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猫ちゃん、ぶつかる

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 澪は久しぶりの家に入った。

 慶子の住む邸宅の中はがらんとしている。

「おじゃましまーす…」

 澪はとりあえず慶子の部屋に向かうことにした。

 ノックをすると小さい声が聞こえた。

「入って来ないでちょうだい」

 慶子の声だ。中にいるんだ。
 澪は躊躇いなく中に入った。

「失礼します」
「っ…誰よ!」

 中には慶子がいた。
 慶子は見違えるほどやつれていた。

「慶子さん…」
「あ、あなた…」

 慶子は澪を見るなり駆け寄ってきた。

「あなたのせいよ!あなたのせいで慶斗が!!」
「…慶子さん」

 澪は足元に縋り付く慶子を見つめた。
 可哀想に、この人もただ慶斗のことを愛しているだけなのに、うまく愛せないのだ。

「慶子さん…ぼく、いまお腹のなかに赤ちゃんがいるんです」
「えっ…」

 やっぱり聞いていなかったのだ。
 慶斗は澪のために慶子にまで妊娠のことを黙っていたのだ。

「あ…ど、どっちなの?」
「どっち…?」
「狼種なの?猫種なの?男?女?アルファ?」

 たぶん慶子の求めてる答えは狼種の男のアルファだ。
 そもそもバース性は子供が成長するまでわからないのに。

「慶子さん。慶子さんが狼種のアルファの男の子しかいらないというなら、この子達がもしそうじゃなかったら、一生会わないでください」
「え…?」
「僕は…きっと慶斗さんも、この子達がどんな性を持っていても愛します。もし慶子さんがそうでなければ…この子達にあなたは会わせません。それでも、いいですか」

 慶子はぽかんとした顔で澪を見つめた。

「嫌よ…」

 澪のお腹を見つめて慶子はつぶやいた。

「私の、孫よ…慶斗の子供…愛してるに決まってるわ」

 慶子が澪の腹を撫でるのを澪は止めなかった。
 慶子は澪に危害を加えないだろう。
 だって慶子は母親の顔をしている。

「この子達がどんな子でもですか?」
「…えぇ。アルファの男の子じゃなくても…また、あなたたちが頑張れば良いわ」

 二人がそうしているところに慶斗が部屋に入ってきた。

「澪!どうしてここに!?」
「あ、慶斗さん」
「慶斗…」
「ちょうど良かった。僕達、こっちに戻ってきちゃだめ?」
「え…?」
「僕、小さい頃に両親を亡くしてて…お祖母様がいてくれてすごく嬉しかった。だから、この子達にもお祖母様がいてくれたらいいと思うんだ」

 澪がにこにこしてそういうのを見て、慶斗はあっけにとられた。

「君は、俺が思っているより、ずっと強いんだな」
「え?」
「わかった。こちらに戻ろう。休暇は終わりだ」

 こっちの方が、移動が少ない分一緒に入れる時間も増えるしな。と慶斗が澪に言うと、嬉しそうに澪は頷いた。
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