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狼さん、増える

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 慶斗はそわそわしていた。

 数日前から入院していた澪がついに今日、出産するのだ。

 澪ならきっと無事に元気な子を産んでくれるだろうという根拠のない自信と、双子だからそうとう困難な出産になるのではという心配が交互にやって来る。

 はじめての出産なのに双子…
 澪は大丈夫だと元気そうに言っていたが不安ではある。

 もし狼種なら赤子とはいえそうとう大きいだろう。

 澪からはお腹の中の子が狼種か猫種かも性別も聞いていない。生まれるまで楽しみにしてほしいと。

 でも今は体の小さい猫種の子供であることを心から願っている。

「澪ちゃん、大丈夫かしら……大丈夫かしら…」

 慶子は先ほどから同じ言葉を発し続けている。

「母さん、大丈夫ですよ。たぶん、とにかくきっと、大丈夫です」

 対する慶斗の答えもひどいものである。

「あの…お二人とも冷静になってください」

 祖母の代わりに来ていた宇伊はむしろ二人を心配そうに見守っていた。

「旦那さん!」

 そこに看護師が駆け寄って来る。

「お子さん達、無事生まれましたよ。奥さんも大丈夫です」
「っ…本当ですか!?」
「あぁ、良かったわ…」
「ちょっと、大丈夫ですか?」

 宇伊が倒れそうになる慶子を支え、慶斗は看護師とともに澪のいる部屋へ向かった。

「澪っ…!」

 まだドタバタしている部屋のなか、澪はベッドの上で横たわっていた。

「慶斗さん…」
「良かった、無事で…」
「ふふ、大袈裟ですよ。まぁ…たしかに死ぬぐらい痛いし大変でしたけど、本当に…」
「こ、子供は…」
「こちらに」

 白い布に包まれた小さな二つの命。
 看護師が慶斗と澪に手渡す。

「ふふ…一卵性双生児ですって…二人とも、慶斗さんそっくり」
「あぁ…」

 ふさふさのしっぽと耳、うっすら生える毛まで、慶斗にそっくりだった。
 顔立ちまではわからないが、なんとなく慶斗似な気がする。

「僕のお腹から生まれたのに、僕に全然似てないんですよ。僕が慶斗さんに似た子がいいなぁって思ったからですかね?」
「……あぁ、本当に、可愛い…」

 慶斗が腕の中の子を見つめ、泣きそうになっているところに騒々しく、いろんな人が入ってくる。

「澪様っ…ご無事ですか!?」
「澪ちゃん、生きてるの?」

 遅れて入ってきた宇伊と慶子。

「心配になって俺も来ちゃったー」
「…大丈夫だったか?」

 北斗と父。

「孫が出産なんて心配で家になんて居られないよ」

 体調を崩していて家にいるはずだった祖母まで。

 澪は騒々しい部屋の中、こっそり慶斗に聞いた。

「二人とも男の子ですよ。名前、決めましたか…?」

「あぁ、決めた。この子達の名前はー…」
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