107 / 110
最終章 その後の話
106話・嫉妬の相手
しおりを挟む再召喚される前に『大事な人がいるのか』と問われ、諒真は頷いた。当時は嫉妬に駆られてすぐに魔力発散のために戦ってしまい、詳しく聞かずじまいだった。思えば、魔王の呪い……能力がバレたら死に至る呪いではなく、実際は欲望や衝動を抑えられなくなる副作用のせいで冷静さを欠いていたからだろう。
(正常な状態の今、改めて聞くとショックが大きいな)
初めて異世界に召喚されるまで、遠く離れた場所で別々の人生を送っていたのだ。知らない交友関係があるのは当たり前だと創吾は自分に言い聞かせる。
「どんな人なんですか」
話を振った手前、一応尋ねておくのが普通だろう。本当は微塵も聞きたくないのに、創吾は笑顔を取り繕った。
「世界で一番可愛いよ」
「そうなんですか」
「小さくて、腕の中にすっぽり収まるくらい」
「へえ、小柄な女性なんですね」
『大事な人』を語る諒真はいつになく饒舌で上機嫌だ。話す様子を見て、その相手が本当に好きなのだと嫌でも分かる。諒真より背が低く腕の中に収まるということは、相手は随分と可愛らしい女性なのだろう。
その女性こそ、元の世界に戻ってきた理由。
創吾の胸の痛みは引くどころか酷くなった。
「久しぶりに会いたいんじゃないですか」
「って言っても再召喚される前日に会ったから、向こうからしたら『また?』って思われそう」
「行けば良かったのに。僕のところじゃなくて彼女のところに」
再召喚から一ヶ月以上経ったが、教皇のおかげで時間が戻っている。
そんなに頻繁に会っていたのかと創吾は眉をひそめた。必死に笑顔を作りながらも言葉の端につい棘を混ぜてしまう。せっかく来てくれたというのにうまく喋れない。
「じゃ、次の休みにでも会いに行くかな」
浮かれているせいか、諒真は創吾の態度の変化に全く気付いていない。手を伸ばされ、両肩を掴まれて「あれ?」と思ったくらい。
「──行かないでください」
泣きそうな顔で創吾が懇願する。
突然のことに、諒真は動揺を隠せなかった。
「えっと、なんで?」
「なんでって……!」
自分から『行けばいいのに』と言った癖に『行かないで』と矛盾した発言をする創吾に、諒真は首を傾げた。
意味が分からないといった顔で聞き返され、創吾は言葉を詰まらせた。こんなに胸を痛めているのに、原因である諒真には何ひとつ伝わっていない。
そこでようやく自分が一度も気持ちを告げていないことに思い当たった。
「僕は、諒真くんが好きなんです」
創吾は気持ちを言葉にした。
二十八年の人生の中で人を好きになったことは何度もあるが、諸々の理由で自分から告白した経験は無い。断られると分かった上で想いを告げたのは初めてで、柄にもなく声が震えた。
「え、おまえ、オレが好きなの……?」
告白された諒真は、ぽかんとした表情で創吾を見つめ返している。決してからかっているわけではない。いつもとは違う余裕が一切感じられない様子に、彼が本気なのだと分かった。
「でも、だって」
そんなはずがない、と今までのことを振り帰る。
魔力発散のため、動揺させて魔法を暴発させるために何度もキスされた。時には身体に触られたりもした。必要な行為だったからだ。そこに気持ちはないと思っていた。
異世界に再召喚されてから触れることはなくなったが、様子がおかしくなった際に一度だけ襲われた。あれは呪いの影響のせいで、創吾の本心ではなかった。そのはずだった。
「い、いつから……?」
「最初に異世界に召喚された時からです」
「ええ!?」
諒真が悲鳴をあげた。
まさかそんなに前から好かれていたとは思ってもいなかったからだ。
「この際なんで言っちゃいますけど、僕はずっと下心があって触れてました。君は純粋に頼りにしてくれていたのに」
「えぇ……?」
「軽蔑してもらって構いません。でも、僕の気持ちだけは否定しないでください」
両肩を掴まれ、泣きそうな顔で懇願され、諒真はしばらく茫然としていた。あまりのことに理解が追いつかず、思考がフリーズしてしまっている。
だが、だんだんと実感が湧いてきた。
「え、ホントに……?」
急に顔が熱くなり、手で頬を覆い隠す。
先ほどまで平気で見れていた創吾の顔がまともに見られなくなる。
「……た、多分オレも好きなんだと思う」
消え入りそうな声で諒真が答えると、今度は創吾が怪訝な顔をした。
「え。彼女は?」
「彼女なんかいないけど」
は?とお互いが眉間に皺を寄せて睨み合う。
「待ってください。さっきの『大事な人』って恋人じゃないんですか?」
「ここ数年フリーだって前に言わなかったっけ?今のは妹の話だよ」
「妹ぉ?」
予想外の答えに創吾が間の抜けた声を上げた。
「親父が再婚して生まれた妹。来年小学生になるんだよ。ランドセル買ってやる約束なんだ」
「はぁ~~~???」
創吾がずっと妬いていた相手は、なんと諒真の腹違いの妹だった。
10
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】
カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった──
十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。
下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。
猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。
だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ────
独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。
表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。
@amamiyakyo0217

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる