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君に惹かれた理由
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久しぶりにコウモリの姿になった。じめっとした空気の中でも宙を飛ぶといくらか爽快感がある。隣を飛ぶテテも同じように思っているようで時折くるりと回りながら楽しそうに俺に着いてきてきた。
数十分前に清飛のアパートから飛び立ってすぐは、共に気がかりで何度も振り返っていたが。
トン、と周囲に人のいない山の上に降り立つとコウモリから吸血鬼の姿に戻った。ずっと日本人の姿に化けていて、身長も変えていたから背の高さによる視界の広さを懐かしく感じる。
(この身長だと、清飛がより小さく感じてかわいかったな。)
バイトから帰ってきた時の清飛の姿を思い出し、口元がにやけそうになるのを堪える。テテがそんな俺の様子に気付き、呆れたようにため息を吐いた。
「テテさんその反応はなんですか」
「ぴゃ」
「こっちはテテみたいに清飛にぎゅーぎゅー抱きつけないんだからね。かわいさを噛み締めるくらい許してよ」
「ぴゃー」
「テテだって清飛のこと大好きでしょ」
「ぴゃ!」
散々呆れたような態度をとっておいて、最後の問いには自信満々に頷く様子に顔を綻ばせる。一緒にいると好みも似るのか、警戒心が強いはずのテテは驚くほど清飛によく懐いた。
(初対面の時に無理に触らなかったからかな。)
清飛は俺が触って良いと言っても、テテに確認をとるようにゆっくりと手を伸ばし、大丈夫だと判断して頭を撫でていた。驚かせないように気を遣ったような丁寧なその行為はテテも、心地よかったようで尻尾を振って喜んでいた。
清飛の表情の変化に気付いたのはその時だった。俺が吸血鬼だと知り、実際に血を吸われた後も全く動じておらず不思議な子だなと思っていたが、テテを撫で始めるとまるで蕾が綻ぶように優しい顔つきになったのだ。恐らく気持ちとは別のところで、本能的に別の種族に対する緊張感を感じていたのだろう。当然、緊張するよなと思うと同時に芽生えた思いはもう一つあった。
(かわいかったよね。やっぱり。)
助けてくれた時には不思議な子だと思ったのが、特にかわいい子だと変化したのはあの時だった。清飛は日本人の年齢にしては大人っぽい顔つきだし、一人暮らしをしていてしっかりしてる子だと思ったからそのギャップもあるとは思うけれど。
それがまさか、一緒に生活していくうちに自分の好みのどストライクな子だったと気付いた時は驚いた。
「色々と考え込んでたから一回離れてみたけど、やっぱり離れたくなかったよね」
「ぴゃ……」
「とりあえず、暫くの間生き抜かなきゃ!じゃあテテ、段取り通りおつかい頼んで良い?」
「ぴゃ!」
テテが羽ばたいて、差し出した俺の掌の上に乗った。その掌を顔の前に持ってきて、テテの額と俺の額をぴたりと合わせる。額が擽ったい。
「常備血の、タブレットのタイプで大丈夫だよ」
「ぴゃー」
「それを……一週間分くらいかな。明日には戻ってこれるね?」
「ぴゃー……」
心配そうなテテの鳴き声から「一週間分で本当に大丈夫?」という不安な感じとれる。清飛に出会う前に倒れたあの時、テテは大泣きしていたのだ。その時のことを思い出しているのだろう。
心配してくれるテテの様子が嬉しくて、安心させるように笑う。
「大丈夫だよ。もし一週間後に清飛の所に戻って拒絶されたらまたおつかい頼んじゃうかもしれないけど、あの時みたいにヘマはしない。余力は残しておく」
拒絶されないのが一番嬉しいけど、という気弱な言葉は飲み込んだ。
「じゃあ、テテ!お願いね」
「ぴゃ!」
額を合わせまま掌でそっとテテを包むと、再度その姿はコウモリになった。可愛らしいリスのような姿からの変化は正直に言うと少し不気味だ。きっと俺のコウモリの姿もそうなのだろうと思うと、恥ずかしいので清飛には見せたくない。
テテはパタパタと、俺の目を見ながら名残惜しそうに後方に下がっていくが、意を決したように身を翻し空へと飛び上がった。姿が見えなくなるまで見送ったあと、「ふう」と息を吐いて地面に座り込んだ。
「やっぱり疲れるな、これ」
先程、額を合わせた時に俺の気をテテに送った。こうすることで俺には見えない糸のようなものがテテには見えるらしく、それが帰ってくる道標となる。もし場所を移動したとしてもテテは俺を見つけることができるのだ。
前回の満月の日を勘違いした時も、本来であればテテにおつかいを頼んで常備血を持ってきてもらえば良かったのだが気付いた時にはそれが出来るほど体力も気も足りていなかった。自分の体調が万全でないとおつかいを頼むのが難しく、上手く道標を作ることができないのだ。結局、血を吸うことができないまま途方に暮れて倒れることとなってしまった。
(あれは地獄だった。)
目眩により常に足元が揺れているような感覚と、徐々に遠のいていく意識、テテの泣き声が耳元からしているはずなのに遠くからこもったように聞こえきて「ああ、もうここで死ぬんだな……」と諦めかけた。ずっと夢だった、伴侶を得て幸せに暮らすことは叶わないのかと悔いていたところで現れたのが清飛だ。あの時に吸った血は少量だったが、直接吸うとこんなにも力が漲ってくるのかと驚いた程だ。
清飛は大袈裟と言うが、生命を救ってくれた行為が大袈裟だなんてとんでもない。日々の家事を感謝する一方で申し訳なさそうにしていたが、一生をかけても返せないような恩を俺は感じている。だからこんなに早く離れたくない……というのはあくまでも一つの理由に過ぎないけれども。結局、俺はかわいくて優しいあの子に惹かれているのだ。
「とりあえず、移動しようかな」
ずっとこの山にいるのも良いが、どうせならもっと涼しい場所に行きたい。清飛のいないここは暑すぎる。
コウモリの姿だと比較的動きやすいので、自分の体の状態からまだ大丈夫だと判断し、再び俺も姿を変えて夜空へと飛び立った。
数十分前に清飛のアパートから飛び立ってすぐは、共に気がかりで何度も振り返っていたが。
トン、と周囲に人のいない山の上に降り立つとコウモリから吸血鬼の姿に戻った。ずっと日本人の姿に化けていて、身長も変えていたから背の高さによる視界の広さを懐かしく感じる。
(この身長だと、清飛がより小さく感じてかわいかったな。)
バイトから帰ってきた時の清飛の姿を思い出し、口元がにやけそうになるのを堪える。テテがそんな俺の様子に気付き、呆れたようにため息を吐いた。
「テテさんその反応はなんですか」
「ぴゃ」
「こっちはテテみたいに清飛にぎゅーぎゅー抱きつけないんだからね。かわいさを噛み締めるくらい許してよ」
「ぴゃー」
「テテだって清飛のこと大好きでしょ」
「ぴゃ!」
散々呆れたような態度をとっておいて、最後の問いには自信満々に頷く様子に顔を綻ばせる。一緒にいると好みも似るのか、警戒心が強いはずのテテは驚くほど清飛によく懐いた。
(初対面の時に無理に触らなかったからかな。)
清飛は俺が触って良いと言っても、テテに確認をとるようにゆっくりと手を伸ばし、大丈夫だと判断して頭を撫でていた。驚かせないように気を遣ったような丁寧なその行為はテテも、心地よかったようで尻尾を振って喜んでいた。
清飛の表情の変化に気付いたのはその時だった。俺が吸血鬼だと知り、実際に血を吸われた後も全く動じておらず不思議な子だなと思っていたが、テテを撫で始めるとまるで蕾が綻ぶように優しい顔つきになったのだ。恐らく気持ちとは別のところで、本能的に別の種族に対する緊張感を感じていたのだろう。当然、緊張するよなと思うと同時に芽生えた思いはもう一つあった。
(かわいかったよね。やっぱり。)
助けてくれた時には不思議な子だと思ったのが、特にかわいい子だと変化したのはあの時だった。清飛は日本人の年齢にしては大人っぽい顔つきだし、一人暮らしをしていてしっかりしてる子だと思ったからそのギャップもあるとは思うけれど。
それがまさか、一緒に生活していくうちに自分の好みのどストライクな子だったと気付いた時は驚いた。
「色々と考え込んでたから一回離れてみたけど、やっぱり離れたくなかったよね」
「ぴゃ……」
「とりあえず、暫くの間生き抜かなきゃ!じゃあテテ、段取り通りおつかい頼んで良い?」
「ぴゃ!」
テテが羽ばたいて、差し出した俺の掌の上に乗った。その掌を顔の前に持ってきて、テテの額と俺の額をぴたりと合わせる。額が擽ったい。
「常備血の、タブレットのタイプで大丈夫だよ」
「ぴゃー」
「それを……一週間分くらいかな。明日には戻ってこれるね?」
「ぴゃー……」
心配そうなテテの鳴き声から「一週間分で本当に大丈夫?」という不安な感じとれる。清飛に出会う前に倒れたあの時、テテは大泣きしていたのだ。その時のことを思い出しているのだろう。
心配してくれるテテの様子が嬉しくて、安心させるように笑う。
「大丈夫だよ。もし一週間後に清飛の所に戻って拒絶されたらまたおつかい頼んじゃうかもしれないけど、あの時みたいにヘマはしない。余力は残しておく」
拒絶されないのが一番嬉しいけど、という気弱な言葉は飲み込んだ。
「じゃあ、テテ!お願いね」
「ぴゃ!」
額を合わせまま掌でそっとテテを包むと、再度その姿はコウモリになった。可愛らしいリスのような姿からの変化は正直に言うと少し不気味だ。きっと俺のコウモリの姿もそうなのだろうと思うと、恥ずかしいので清飛には見せたくない。
テテはパタパタと、俺の目を見ながら名残惜しそうに後方に下がっていくが、意を決したように身を翻し空へと飛び上がった。姿が見えなくなるまで見送ったあと、「ふう」と息を吐いて地面に座り込んだ。
「やっぱり疲れるな、これ」
先程、額を合わせた時に俺の気をテテに送った。こうすることで俺には見えない糸のようなものがテテには見えるらしく、それが帰ってくる道標となる。もし場所を移動したとしてもテテは俺を見つけることができるのだ。
前回の満月の日を勘違いした時も、本来であればテテにおつかいを頼んで常備血を持ってきてもらえば良かったのだが気付いた時にはそれが出来るほど体力も気も足りていなかった。自分の体調が万全でないとおつかいを頼むのが難しく、上手く道標を作ることができないのだ。結局、血を吸うことができないまま途方に暮れて倒れることとなってしまった。
(あれは地獄だった。)
目眩により常に足元が揺れているような感覚と、徐々に遠のいていく意識、テテの泣き声が耳元からしているはずなのに遠くからこもったように聞こえきて「ああ、もうここで死ぬんだな……」と諦めかけた。ずっと夢だった、伴侶を得て幸せに暮らすことは叶わないのかと悔いていたところで現れたのが清飛だ。あの時に吸った血は少量だったが、直接吸うとこんなにも力が漲ってくるのかと驚いた程だ。
清飛は大袈裟と言うが、生命を救ってくれた行為が大袈裟だなんてとんでもない。日々の家事を感謝する一方で申し訳なさそうにしていたが、一生をかけても返せないような恩を俺は感じている。だからこんなに早く離れたくない……というのはあくまでも一つの理由に過ぎないけれども。結局、俺はかわいくて優しいあの子に惹かれているのだ。
「とりあえず、移動しようかな」
ずっとこの山にいるのも良いが、どうせならもっと涼しい場所に行きたい。清飛のいないここは暑すぎる。
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