【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
18 / 86
本編

第18話:言えない言葉

しおりを挟む


 陽色ひいろは完全に復活した。

 リビング内を縦横無尽に這い回るから目が離せなくなった。敷きっぱなしだった客用布団をベランダに干し、溜まっていた洗濯をして、部屋を掃除する。たったそれだけの家事をするにも、陽色の様子を見ながらではなかなか進まない。主婦業は大変だと龍之介りゅうのすけは改めて思う。

 それに、熱でダウンした謙太けんたの世話もある。

「リュウぅ、しんどい」
「わかったわかった。氷枕作ったから頭あげろ」
「うぅ……」

 昨夜、実家の母親に電話した後からまた熱が上がったところを見ると、やはりストレス性なのだろう。何も考えていないようで全部抱え込んでしまっている。
 病院で貰った解熱剤も効きが良くない。病気ではないからだ。

「なんか食べたいもんあるか」
「カ……カツ丼……」
「おまえ揺るぎないな。いいよ、わかった」
「うん……」

 息も絶え絶えだというのに謙太の食欲は失せてはいなかった。

 抱っこ紐に陽色を入れて、歩いて近所のスーパーに向かう。

 土曜の昼前。
 すれ違うのは家族連ればかりだ。時々父親らしき男性がひとりで子どもの相手をしている様を見掛けた。目が合うとみな軽く会釈してくる。龍之介も同じ仲間だと思われているのだ。
 それがなんだかこそばゆく感じて、龍之介は落ち着かなかった。







 その日の夕食後。
 熱は下がったが、謙太はまだ元気がなかった。
 ノートPCで仕事をする龍之介の向かいに座り、テーブルに突っ伏している。足元では陽色がオモチャで遊んでいる。カラカラ、と鳴る音を聞きながら、この環境にも慣れてきたなと龍之介はぼんやりと考えていた。

「あのさ」

 謙太が突然話し掛けてきた。なんだか落ち着かない様子でそわそわしている。

「なんだよ」
「……今後の話なんだけど……このまま、もし寧花ねいかが帰ってこなかったらさ……」

 いつの間にか謙太の手には封筒があった。

「一昨日、会社帰りに貰ってきた」
「ああ……」

 市役所の大きな封筒。話の流れから、中身はおそらく離婚届だろうと龍之介は推測した。あの日、帰りが少し遅かったのは書類を取りに行っていたからか、と納得する。
 寧花が陽色を置いて家出してから丸四日。
 能天気に見えて色々考えていたのだろう。謙太がここまで覚悟をしていると知り、龍之介は驚いた。

「だから、もし──」

 謙太が何か言い掛けた時、スマホが鳴った。




『寧花さんは日曜に一旦そちらに戻るそうです。きちんと二人で話し合いなさい』




 謙太の母親からのメールだ。無事寧花の実家と連絡が取れたようだ。これには謙太も安堵したようで、深い溜め息をついていた。

「良かったじゃないか。後はとにかく謝って、寧花さんに戻ってきてもらえよ」
「……う、うん」

 珍しく歯切れの悪い返事をする謙太に、龍之介は首を傾げた。
しおりを挟む
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
感想 37

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...