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土下座と「ただいま」
八十、
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「また一緒にごはん食べよ。清飛とお出かけとかもしてみたいし、もっと話したい。意外と俺はあまり清飛のこと知らないからもっと知ってみたいんだ。……今度は恩人とか、そういうのじゃなくて」
「恩人だから」と、事あるごとに口にしていたその言葉をケリー自らが撤回した。今まで一線をひいていた同居人から、もっと親しい仲になれるのかもしれないと思って、嬉しくなった。
しかし、結局一緒にいると何かとケリーの負担が大きくなるのではないかと思う。役割分担できたら良いけど、なんだかんだ家事は自分から動こうとするだろう。本当に嫌ではないのだろうかと、それが唯一の気がかりだった。
「何か難しいこと考えてる?」
「……ケリーはそれで良いの?」
「え?俺が嫌だと思いそうなことがあった?」
「家事とか、結局やってくれるだろうし」
「なんだ!好きでやってるんだから気にしなくて良いのに」
「でも、俺は何も返せない……」
「それはまだ……いや、なんでもない。というか、清飛はやっぱり嫌とか思わない?一人でいたいって思う?」
「思わない」
きっぱりと、意外と語気が強くなってしまって自分でも驚いた。だけどもう、これだけは正直に言おうと重ねて答えた。
「ケリーとテテがいてくれるなら幸せだって思う」
俺がはっきり答える様子が意外だったのか、ケリーは一瞬ポカンとした表情を浮かべた。そして、その後満面の笑みを浮かべ殊更嬉しそうに言った。
「そっか、良かった」
「ぴゃー!」
その笑顔があまりにも嬉しそうだったから、ああ、本当に大丈夫なんだと安心してしまって、負担とか心配とかで堰き止められていた思いが溢れ出し自然と口から言葉が出ていた。
「傍にいてくれる?ケリー、テテ」
「うん、もちろん!」
「ぴゃー!!!」
肯定してくれたのが嬉しくて、不意に視界が滲んだ。だけど、心配をかけたくなくて口元に精一杯の笑みを浮かべて、
「……これからも、よろしくね」
と震える声を堪えながら言った。
「こちらこそ、またよろしくね!清飛」
「ぴゃー!」
ケリーとテテの声に強く頷くと、本当に心の底から安心感が込み上げてきた。
「ところで、話し込んどいて悪いんだけど」
「なに?」
「学校は大丈夫?」
「……あ」
ケリーに問われ、スマホで時間を確認すると普段乗る電車はもう間に合いそうになかった。次の電車に乗ってもHRには間に合わない。
「遅刻確定」
「ごめん!」
「いや、俺も話したかったし。諦めてゆっくり行くよ」
そう答えて、たくさん話して喉が渇いていたのでお茶を一口啜った。まだ五分程はゆっくりできる。
「あ、そうだ!これお弁当!」
「え?ああ……そっか。ありがと。あ、お肉……」
「お肉?」
「ケリーが浸けておいてくれたお肉、焼いたけど残ってて……」
「ああ、あったね!俺食べていい?」
「……いいけど、なんで嬉しそうなの?」
「清飛の手作りだし!」
「作ってはない」
味付けはケリーであくまでも俺は焼いただけ。食べる前に切り分けたけど、俺の食べ残しなんて嫌じゃないだろうか、とやはり断ろうとしたがなぜだか嬉しそうだったのでそっとしておいた。
(簡単な料理、覚えよう。)
誰かが作ってくれた料理が嬉しいというのは知っているから、きっとケリーもそうなんだろうなと勝手に納得した。
以前のような、のんびりとした会話をしていると、そういえばとふと思い立った。
(今更だけど。)
「ケリー、テテ」
「ん?なに?」
「ぴゃ?」
「おかえり」
久しぶりに会って、再会の挨拶もしていなかった。俺の言葉に、ケリーとテテは手をポンと打った。
「ただいま、清飛」
「ぴゃー!」
テテが駆け寄ってきて、腕をつたって肩にのった。そして、ちゅっと俺の頬にキスをした。可愛くて愛らしくて、あまり重さをかけないように気をつけてテテに擦り寄る。ケリーはなんとも言い難い表情を浮かべて、俺とテテの様子を見ていた。
その後、学校に向かうとHR中に教室に行き「おー、杉野。寝坊か?」と滝野に声をかけられながら自分の席に向かった。
一限目の前に振り返った清水にじっと顔を見られて、不思議に思って首を傾げると親指をぐっと立てられ満足そうに頷かれた。
「……なに?」
「何か解決したなら良かった」
「……そっか」
一体何をどこまで気付いているのだろうかと、この友人の聡い部分に恐ろしさすら感じてしまった。
しかし、
「本当に良かった」
口元に柔らかな笑みを浮かべ、優しい表情でそう言う清水がどれだけ俺を心配してくれていたのかはもう知っている。その表情を見て、漸く本当に安心させることができたとホッとした。
「何があったかまた教えて」
「あ、うん」
「これはただの野次馬」
「なんだそれ」
野次馬とか、自分で言うかと冗談でもないような声色で言われてつい笑ってしまった。
笑い声をあげるとここ数日で、一番自分の心が軽くなったことを実感することができた。
これからまた、ケリーとテテとの生活が始まる。一緒にいられることが嬉しくて、心の中は安堵感で満たされていた。でも、正直に言うと不安もあった。何がきっかけでまたトラウマに苛まれるか分からないから。心地よい日々を送っていても、もしかしたらまた苦しくなる日がくるかもしれないと過去の経験からその思いを捨て去ることはできそうになかった。
しかし、今はその「もし」を考えるのをやめよう。自分の身を案じてくれる友人もいるのだ。苦しいだけの日々はもう来ないと、信じようと心に決めた。
「恩人だから」と、事あるごとに口にしていたその言葉をケリー自らが撤回した。今まで一線をひいていた同居人から、もっと親しい仲になれるのかもしれないと思って、嬉しくなった。
しかし、結局一緒にいると何かとケリーの負担が大きくなるのではないかと思う。役割分担できたら良いけど、なんだかんだ家事は自分から動こうとするだろう。本当に嫌ではないのだろうかと、それが唯一の気がかりだった。
「何か難しいこと考えてる?」
「……ケリーはそれで良いの?」
「え?俺が嫌だと思いそうなことがあった?」
「家事とか、結局やってくれるだろうし」
「なんだ!好きでやってるんだから気にしなくて良いのに」
「でも、俺は何も返せない……」
「それはまだ……いや、なんでもない。というか、清飛はやっぱり嫌とか思わない?一人でいたいって思う?」
「思わない」
きっぱりと、意外と語気が強くなってしまって自分でも驚いた。だけどもう、これだけは正直に言おうと重ねて答えた。
「ケリーとテテがいてくれるなら幸せだって思う」
俺がはっきり答える様子が意外だったのか、ケリーは一瞬ポカンとした表情を浮かべた。そして、その後満面の笑みを浮かべ殊更嬉しそうに言った。
「そっか、良かった」
「ぴゃー!」
その笑顔があまりにも嬉しそうだったから、ああ、本当に大丈夫なんだと安心してしまって、負担とか心配とかで堰き止められていた思いが溢れ出し自然と口から言葉が出ていた。
「傍にいてくれる?ケリー、テテ」
「うん、もちろん!」
「ぴゃー!!!」
肯定してくれたのが嬉しくて、不意に視界が滲んだ。だけど、心配をかけたくなくて口元に精一杯の笑みを浮かべて、
「……これからも、よろしくね」
と震える声を堪えながら言った。
「こちらこそ、またよろしくね!清飛」
「ぴゃー!」
ケリーとテテの声に強く頷くと、本当に心の底から安心感が込み上げてきた。
「ところで、話し込んどいて悪いんだけど」
「なに?」
「学校は大丈夫?」
「……あ」
ケリーに問われ、スマホで時間を確認すると普段乗る電車はもう間に合いそうになかった。次の電車に乗ってもHRには間に合わない。
「遅刻確定」
「ごめん!」
「いや、俺も話したかったし。諦めてゆっくり行くよ」
そう答えて、たくさん話して喉が渇いていたのでお茶を一口啜った。まだ五分程はゆっくりできる。
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「え?ああ……そっか。ありがと。あ、お肉……」
「お肉?」
「ケリーが浸けておいてくれたお肉、焼いたけど残ってて……」
「ああ、あったね!俺食べていい?」
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以前のような、のんびりとした会話をしていると、そういえばとふと思い立った。
(今更だけど。)
「ケリー、テテ」
「ん?なに?」
「ぴゃ?」
「おかえり」
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テテが駆け寄ってきて、腕をつたって肩にのった。そして、ちゅっと俺の頬にキスをした。可愛くて愛らしくて、あまり重さをかけないように気をつけてテテに擦り寄る。ケリーはなんとも言い難い表情を浮かべて、俺とテテの様子を見ていた。
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