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第4章 魔女の館と想いの錯綜
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「……どこで魔女が聞いているかわからない、こっちへ来い」
そう告げたギルバートが歩いていくので、俺は黙って後についていく。
案内された扉は重厚な鉄の重々しい形で、扉を引くとギギギと軋んだ音を立てて開いた。
扉の向こうは————いわゆる城の『武器庫』だった。
「……すごい部屋、だな」
「……ここなら内側から鍵もかけられる」
ガチャリ、とギルバートが錠を閉めた音がした。
武器庫の中には、弓矢はもちろん、大型の剣、槍、鉄球のほか、鎧や盾もそろっており、それらが整然ときちんと並べられている。
その中で、小型のナイフや飛び道具の並ぶ棚に誰かが取り出したように、いくつかの空白があることに気づいた。
抜けた武器の棚を見つめていると、ギルバートが口を開いた。
「俺が見つけた時には、既になかった。……俺より先に来て、誰かが持って行ったんだろ」
俺は空白の隣にあった小さな投げナイフを手に取った。
幼いころ、村の訓練で使ったことのあるのと同じような型式だ。
これなら非力な子供でも扱うことができる。
「ここまでの出来事を包み隠さず、全て今ここで声に出して話せ」
ギルバートは腕を組んだ姿勢でこちらを見つめる。
その表情からは、いつも以上の凄みを感じて、俺は一瞬、そのオーラに怯む。
それから、先ほどサムにした話とほとんど同じような話をした。
ラルフと合流し、迫る壁に押しつぶされそうなところを救われたこと。
ルイに突然、ラルフの石を奪われたこと。
それを追ってユウリの罠にかかり、ここにラルフと落ちてきたこと。
それから。怪我をしたサムに薬をもらったこと。
サムもユウリに石を奪われたこと。
魔女に勝つ作戦を練るためにギルバートを探していたこと。
「……俺が魔女の館に入ってからは、これで全部だ」
俺が一通り話し終えるまで、ギルバートは一言も言葉を発さなかった。
それから、こう一言だけ告げた。
「ユウリのじいさんからもらった『生命力を削って治癒力を高める』薬を飲んだ。……間違いないのか」
「……ああ。なんか小瓶に半分くらい。澄んだ綺麗な青い色をしてた」
そういうと、ギルバートの顔が大きくため息をついた。
ギルバートはキッと俺を睨むと、再び怒りのオーラをまとう。
「えっと……それでギルバートの話ってのは……?」
「チッ」
ギルバートは大きく舌打ちをした。
すると、組んでいた腕をほどいて、俺の目の前までガツガツと歩いてくる。
————瞬間、首元に小さな衝撃が走る。
「ウッ……」
ギルバートは俺の首元にあった紫のペンダントを掴んでいた。
その手に、ぐっと力が込められていくのがわかる。
「そ、それは……」
————その瞬間、「ポッ」と音を立てた。
ペンダントをつなぐ紐に小さな炎が宿ったのが見えた。
首に小さく熱が伝わる。
「まって」
“そのペンダントを外せば、エルはたちまち命を落とす”
————あの日。
————魔女の呪いを受けて、目覚めた病室でサムに言われた言葉。
「ま……まって」
しかし、その願いもむなしく。
一瞬で紐は燃え切れて、首にわずかにかかっていた重力が————解き放たれた。
*
————時が止まっていた。
————息をしている。
突然、自分がまだ息をしていることに気付く。
俺はギルバートから離れるように後ろに両手をついて倒れる。
それから、今までの酸素を全部取り戻すように息をした。
「ハァ……、……ンンッ……! ……? ……生きてる」
「お前は馬鹿だ」
その言葉に一切優しさは感じられない。
「……本当にお前の生命が1年なら、あの薬が効くわけがない」
「……え、どういう」
「喋るな」
ギルバートはギロリと俺を睨む。
その凄みに驚いて、俺は目を伏せる。
目の前には粉々に砕け散った紫の破片が辺りに散らばっていた。
首元についていたペンダントは————もう、ない。
「……こっちへ来い」
俺はまだ整わない呼吸の中で、ゆっくりと立ち上がった。
それからギルバードにおそるおそる近づくと、その顔に内緒話の要領で右耳を寄せた。
————しかし、一向に声は聞こえてこない。
「……違う」
耳元で小さく声が聞こえたかと思ったその瞬間。
突然頭を両脇からガッと押さえつけられた。
「……え?」
途端、俺の首は90度ぐるんとギルバートの顔の方向へ回転させられた。
目の前にギルバートの整った顔がくっつきそうなほど近くにあった。
「え……あ」
瞬間、殴られると思った俺は勢いよく両目を瞑った。
視界が真っ暗になる。
————しかし、衝撃は一向にやってこなかった。
おそるおそる目を開けようとしたその時、額に柔らかな体温が伝わる。
俺は驚いて目を開けると、どうやら俺とギルバートの互いの額がくっつけられていた。
ギルバートは相変わらず俺の頭を抑えつけたまま。
————どういう状況だ?
しかし、ギルバートは何も言ってこない。
この密室で2人、額をくっつけあってどういう状況だ。
(……お前の頭の中に話しかけている。……お前の考えは、これで、わかる)
(!)
————頭の奥深くにギルバートの声が響く。不思議な感覚だった。
(……どこで誰が聞いているかわからないからな)
ギルバートにそんな技があったとは、驚きだった。
それよりも先ほどから驚くことの連続で、頭の中は混乱に陥っていた。
俺の生命の全てといわれていたペンダントは、目の前で粉々に砕け散っている。
『お前の生命が1年なら、あの薬が効くわけがない』、ギルバートは確かにそう言った。
————お前の生命が1年なら。
————俺の生命は魔女に取られていないと、そう言っているのだろうか。
————じゃあ、俺はここまで何のために?
(……お前は、一体あの魔女に何を吹き込まれてる。……話せ。今ここで)
そう告げたギルバートが歩いていくので、俺は黙って後についていく。
案内された扉は重厚な鉄の重々しい形で、扉を引くとギギギと軋んだ音を立てて開いた。
扉の向こうは————いわゆる城の『武器庫』だった。
「……すごい部屋、だな」
「……ここなら内側から鍵もかけられる」
ガチャリ、とギルバートが錠を閉めた音がした。
武器庫の中には、弓矢はもちろん、大型の剣、槍、鉄球のほか、鎧や盾もそろっており、それらが整然ときちんと並べられている。
その中で、小型のナイフや飛び道具の並ぶ棚に誰かが取り出したように、いくつかの空白があることに気づいた。
抜けた武器の棚を見つめていると、ギルバートが口を開いた。
「俺が見つけた時には、既になかった。……俺より先に来て、誰かが持って行ったんだろ」
俺は空白の隣にあった小さな投げナイフを手に取った。
幼いころ、村の訓練で使ったことのあるのと同じような型式だ。
これなら非力な子供でも扱うことができる。
「ここまでの出来事を包み隠さず、全て今ここで声に出して話せ」
ギルバートは腕を組んだ姿勢でこちらを見つめる。
その表情からは、いつも以上の凄みを感じて、俺は一瞬、そのオーラに怯む。
それから、先ほどサムにした話とほとんど同じような話をした。
ラルフと合流し、迫る壁に押しつぶされそうなところを救われたこと。
ルイに突然、ラルフの石を奪われたこと。
それを追ってユウリの罠にかかり、ここにラルフと落ちてきたこと。
それから。怪我をしたサムに薬をもらったこと。
サムもユウリに石を奪われたこと。
魔女に勝つ作戦を練るためにギルバートを探していたこと。
「……俺が魔女の館に入ってからは、これで全部だ」
俺が一通り話し終えるまで、ギルバートは一言も言葉を発さなかった。
それから、こう一言だけ告げた。
「ユウリのじいさんからもらった『生命力を削って治癒力を高める』薬を飲んだ。……間違いないのか」
「……ああ。なんか小瓶に半分くらい。澄んだ綺麗な青い色をしてた」
そういうと、ギルバートの顔が大きくため息をついた。
ギルバートはキッと俺を睨むと、再び怒りのオーラをまとう。
「えっと……それでギルバートの話ってのは……?」
「チッ」
ギルバートは大きく舌打ちをした。
すると、組んでいた腕をほどいて、俺の目の前までガツガツと歩いてくる。
————瞬間、首元に小さな衝撃が走る。
「ウッ……」
ギルバートは俺の首元にあった紫のペンダントを掴んでいた。
その手に、ぐっと力が込められていくのがわかる。
「そ、それは……」
————その瞬間、「ポッ」と音を立てた。
ペンダントをつなぐ紐に小さな炎が宿ったのが見えた。
首に小さく熱が伝わる。
「まって」
“そのペンダントを外せば、エルはたちまち命を落とす”
————あの日。
————魔女の呪いを受けて、目覚めた病室でサムに言われた言葉。
「ま……まって」
しかし、その願いもむなしく。
一瞬で紐は燃え切れて、首にわずかにかかっていた重力が————解き放たれた。
*
————時が止まっていた。
————息をしている。
突然、自分がまだ息をしていることに気付く。
俺はギルバートから離れるように後ろに両手をついて倒れる。
それから、今までの酸素を全部取り戻すように息をした。
「ハァ……、……ンンッ……! ……? ……生きてる」
「お前は馬鹿だ」
その言葉に一切優しさは感じられない。
「……本当にお前の生命が1年なら、あの薬が効くわけがない」
「……え、どういう」
「喋るな」
ギルバートはギロリと俺を睨む。
その凄みに驚いて、俺は目を伏せる。
目の前には粉々に砕け散った紫の破片が辺りに散らばっていた。
首元についていたペンダントは————もう、ない。
「……こっちへ来い」
俺はまだ整わない呼吸の中で、ゆっくりと立ち上がった。
それからギルバードにおそるおそる近づくと、その顔に内緒話の要領で右耳を寄せた。
————しかし、一向に声は聞こえてこない。
「……違う」
耳元で小さく声が聞こえたかと思ったその瞬間。
突然頭を両脇からガッと押さえつけられた。
「……え?」
途端、俺の首は90度ぐるんとギルバートの顔の方向へ回転させられた。
目の前にギルバートの整った顔がくっつきそうなほど近くにあった。
「え……あ」
瞬間、殴られると思った俺は勢いよく両目を瞑った。
視界が真っ暗になる。
————しかし、衝撃は一向にやってこなかった。
おそるおそる目を開けようとしたその時、額に柔らかな体温が伝わる。
俺は驚いて目を開けると、どうやら俺とギルバートの互いの額がくっつけられていた。
ギルバートは相変わらず俺の頭を抑えつけたまま。
————どういう状況だ?
しかし、ギルバートは何も言ってこない。
この密室で2人、額をくっつけあってどういう状況だ。
(……お前の頭の中に話しかけている。……お前の考えは、これで、わかる)
(!)
————頭の奥深くにギルバートの声が響く。不思議な感覚だった。
(……どこで誰が聞いているかわからないからな)
ギルバートにそんな技があったとは、驚きだった。
それよりも先ほどから驚くことの連続で、頭の中は混乱に陥っていた。
俺の生命の全てといわれていたペンダントは、目の前で粉々に砕け散っている。
『お前の生命が1年なら、あの薬が効くわけがない』、ギルバートは確かにそう言った。
————お前の生命が1年なら。
————俺の生命は魔女に取られていないと、そう言っているのだろうか。
————じゃあ、俺はここまで何のために?
(……お前は、一体あの魔女に何を吹き込まれてる。……話せ。今ここで)
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