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お別れまでの日々
四十七、
しおりを挟む(清水遅いな……。)
予鈴が鳴り、二分程経ったが清水はまだ来なかった。朝練で遅くなるのはいつものことだが、ここまでギリギリなことはあまり無く心配になる。
(もしかして風邪とか?)
メッセージが来ているかもしれないと思い、スマホを出そうとした瞬間駆け足で教室に入ってきた清水の姿が見えた。普段より息があがっており相当急いで来たのだということが窺える。若干表情が歪んでいるのが珍しく、何かあったのだろうかと気になった。
足早に前の席についた清水が振り向いた。
「おはよ、杉野」
「おはよ……なんかあったの?」
「部室の時計がぶっ壊れてたのに気付かなくてのんびりしてたら予鈴が鳴った。焦りに焦った」
「はあーー」と大きくため息を吐きました項垂れる。単に間に合わないと思って焦っていただけのようで、清水には悪いが大事では無くて良かった。
「朝からお疲れ」
「ああ……あ、また後で」
話している途中に本鈴が鳴った。清水が前に向き直る。しかし、またすぐに振り向いて机の上に何かを置かれた。
不思議に思いながらそれを見ると個包装のクッキーだった。また今日もお菓子をくれたと、手に持つと裏に何やら紙の感触がした。ひっくり返すと付箋が貼ってあって、文字が書いてあるのかと思いきや顔文字で「(^o^)」と描いてあって思わず笑いが溢れた。
(ありがたい。)
気にかけてくれているのだと、何度目かも分からない感謝の気持ちを抱く。クッキーを鞄の中にしまい、滝野の話を聞いた。
その後、特に何か聞かれることもないまま昼休憩を迎えた。
授業の合間、清水は今週末にはインターハイの予選が控えている為、ピリピリではないが何か考え込んでいるように見えた。部活動のことを聞いてもよく分からないし「頑張って」としか言えないからあまり口出しすることもできず、ただ見守っていた。そんな清水に余計な心配をかける訳にはいかないと俺からも昨日のことについて口にはしなかった。しかし、流石に昼昼休憩には何か聞かれるかもしれないと弁当を食べながら待ち構えていたのだが、久しぶりに平田が清水を求めて教室にやって来た。
「え、杉野また弁当?本当にどうしちゃったの?」
俺と清水の机に近づくなり、俺の弁当を見て訝しげに言われた。平田は前に食べたあの時以来、二日程は一緒に食べていたのだがすぐにまた来なくなった。
「心配しなくてもまたすぐにパンに戻る」
「あ、そう。ってかオムライスじゃん。すご」
「今日はどうしたの?また何かやらかした?」
「いや、大会前にトラブル起こさないようにここで食べようと思って」
「偉い。クッキーあげる」
以前と同様、隣の席の椅子を勝手に借りて座る。平田のつけている香水がふわっと香り、いい香りだなぁと柄にも無く思った。香水なんて学校につけてくるものなのかと思うが、意外にも平田のつけているものは柔らかく、ほのかに香るので嫌なものではなかった。
「今日はチョコのパン買えた?」
「買えた。ちゃんとレーズンじゃないか確認した」
「そう、良かった」
二人で話し始めたので放っておいて弁当を食べ進めようと箸を握りなおした。だが、「そういえば、杉野」と平田に呼びかけられ意識を戻す。
「今年は大丈夫だったの?」
「漠然とし過ぎじゃない?何が?」
「毎年この時期になるとなんか様子可笑しくなってたじゃん。テスト終わってあー、そういえばって思い出して」
平田がまさか気にしてくれていたと思わず目を丸くした。
「え、平田が俺を心配するの?」
「俺そんな人情無さそうに見えんの?まあ、清水があまり騒いでなかったから大丈夫だったんだろうなと思ったけど」
ガサガサとコンビニの袋からチョコチップがまぶされたメロンパンを出して食べながら平田は何の気なしに言った。平田の中で清水の信頼は厚い。
「大丈夫だったよ」
「なら良かった。でもなんで?心境の変化でもあったの?」
「あー……いや」
流石に清水にさえ言うのを躊躇うケリーのことを平田に言うことはできそうにない。平田も一応聞いてみたものの、やはり俺には大して興味は無いだろうし適当に誤魔化せば良いということはわかっている。だが、適当に言ってもし清水に訂正されたらその方が面倒だと、どのように言おうか考え込んだ。
「心境の変化といえば平田は大分タイプ変わったね。濱谷先輩の妹さんと連絡先交換できたの?」
俺が悩んでいると、助け舟を出すように清水が平田に言った。清水の言葉にパンを食べていた平田の手と口がピタリと止まる。いつものように無表情で弁当を食べ続ける清水を、平田は目を見開いて見つめた。
「へ?え、なんで、知って……」
「その反応ってことはやっぱりそうなのか。カマかけただけ」
「……清水、そういうことする?」
「え?平田の好きな人?」
項垂れながらそう言うのを聞きながら、平田が気になる人がどういう人なのか興味が沸いた。
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