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騎士と聖女は共に眠る

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 カトリーナを壊した夜から、大分月日が経った。

 ガリアフールとの停戦合意後初の会談に向けて、俺は資料にペンを走らせていた。騎士団長としての仕事ぶりが認められ、少し前に俺は宰相に就任したのだ。

 確か、ガリアフール側の宰相も王立騎士団出身のはずだ。剣を交えていた者同士が外交の場で話し合うなど、不思議な巡り合わせである。

「ご準備は順調ですか?」

 寝室にやってきたカトリーナが、声をかけてきた。その手にはトレイを持っており、ティーセットが置かれている。

「ハーブティー、良かったら一緒にいかがですか?」

「……悪いな」

 ティーカップに茶が注がれ、温かな湯気がテーブルの上に広がった。

「このハーブは、安眠効果があるそうです。お味は、いかがでしょうか?」

「ああ、悪くない」

「あら、良かった」

 会談は明日、ガリアフール国内で行われる。それに、カトリーナも同伴する予定だ。

 彼女は結局、俺と別れることを選ばなかった。

 確かに夫婦二人の合意が無ければ、法律上離婚は成立しない。しかし、ドルシナウ王室に泣きつけばどうにでもなった筈だ。何なら俺を断頭台送りにもできたに違い無い。

 そこまで考えられない程に頭が悪かったのか、敢えて選ばなかったのかは分からない。そのことについて追及する気は無かった。

「お仕事は、終わりそうですか?」

「ああ、あと少しだ」

 ティーカップを置いて、カトリーナは自分の背後に立った。そして、後ろからゆっくりと抱きしめたのである。

「お昼寝の時も、お仕事の時も、夜寝る時も私と一緒で、息苦しくないのですか?」

「そっちこそ、こんな性格の悪い屑旦那にくっついているより、性格の良い男と再婚した方が幸せなんじゃないか?」

「ふふっ、さあどうでしょう?」

 質問を質問で返してみたが、返答が返ってこない。しかし、元からそれは期待しては無かった。

 この女が離れることなく自分の傍にいる。それだけで十分だからだ。

 とある出来事がきっかけで、俺は心の傷を彼女に知られてしまった。しかし、そこから明らかにカトリーナの態度が変わっていったのである。

 それまでは自分といる時は泣いてばかりいたのに、微笑みかけてくるようになったのである。その表情は、以前のような作り笑いでは無かった。

 カトリーナにどのような心境の変化があったかは分からない。けれども、結果的に俺は安眠を手に入れられたのである。

「それでは……ベッドでお待ちしておりますね」

「ああ、すぐ行く」

 二人を結びつけているのが依存心なのか執着心なのか、はたまた意地なのかは分からない。けれども、この繋がりが死ぬ瞬間まで続くことを願わずにはいられなかった。

 自分はこれまでの罰として、この女の手中に落ちたのかもしれない。けれどもそれは、ある種の幸せにも思えていた。

 今日も共に眠るという約束の口付けを、俺達はそっと交わした。
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