【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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最終章 その後の話

107話・ドン引き

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 諒真りょうまは現在一人暮らしをしているが、実家は隣の市にある。父親が再婚した時、諒真は大学進学を機に家を出た。新婚夫婦の邪魔にならないよう気を遣い、里帰りも極力控えた。
 しかし、妹が生まれてからは時々寄るようになった。二十も下の、下手をすれば自分の子と言ってもおかしくないくらいの妹に、諒真はすっかり骨抜きにされてしまったのだ。

「これウチの妹。可愛いだろ?オレのこと『にぃに』って呼んでくれるんだよ~」
「たしかに可愛いですね……」

 スマホの写真フォルダには妹の写真ばかり。テーマパークでお揃いのキャラクター帽子を被り、肩車しているツーショットまである。どれも諒真がデレデレとした満面の笑みで写っており、歳の離れた妹への溺愛っぷりが伝わってくる。

 肩を並べてスマホ画面を見ながら、創吾そうごはホッと安堵の息をついた。てっきり諒真には恋人または好きな人がいると思い込んでいたが、この様子を見た限り杞憂だったのだろう。それより、写真の中の諒真は今まで見てきた彼と違い、表情が甘い。正直五歳の幼女より諒真のほうが可愛くて、思わず集中して見入ってしまう。

 じっと写真を見つめる創吾の顔の前に、諒真が手のひらを差し込んで視界を遮った。

「妹はやらないからな!」
「ええ……???」

 どうやら妹の可愛さに夢中になっていると誤解されたようで、諒真はシスコンっぷりを発揮して牽制してきた。ムスッとした表情がまた可愛らしく思えて、創吾はふ、と笑った。

「僕が可愛いと思っているのは君だけです」
「は?……いや、えっと」

 真っ直ぐ目を見つめれば、今度は諒真が挙動不審になった。頬を真っ赤に染め、持っていたスマホを膝の上に落とし、ソファーから飛び上がりそうになっていた。
 そんな諒真の手を握り、顔を寄せて軽く口付け、息がかかる距離で話を続ける。

「……さっき『好きだ』って言ってくれましたよね。あれ、本当ですか?僕は少しくらい自惚れてもいいんでしょうか」
「そっ、そうでもなきゃ無意識にここに転移してこないだろ!」

 赤面したままの諒真を正面から抱き締める。緊張で強張っていた身体から徐々に力が抜け、おずおずと抱き締め返してくる手の感触に、創吾は胸がいっぱいになった。

「ラミエナさんのこと、もしかして妬いてくれていたんですか」
「……おまえらがふたりで居るのを見てモヤモヤしたんだ。その時はなんでか分からなかったけど」

 遠征部隊と共に『呪いの核』を破壊しに行った時、拠点で創吾はラミエナとふたりきりで会っていた。情報を集めてもらうために色々と頼んでいただけだと後で知った。当時は知らず知らずのうちにショックを受け、対抗するようにリエロと口付けをした。それ以降、純粋に慕ってくれるリエロに惹かれて妙な空気になってしまった。

 その件は既に終わった話だが、諒真には他にも気になることがあった。
 パッと身体を離し、間近から睨み付ける。

「オレだって聞きたいことがあるんだけど」
「へ?」
「このマンション、ひとりで住むには広過ぎるだろ。誰かと住んでんじゃねーの?例えば、か、彼女とか」
「恋人は居ないって言いましたよね」
「じゃあ、前に同棲でもしてたのか?彼女が忘れられなくてずっとここに住んでるとかじゃないのか」

 初めてこのマンションに訪れた時から疑問に思っていた。誰かと住む以外でこんな広い部屋をわざわざ借りる必要などない。実際、使われてない空き部屋があるくらいだ。創吾も良い年齢トシだ。結婚していたとしてもおかしくない。

「この部屋は父から貰ったものです。僕はいわゆる愛人の子なんですけど、認知しない代わりに学費やら住む場所やら金銭的な援助を惜しまずしてくれて」
「え、待って。予想外に重い話きた。それ、オレが聞いちゃっても良いやつ?」
「構いませんよ」

 慌てふためく諒真に、創吾は平然と笑って見せた。

「気になっていたんでしょう?お付き合いするならいずれ知ることになるんですから」
「エッ……お付き合い、すんの?」
「僕たち、両想いですよね?だったら当然お付き合いしますよね?」

 きょとんとする諒真の反応に、創吾が眉間に皺を寄せた。ずい、と顔を寄せて圧をかける。

「でも、オレたち住む場所が」
「片道四時間は確かに遠いですけど通えない距離ではないですし、既に手は打ってますので」

 佐賀県と愛知県は遠い。今後転移魔法が使えなくなれば公共の交通機関を利用せねばならず、移動時間も交通費も馬鹿にならない。
 だから諒真は両想いが判明しても手放しで『交際する』と言い切れずにいた。

「実は再召喚される前に、諒真くんの住んでる地域の病院に異動出来ないか父に頼んでおいたんです。九州と本州じゃ所属グループが違うんで普通は難しいんですけど、なんとか空きを見つけてくれました」
「はぁ???」
「まあ、愛人の子が自分から遠くに行ってくれるなら万々歳といったところですかね。生まれて初めて父に感謝しました」

 話を聞く限り、創吾の父親は九州ではかなり立場のある人間らしい。負い目があるからか、割と無茶を聞いてくれるのだという。
 創吾が諒真の異世界残留を恐れていた理由はこのためだ。諒真が居なければ愛知県に行く意味などない。

「というわけで、引き継ぎが終わったら愛知県そっちに行きますのでよろしくお願いしますね」
「お、おまえ……そんな大事なこと勝手に決めて、オレと両想いになってなかったらどうするつもりだったんだよ」
「もし恋人か好きな人が居ても、後から君を奪ってしまえばいいかなって」
「ヒェッ……」

 おかしくなっていた時の創吾と今の創吾が重なる。
 魔王の欠片で秘めていた欲望や本質が強化・増幅されていただけで、言動は嘘偽りのない本心そのもの。この男は一度好きになったら手段を選ばない上に執着の強さも桁違い。

 諒真は小さく悲鳴を上げ、即座に自分のアパートに転移して逃げた。



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次回、108話で完結です
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