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土下座と「ただいま」
七十九、
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「傷つけたって、なんのこと?」
ケリーに謝られる覚えなんて無い。今の話の流れでいつケリーが俺を傷つけたというのだろう。
「あの日、清飛が帰ってきた時から様子が可笑しいことには気付いてた。テテを見て元気になってもすぐにまた表情が曇って心配したけど、移住のこと伝えたかったから話しかけたら「帰るんだよね」って言われてああ、このせいか、って思った」
「まあ、うん。俺もその日に思い出したから」
「俺、それで勝手に嬉しくなったんだ。寂しがってくれてるって気付いて。清飛が俺とテテと離れること嫌だと思ってくれてるんだって」
その言葉に驚き、口をポカンと開ける。そりゃ上手く隠し通せる程自分が器用では無いとは思っていたけど、まさかその段階で寂しがってると気付かれていたとは思っていなかった。面と向かって言われると恥ずかしさがこみあげてきて、顔が熱くなってくる。
(テテは泣いてたから、俺の言葉信じただろうし……いや、そもそも動物?相手だからそれもまた変な話か……。)
テテが信じたからケリーも、なんて変な考えが浮かんですぐに振り払う。そんな俺の様子を不思議そうな目で見つめてきたので「なんでもない」と言って続きを促した。
「移住のこと伝えたらもしかしたら喜んでくれるかもって思ったよ。だけど、いざ言おうとして不安になったんだ」
「……不安?なんで?」
「自分の直感に自信が無かった。ただの勘違いなんじゃないかって思ったんだ。清飛は言葉の通り本当は一緒にいるのが嫌だと思っていて、俺はその気持ちを無視して言いくるめようとしてしまうんじゃないかって」
「変なところで俺は臆病なんだ」と、ケリーは珍しく自嘲気味に言った。そんなケリーを見るのは初めてで、少し戸惑った。(テテが「この吸血鬼情けないよね」というようにため息を吐いた様子が可愛らしい。)
ケリーの行動自体はなんだか納得できた。しかし、その行動の理由が臆病故なのだろうかと首を傾げる。
(やっぱり、優しいからだ。ケリーは。)
すぐに、人の気持ちを優先しようとするケリーの性格故だと頭の中で否定した。
「だから、少しの間だけ清飛と離れてみることにした。戻ってきた時に清飛の様子が普段通りだったら今度こそ一旦元の世界に帰ろうと思ってた。もし寂しいと思ってたとしても料理さえ作っておけば問題無く過ごせるだろうって。だけど……」
「だけど?」
「俺の考えがすごく甘かったって、昨夜の清飛見て物凄く申し訳なくなった」
「え?なんで?」
「なんでって……自覚ない?顔はやつれていたし、目の下は隈があった。多分体重も落ちてると思う」
「そんなに言うほど……?」
「酷かったよ」
確かに、体調は崩していたけどもう熱は下がっているし昨日はしっかり晩ごはんも食べた。体は快方に向かっていたし心配されるような状態だとは思っていなかった。
(戻ってきたのが昨日で良かったかもしれない。)
もしもう数日早かったら、もっと心配をかけていたかも……そう思ったところではたと気付いた。
「もしかして……昨日血を吸おうとしていたのって俺の体調を心配したから?」
そう聞くとギクリと体を震わせ、落ち込んだように顔を伏せた。
「うん……体調悪そう、どうしようってパニックになって咄嗟に血を吸ったら良くなるだろうって思って」
「なるほど」
「怖かったよね、ごめんなさい」
しゅん……と落ち込むケリーはなんだか可愛かった。(テテがケリーの肩に飛び乗って小さな掌でほっぺをぱしんっと叩いた。ケリーには悪いが怒ってくれるテテに感動した。)
「大丈夫だよ」
確かに、昨夜のケリーは怖かった。何も言わないまま上に乗り上げてきて、いきなり血を吸われそうになって体の震えは止まらなかった。しかし、途中で我に返っていたし悔やむように謝ってくれたからとりあえず安心できた。そして、今理由を知ってすんなりと納得してしまった。
(結局、出て行った理由も戻ってきた理由も、昨夜強引に血を吸おうとしたのも全部俺を思っての行動じゃないか。)
出て行った理由は俺の気持ちを優先しようとしたからだし、戻ってきた理由は俺を心配してくれていたからだし、昨夜の行為は体調を回復させようとしてくれていたからだし。総じて聞くと自分の子供じみた考えや情けなさでケリーに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(ケリーは謝ってくれたけど、謝るのは俺の方だ。)
ケリーが話を遮った時にちゃんと聞いていれば良かった。嘘だとしても「面倒くさい」なんて言わなければ良かった。
「ケリー、ごめん」
「へ?なんで?」
「ちゃんとケリーの話を聞けば良かったって思って」
そう言うと、ケリーの手が伸びてきて頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「結局は俺の意思で話さなかったんだから、清飛が悪い訳じゃないよ。だけどそう言ってくれると嬉しい」
「それは、またなんで?」
「話を聞いたら受け入れてくれたんだなって思って」
嬉しそうにケリーは笑って、こう言った。
「清飛、傍にいても良い?」
その言葉が嫌な訳が無かった。次の満月までなど、明確な期限のない日々。誰もいないアパートに帰られなくても良いということがどれほど幸せなことなのか、ケリーとテテがいなくなって強く実感したのだ。その日々が返ってくるなら、願ってもないことだった。
ケリーに謝られる覚えなんて無い。今の話の流れでいつケリーが俺を傷つけたというのだろう。
「あの日、清飛が帰ってきた時から様子が可笑しいことには気付いてた。テテを見て元気になってもすぐにまた表情が曇って心配したけど、移住のこと伝えたかったから話しかけたら「帰るんだよね」って言われてああ、このせいか、って思った」
「まあ、うん。俺もその日に思い出したから」
「俺、それで勝手に嬉しくなったんだ。寂しがってくれてるって気付いて。清飛が俺とテテと離れること嫌だと思ってくれてるんだって」
その言葉に驚き、口をポカンと開ける。そりゃ上手く隠し通せる程自分が器用では無いとは思っていたけど、まさかその段階で寂しがってると気付かれていたとは思っていなかった。面と向かって言われると恥ずかしさがこみあげてきて、顔が熱くなってくる。
(テテは泣いてたから、俺の言葉信じただろうし……いや、そもそも動物?相手だからそれもまた変な話か……。)
テテが信じたからケリーも、なんて変な考えが浮かんですぐに振り払う。そんな俺の様子を不思議そうな目で見つめてきたので「なんでもない」と言って続きを促した。
「移住のこと伝えたらもしかしたら喜んでくれるかもって思ったよ。だけど、いざ言おうとして不安になったんだ」
「……不安?なんで?」
「自分の直感に自信が無かった。ただの勘違いなんじゃないかって思ったんだ。清飛は言葉の通り本当は一緒にいるのが嫌だと思っていて、俺はその気持ちを無視して言いくるめようとしてしまうんじゃないかって」
「変なところで俺は臆病なんだ」と、ケリーは珍しく自嘲気味に言った。そんなケリーを見るのは初めてで、少し戸惑った。(テテが「この吸血鬼情けないよね」というようにため息を吐いた様子が可愛らしい。)
ケリーの行動自体はなんだか納得できた。しかし、その行動の理由が臆病故なのだろうかと首を傾げる。
(やっぱり、優しいからだ。ケリーは。)
すぐに、人の気持ちを優先しようとするケリーの性格故だと頭の中で否定した。
「だから、少しの間だけ清飛と離れてみることにした。戻ってきた時に清飛の様子が普段通りだったら今度こそ一旦元の世界に帰ろうと思ってた。もし寂しいと思ってたとしても料理さえ作っておけば問題無く過ごせるだろうって。だけど……」
「だけど?」
「俺の考えがすごく甘かったって、昨夜の清飛見て物凄く申し訳なくなった」
「え?なんで?」
「なんでって……自覚ない?顔はやつれていたし、目の下は隈があった。多分体重も落ちてると思う」
「そんなに言うほど……?」
「酷かったよ」
確かに、体調は崩していたけどもう熱は下がっているし昨日はしっかり晩ごはんも食べた。体は快方に向かっていたし心配されるような状態だとは思っていなかった。
(戻ってきたのが昨日で良かったかもしれない。)
もしもう数日早かったら、もっと心配をかけていたかも……そう思ったところではたと気付いた。
「もしかして……昨日血を吸おうとしていたのって俺の体調を心配したから?」
そう聞くとギクリと体を震わせ、落ち込んだように顔を伏せた。
「うん……体調悪そう、どうしようってパニックになって咄嗟に血を吸ったら良くなるだろうって思って」
「なるほど」
「怖かったよね、ごめんなさい」
しゅん……と落ち込むケリーはなんだか可愛かった。(テテがケリーの肩に飛び乗って小さな掌でほっぺをぱしんっと叩いた。ケリーには悪いが怒ってくれるテテに感動した。)
「大丈夫だよ」
確かに、昨夜のケリーは怖かった。何も言わないまま上に乗り上げてきて、いきなり血を吸われそうになって体の震えは止まらなかった。しかし、途中で我に返っていたし悔やむように謝ってくれたからとりあえず安心できた。そして、今理由を知ってすんなりと納得してしまった。
(結局、出て行った理由も戻ってきた理由も、昨夜強引に血を吸おうとしたのも全部俺を思っての行動じゃないか。)
出て行った理由は俺の気持ちを優先しようとしたからだし、戻ってきた理由は俺を心配してくれていたからだし、昨夜の行為は体調を回復させようとしてくれていたからだし。総じて聞くと自分の子供じみた考えや情けなさでケリーに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(ケリーは謝ってくれたけど、謝るのは俺の方だ。)
ケリーが話を遮った時にちゃんと聞いていれば良かった。嘘だとしても「面倒くさい」なんて言わなければ良かった。
「ケリー、ごめん」
「へ?なんで?」
「ちゃんとケリーの話を聞けば良かったって思って」
そう言うと、ケリーの手が伸びてきて頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「結局は俺の意思で話さなかったんだから、清飛が悪い訳じゃないよ。だけどそう言ってくれると嬉しい」
「それは、またなんで?」
「話を聞いたら受け入れてくれたんだなって思って」
嬉しそうにケリーは笑って、こう言った。
「清飛、傍にいても良い?」
その言葉が嫌な訳が無かった。次の満月までなど、明確な期限のない日々。誰もいないアパートに帰られなくても良いということがどれほど幸せなことなのか、ケリーとテテがいなくなって強く実感したのだ。その日々が返ってくるなら、願ってもないことだった。
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