまでとは声のトーンが違う。母親の豹変っぷりに、謙太は顔を引きつらせた。
「気にしないでください。それで、寧花さんの実家に連絡を取っていただきたいんです。……ハイ、謙太は着信拒否されてて』
『わかったわ。あちらとの連絡は任せてね』
「助かります、お願いします」
ここでスマホは再び謙太の手に戻る。
「あー……というわけだから」
『なぁ~にが『というわけだから』よ! どうせ全部リュウくんに頼りきりなんでしょ。ホントにもうアンタは昔っから……まあいいわ。進展があったら電話……いや、メールするから』
また厳しい口調に戻るが、熱があると龍之介から聞いたからだろうか。謙太の母親はこれ以上厳しく追及することなく「早く体調を治しなさい」と締め括って通話を切った。
はあ、と謙太は溜め息をついた。
パワフルな母親との会話は、例え数分でも精神力をかなり削られる。体調を崩している今なら尚更だ。龍之介はそれを見越して早めに電話を変わったのだが、それでも内容が内容だけにノーダメージとはいかなかったようだ。
「ウチの親のリュウへの信頼度、高くね?」
「日頃の行いだな」
親に言ってしまえば夫婦だけの問題ではなく、家同士の問題となる。先のことを考えて、謙太は顔をしかめた。
「ケンタ、もう寝ろ」
「……うん。そうする。おやすみ」
今のが相当なストレスになったのだろう。謙太はまた夜中に熱を出した。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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