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最終章 その後の話
106話・嫉妬の相手
しおりを挟む再召喚される前に『大事な人がいるのか』と問われ、諒真は頷いた。当時は嫉妬に駆られてすぐに魔力発散のために戦ってしまい、詳しく聞かずじまいだった。思えば、魔王の呪い……能力がバレたら死に至る呪いではなく、実際は欲望や衝動を抑えられなくなる副作用のせいで冷静さを欠いていたからだろう。
(正常な状態の今、改めて聞くとショックが大きいな)
初めて異世界に召喚されるまで、遠く離れた場所で別々の人生を送っていたのだ。知らない交友関係があるのは当たり前だと創吾は自分に言い聞かせる。
「どんな人なんですか」
話を振った手前、一応尋ねておくのが普通だろう。本当は微塵も聞きたくないのに、創吾は笑顔を取り繕った。
「世界で一番可愛いよ」
「そうなんですか」
「小さくて、腕の中にすっぽり収まるくらい」
「へえ、小柄な女性なんですね」
『大事な人』を語る諒真はいつになく饒舌で上機嫌だ。話す様子を見て、その相手が本当に好きなのだと嫌でも分かる。諒真より背が低く腕の中に収まるということは、相手は随分と可愛らしい女性なのだろう。
その女性こそ、元の世界に戻ってきた理由。
創吾の胸の痛みは引くどころか酷くなった。
「久しぶりに会いたいんじゃないですか」
「って言っても再召喚される前日に会ったから、向こうからしたら『また?』って思われそう」
「行けば良かったのに。僕のところじゃなくて彼女のところに」
再召喚から一ヶ月以上経ったが、教皇のおかげで時間が戻っている。
そんなに頻繁に会っていたのかと創吾は眉をひそめた。必死に笑顔を作りながらも言葉の端につい棘を混ぜてしまう。せっかく来てくれたというのにうまく喋れない。
「じゃ、次の休みにでも会いに行くかな」
浮かれているせいか、諒真は創吾の態度の変化に全く気付いていない。手を伸ばされ、両肩を掴まれて「あれ?」と思ったくらい。
「──行かないでください」
泣きそうな顔で創吾が懇願する。
突然のことに、諒真は動揺を隠せなかった。
「えっと、なんで?」
「なんでって……!」
自分から『行けばいいのに』と言った癖に『行かないで』と矛盾した発言をする創吾に、諒真は首を傾げた。
意味が分からないといった顔で聞き返され、創吾は言葉を詰まらせた。こんなに胸を痛めているのに、原因である諒真には何ひとつ伝わっていない。
そこでようやく自分が一度も気持ちを告げていないことに思い当たった。
「僕は、諒真くんが好きなんです」
創吾は気持ちを言葉にした。
二十八年の人生の中で人を好きになったことは何度もあるが、諸々の理由で自分から告白した経験は無い。断られると分かった上で想いを告げたのは初めてで、柄にもなく声が震えた。
「え、おまえ、オレが好きなの……?」
告白された諒真は、ぽかんとした表情で創吾を見つめ返している。決してからかっているわけではない。いつもとは違う余裕が一切感じられない様子に、彼が本気なのだと分かった。
「でも、だって」
そんなはずがない、と今までのことを振り帰る。
魔力発散のため、動揺させて魔法を暴発させるために何度もキスされた。時には身体に触られたりもした。必要な行為だったからだ。そこに気持ちはないと思っていた。
異世界に再召喚されてから触れることはなくなったが、様子がおかしくなった際に一度だけ襲われた。あれは呪いの影響のせいで、創吾の本心ではなかった。そのはずだった。
「い、いつから……?」
「最初に異世界に召喚された時からです」
「ええ!?」
諒真が悲鳴をあげた。
まさかそんなに前から好かれていたとは思ってもいなかったからだ。
「この際なんで言っちゃいますけど、僕はずっと下心があって触れてました。君は純粋に頼りにしてくれていたのに」
「えぇ……?」
「軽蔑してもらって構いません。でも、僕の気持ちだけは否定しないでください」
両肩を掴まれ、泣きそうな顔で懇願され、諒真はしばらく茫然としていた。あまりのことに理解が追いつかず、思考がフリーズしてしまっている。
だが、だんだんと実感が湧いてきた。
「え、ホントに……?」
急に顔が熱くなり、手で頬を覆い隠す。
先ほどまで平気で見れていた創吾の顔がまともに見られなくなる。
「……た、多分オレも好きなんだと思う」
消え入りそうな声で諒真が答えると、今度は創吾が怪訝な顔をした。
「え。彼女は?」
「彼女なんかいないけど」
は?とお互いが眉間に皺を寄せて睨み合う。
「待ってください。さっきの『大事な人』って恋人じゃないんですか?」
「ここ数年フリーだって前に言わなかったっけ?今のは妹の話だよ」
「妹ぉ?」
予想外の答えに創吾が間の抜けた声を上げた。
「親父が再婚して生まれた妹。来年小学生になるんだよ。ランドセル買ってやる約束なんだ」
「はぁ~~~???」
創吾がずっと妬いていた相手は、なんと諒真の腹違いの妹だった。
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