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土下座と「ただいま」
七十八、
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「移住……?」
そんなこと初めて聞いて、戸惑う。
「そう!」
「なんで?」
「そんなに深い意味は無いよ。生きる時間が永いから、そういう時期があっても良いかなって思ってただけ」
聞くと、ケリーはこれまで旅行の傍ら移住の地を探していたそうだ。満月の日にこっちの世界に来て色んな土地を見て周り、また満月の日に帰っていく……それを何度も繰り返していたらしい。帰りそびれたという理由もあるが、これ程まで同じ場所に留まったのは日本が初めてだとも言った。そして、暮らしているうちに気持ちが固まってきたのだと。
「ってことは……日本に住もうかなって、思ってるってこと?」
「そういうこと!」
俺の言葉にケリーは元気よく頷いたが、正直なぜ?という思いだった。
(なんの為に?なんで日本?)
一緒に暮らしていた時から日本が好きなんだろうなとは思っていた。初めて会った時も四季が美しいと言っていたし、作ってくれる料理も和食が多かった。しかし、制約が多いのが新鮮だと言っていたし、そこは懸念材料にはならないのか。好きなように自由に生きる吸血鬼にとってはずっと日本で暮らすのは大変ではないだろうか。
俺が難しい顔をしていたからだろう、ケリーは明るい調子で言った。
「永住するかしないかは分からないし、とりあえず暫くは住んでみようかなって感じだよ!好きな場所に留まろうと思うのは変じゃないでしょ」
「ああ、そっか。なるほど」
移住=ずっとここで暮らすのだと思っていたが、そうを聞くともっと気楽なことのように思えた。自由気ままな吸血鬼にとってはどこに住もうにも気軽に決められるのだ。数年日本で暮らして、他の国に行くことも、帰ることだってできる。俺が深刻に考え過ぎていただけだと、不思議と納得してしまった。
しかし、そこまで考えて身勝手ながら沸々と怒りが沸いてきた。
「あの日に帰るつもりは無かったってこと?」
一週間前の満月の日、「今までありがとう」「さよなら」と言ったにも関わらず帰るつもりなど無かったのだ。ケリーの話を聞いていると、あの日に気が変わって帰らなかったのではなく、元々決めていた事項のようだった。寂しさを堪えて見送った俺がなんだか馬鹿みたいで、つい棘のある言い方をしてしまった。
「……うん」
気まずそうに目を逸らしながら肯定され、更に苛立ちは募る。
伝えてくれていたらあんなに悩むことも無かった。テテのお皿を見つけて会いたいと焦がれて泣くことも無かった。体調を崩して清水に心配をかけることもなかった。悲しい夢を見て、一人を実感することもなかった。
この一週間、どれだけ落ち込んだだろう。どれだけ気を揉んだだろう。ケリーがいなくなってからの日々を思い出し、不満を露わに言葉をぶつけようとした。ところが、
「言おうとした」
「……え?」
その言葉に虚をつかれて苛立ちは一旦鎮まった。ケリーは苦笑を浮かべながら、逸らしていた目を真っ直ぐ俺に向ける。
「言おうとした?」
「うん」
「そんなこと、一度も……」
「俺が清飛に話があるって言った日」
「話……?」
「二週間前かな?帰るんだよねって言われた時」
その言葉にハッとする。
昼休みに清水と話していて、ケリーが満月の日に帰ることができると思い出した日のことだ。俺はケリーがいなくなるという事実で頭の中がいっぱいで、話を振られた時もそのことを言われるのだと思っていた。
思い出してみると俺が話している最中ケリーは一度「清飛……あのさ」と話を遮ろうとしていたようにも感じる。しかし、ケリーの口からお別れの話を聞くのが辛くて、話す隙も与えない程一人で喋り席を立った。その後、ケリーの元に戻ると苦笑とともに頭を下げられた。
(俺が聞こうとしなかったのか……。)
でも、それでも、言ってくれたら良かったではないか。帰るつもりでいたけど、やっぱり日本で暮らそうと思っているって。
そう言い返そうとしたが、ケリーは確認するように言った。
「「面倒くさい」って言ったでしょ、清飛」
「あ……」
頭をガンと殴られたような気分になった。
(そうだ、虫のいい話だ……。)
つらつらと、誰かと一緒に過ごすのは嫌だと、他人の生活音が苦手だと、この日々が続くのが面倒くさいと言ったのは俺だ。そして、あと一週間は我慢すると言った。そんな奴に日本で暮らそうと思ってるなんて言う訳が無いのだ。
(馬鹿だった。俺が怒る筋合いなんて……。)
自分のことを棚にあげて、何を言っているのだろう。
しかし、
「……って、ごめん!こう言うと責めてるみたいだけど、違うからね!」
自分の言った言葉を強く後悔していると、ケリーが慌てたように言ったので顔をあげる。
「え?」
「嘘だろうな、って分かってたから。」
「むしろ俺の心が弱かったせいで清飛を傷つけちゃって、ごめん!」とケリーは深く頭を下げた。(今度は土下座ではなかった。)
そんなこと初めて聞いて、戸惑う。
「そう!」
「なんで?」
「そんなに深い意味は無いよ。生きる時間が永いから、そういう時期があっても良いかなって思ってただけ」
聞くと、ケリーはこれまで旅行の傍ら移住の地を探していたそうだ。満月の日にこっちの世界に来て色んな土地を見て周り、また満月の日に帰っていく……それを何度も繰り返していたらしい。帰りそびれたという理由もあるが、これ程まで同じ場所に留まったのは日本が初めてだとも言った。そして、暮らしているうちに気持ちが固まってきたのだと。
「ってことは……日本に住もうかなって、思ってるってこと?」
「そういうこと!」
俺の言葉にケリーは元気よく頷いたが、正直なぜ?という思いだった。
(なんの為に?なんで日本?)
一緒に暮らしていた時から日本が好きなんだろうなとは思っていた。初めて会った時も四季が美しいと言っていたし、作ってくれる料理も和食が多かった。しかし、制約が多いのが新鮮だと言っていたし、そこは懸念材料にはならないのか。好きなように自由に生きる吸血鬼にとってはずっと日本で暮らすのは大変ではないだろうか。
俺が難しい顔をしていたからだろう、ケリーは明るい調子で言った。
「永住するかしないかは分からないし、とりあえず暫くは住んでみようかなって感じだよ!好きな場所に留まろうと思うのは変じゃないでしょ」
「ああ、そっか。なるほど」
移住=ずっとここで暮らすのだと思っていたが、そうを聞くともっと気楽なことのように思えた。自由気ままな吸血鬼にとってはどこに住もうにも気軽に決められるのだ。数年日本で暮らして、他の国に行くことも、帰ることだってできる。俺が深刻に考え過ぎていただけだと、不思議と納得してしまった。
しかし、そこまで考えて身勝手ながら沸々と怒りが沸いてきた。
「あの日に帰るつもりは無かったってこと?」
一週間前の満月の日、「今までありがとう」「さよなら」と言ったにも関わらず帰るつもりなど無かったのだ。ケリーの話を聞いていると、あの日に気が変わって帰らなかったのではなく、元々決めていた事項のようだった。寂しさを堪えて見送った俺がなんだか馬鹿みたいで、つい棘のある言い方をしてしまった。
「……うん」
気まずそうに目を逸らしながら肯定され、更に苛立ちは募る。
伝えてくれていたらあんなに悩むことも無かった。テテのお皿を見つけて会いたいと焦がれて泣くことも無かった。体調を崩して清水に心配をかけることもなかった。悲しい夢を見て、一人を実感することもなかった。
この一週間、どれだけ落ち込んだだろう。どれだけ気を揉んだだろう。ケリーがいなくなってからの日々を思い出し、不満を露わに言葉をぶつけようとした。ところが、
「言おうとした」
「……え?」
その言葉に虚をつかれて苛立ちは一旦鎮まった。ケリーは苦笑を浮かべながら、逸らしていた目を真っ直ぐ俺に向ける。
「言おうとした?」
「うん」
「そんなこと、一度も……」
「俺が清飛に話があるって言った日」
「話……?」
「二週間前かな?帰るんだよねって言われた時」
その言葉にハッとする。
昼休みに清水と話していて、ケリーが満月の日に帰ることができると思い出した日のことだ。俺はケリーがいなくなるという事実で頭の中がいっぱいで、話を振られた時もそのことを言われるのだと思っていた。
思い出してみると俺が話している最中ケリーは一度「清飛……あのさ」と話を遮ろうとしていたようにも感じる。しかし、ケリーの口からお別れの話を聞くのが辛くて、話す隙も与えない程一人で喋り席を立った。その後、ケリーの元に戻ると苦笑とともに頭を下げられた。
(俺が聞こうとしなかったのか……。)
でも、それでも、言ってくれたら良かったではないか。帰るつもりでいたけど、やっぱり日本で暮らそうと思っているって。
そう言い返そうとしたが、ケリーは確認するように言った。
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しかし、
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