魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

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第2章 召喚術師と黒魔術師

ユウリの家

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ユウリの家に着くと、そこは―――ものすごい大豪邸であった。
大豪邸と言っても金ピカ☆ ではなく、古き良きお屋敷、もしくは雰囲気だけでいえば古城である。
広大な庭には沢山の植物が育っており、手入れが良く行き届いていることがわかる。

「おにぃ! ここがボクのおウチだよ」
「あぁ……ちょっと驚きで」

俺はその後ユウリに手を引かれるがまま、家中を案内された。
途中でこの能力が過剰に働くのはまずいと、一度手を放したところ「どうして?」とユウリが泣きそうになってしまったので、泣く泣く言う通りに手を引かれたまま従っている。

「そして、ここがボクの部屋」

そして案内された部屋は俺の村の家全体の面積くらいは、ありそうなだだっ広い部屋であった。
しかし一面にフカフカの絨毯が敷き詰められてはいるものの、俺が今泊まっている宿屋の部屋と同じくらい他には何もない殺風景な部屋であった。
すると入ってきた扉とは別に、もう一つ部屋に厳重な扉があることに気づいた。

「あの扉はなんなんだ?」
「あぁ。あそこはボクの実験室だよ」

重厚な扉を「うんしょっ」と可愛い仕草でユウリは開ける。
その部屋は―――得体の知れないものばかりであった。
眩しいほどの蛍光色の液体で満たされた試験管、褐色ビンの数々、ホルマリン漬けにされた動物たち。
正直、少し気味が悪いな。
クラクラするような不思議な薬品臭が漂っている気がする。

「ここでユウリは普段薬の調合をしているのか? 随分研究?熱心なんだな」
「うん。大体はお庭の薬草を使ってるんだ。これはみんな、お母さんとの思い出だから」

特にユウリはなんでもないように、そう言った。
そして中々に毒々しいものたちを漁りだしては、俺の前に突き付けて笑っている。
お母さんとの思い出とはどういうことだろうか―――?
それはともかく、ここに長居をするのはあまり健康上よろしくない気がするぞ。

「こ、ここは……わ、わかったよ。別の所を案内してくれ」
「……そっかぁ」

俺がこの実験室を気味悪がっているのに流石に気づいたのか、ユウリは少し残念そうだ。
散らかしたものをユウリはいそいそと片付けると、今度は直ぐに部屋を出ていくように促された。

再びユウリの部屋を通って廊下に出たところで、ビシッとスーツを着こなすおじいさんに出会った。
―――このお屋敷の執事、と言った格好である。

「坊ちゃま、余りお客様を連れ回しては疲れさせてしまいますよ。お客様、1階でお茶でもお出しさせていただけませんでしょうか」

おじいさんはそう言うと、右手を下げ、きれいなお辞儀をみせる。
俺はその所作の美しさに思わず見とれて、反応が遅れてしまった。

「……あ、いや、そんなご丁寧に。すみません、お邪魔してます」

ユウリは幾分か不満そうにおじいさんの方を睨みつけた。

「えー! 今度は日が陰る前に一緒におにぃとお庭の水やりをしようと思ったのに!……まぁいいや。爺や、僕の分もミルクティー入れておいてよ。後で行くから。角砂糖の数はわかってるよね」

「お坊ちゃま、もちろん承知しておりますよ。お気をつけていってらっしゃいませ」

ユウリは「じゃぁまたあとでね、おにぃ」と言って、廊下を走り去っていってしまった。

「お坊ちゃまは庭の手入れだけはいつも気を抜かず、同じ時間に水やりをするのです。……お客様、大変申し訳ございませんが、1階の客間までご足労いただけますか」

「もちろんです。お気遣いいただき、ありがとうございます」

それにしても恐ろしく渋く格好いいおじいさんだ。
こんな執事なら―――と、いや、流石にその想像はやめよう。
人として駄目すぎる。

しかし、一緒に水やりをしても一向に構わなかったが……。
特に俺は深く考えるでもなく、執事に連れられて一階まで移動し、客間とやらに入った。
それにしてもこの家、広すぎる。

執事が一度部屋を出るのを見送ると、俺は部屋を少し物色した。

他の部屋がシックであるのに対し、客間は絢爛豪華といった感じである。
俺は何とも落ち着かない煌びやかな椅子に座った。
テーブルには事前に用意されていたのか、燭台のロウソクに火がともっている。

「まさかユウリがこんなお坊ちゃまだったとは……」

ユウリには驚かされるばかりである。

完全に気を抜いていた所で、ガチャっと音がして、俺は思わず姿勢を正した。
先程の執事がカートを持って、部屋に入ってきた。

「この屋敷にお客様がいらっしゃるなんて、しばらくでしたので。このようなものしかなく、大変申し訳ございません」

そう言って執事は紅茶を俺の前に差し出した。
縁の薄いティーカップはいかにも高級そうだ。

俺は差し出されたティーカップを手に持った。
飲む前から立ち上るフルーティな風味。
一口含むと、その瞬間に鼻に抜ける華やかな香りがあった。
紅茶独特の渋みを舌でしっかり感じるものの、後味にはミントのような清涼感があり、喉がすっきりする爽やかさであった。

―――今までに飲んだことのないほどうまかった。
思わず、頬がゆるんでしまう。

「本当においしいです」
「お客様の口に合って何よりです」

俺が紅茶を夢中で飲んでいると、執事は窓から見える庭の方に視線を向けた。
庭ではユウリが楽しそうにホースで庭の植物たちに水をやっている。
すると、ユウリを見つめながら執事が口を開いた。

「昨日、あんなにはしゃいでいる坊ちゃまを見たのは久しぶりでした。帰ってきてから、貴方様のお話ばかりで。坊ちゃまの母親が亡くなってからというもの塞ぎこんでばかりでしたので」

やはり、お母さんは亡くなっていたのか。
実験室で、お母さんとの思い出だ、と言っていたため、何となく察してはいた。

「おじいさんは、ずっとこのお屋敷に仕えているんですか?」

俺がそう言うと、その執事は笑みを浮かべ、申し訳なさそうな顔をした。

「誠に恥ずかしながら、ワタクシは坊ちゃまの祖父にあたります。この屋敷に執事はおりません。時々、メイドが掃除にくるだけでございます。どうにもワタクシ一人ではもうお屋敷中を掃除することは難しく」

「すみません! そうとは知らず、失礼なことを言いました」

「いいえ、構いませんよ。坊ちゃまは幼い頃に両親をどちらも亡くし、ワタクシがこの通り、甘やかして育ててしまいました。……そのせいか、貴方様のような頼れる存在を、心の中で無意識に追い求めているのでしょう。どうかあの子の無礼を許していただけませんでしょうか」

なるほど、それで、おにぃなどという呼び名をしているのだろうか?
俺は余りにも甘えたがりなユウリのことが、少しだけわかってもはや嬉しい気持ちであった。

「……もしお客様が宜しければ、少しお話にお付き合いいただけますか」

断る理由もなく、俺は頷いた。
しかしその内容は、余りにも俺にとって衝撃的であった。

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