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「こういうのは丸暗記。惣という村社会を作って守護・地頭と呼ばれる人たちが管理した。なんでかっていうと、地方の年貢の徴収と治安維持を効率的に行うため」
「鎌倉時代ね…」
「鎌倉時代ってか、中世」
やるって決めたのは自分だけど、本当に勉強漬けになった。
週二だった塾が週三になって、土曜日も特別講習がある時は参加。それでも足りないかも、スタートが遅すぎると塾の先生には言われた。でも流石にあんまり毎日だとつらいってことで、週三で足りない分は親父とエンマくんが見てくれた。
英語が一番の課題だった。カナエさんに聞いたら、とにかく聞くこと、と返ってきたので、塾への行き来の間はずっと英語の教材を聞いている。それでも楽しめるようにと、エンマくんが物語になってるやつを見つけてきてくれた。
親父やエンマくんとはそんなあれこれで普通にしゃべるようになった。逆に、なんであんなに意地を張ってしまったのかなという気もする。ひどいこともたくさん言ってしまった。
「エンマくん……」
「ん?」
「ごめんね。キモいとか、いっぱい言って」
「いいよ。大丈夫だよ」
エンマくんはちょっと驚いたみたいだった。
「あのね、うちが普通じゃないのは確か。普通にできなくてソーマには申し訳ないと思う」
「普通って何?」
「それは……うーん、なんだろうね。お父さんとお母さんと子どもで暮らすことかな? でも最近はいろいろだからね。お父さんしかいなかったり、お母さんしかいなかったり、ほんとのお父さんじゃなかったりね。でもうちはそんな中でも特殊かな。お父さん二人っていうのはね」
俺はこのとき、エンマくんが父親のつもりで接してくれていたことに初めて気がついた。俺にとってエンマくんは、長い間、綺麗な顔して俺にすごく親切な、パパと自分の友達だった。
このころ、カナエさんが言っていた、diversityっていうのを調べてみた。「多様性」と出てきた。いろいろなありさま。どんなかたちもあり得るということ。
うちは普通じゃない、普通が良かったって言ったのは俺なのに、俺には普通がわからない。あの時俺はどんな形を望んで普通がいいって言ったんだっけ。やっぱりママにいて欲しかったのかな。でもエンマくんにもいて欲しい。エンマくんはいなくてはならない人だ。物心ついた時からずっとそばにいてくれて、ママみたいに世話してくれた人。
でも普通はエンマくんみたいな人が家にいることはない。じゃあ、俺が望んでる「普通」も普通じゃないんだ。
「俺のママのこと、知ってる?」
「……直接は、知らない。パパがソーマのママと結婚してる間は、俺とパパは別々に生きてたから」
「電話した時、あんたは苫渕さんの子で、もうお金も払ったから、関係ないって言われたんだ」
「そんなことを……」
「ママにとっては俺、いらない子だったのかな?」
「……そんなことない。ソーマがいらない子だなんてこと絶対ないよ。ソーマは宝物だよ。大好きだよ」
エンマくんは俺のことをいすの背もたれごと抱きしめてくれた。ママにはいらなかったんだなあ。それはわかったんだ。
「あのさ、もうちょっとしゃべっていい?」
「いいよ」
「エンマくんとパパはなんでホモなの?」
「ふふふ、それ他の人に言うなよ」
なんだか、この時のエンマくんはこんな質問を俺がするってわかってたみたいだった。すっとキッチンから温かいココアを持ってきてくれたのを覚えている。
「なんでだろうね。俺にもわかんないんだよね。ただパパのことが好きなんだよ」
「それはさ、エンマくんは俺のこと大好きって言うじゃん。それとは違うの?」
「ちがう」
「どう違うの?」
「うーん、それは好きな人ができたら一発でわかるんだけど。ソーマのことは大好きだから、大きくなって好きなように生きて欲しいと思う。元気でさ。俺の手を離れても幸せでいてくれればいいなって。でもくおんはとにかく一緒にいたいって感じ」
「一緒にいたい好き? 俺とは一緒にいなくてもいい好き?」
「そういうことなのかなあ? でも簡単に言うとそういうことかな。パパとはもうずっと一緒にいたくなっちゃった、てこと」
「ずっとっていつまで?」
「ずっとはずっとだよ。いつまでも」
「てか、一緒にいなくてもいいって好きじゃないんじゃない?」
「あ、逆に? はは。一緒にいなくてもいいっていうのは確かにあんまりいい表現じゃないな。パパのことは、俺がひとりじめしたくなっちゃったってこと。普通は、自分と違う性別の人をひとりじめしたくなるんだけどね。ソーマのことは、みんなに好きになって欲しいってこと」
「ひとりじめしたい好きと、みんなに分けたい好きってこと?」
そういうことかな、とエンマくんは言った。この数年後、俺はこの時のエンマくんの言ったことを理解した。男の人を好きになる気持ちはわからなかったけど、独り占めしたい好きな彼女ができたから。
「鎌倉時代ね…」
「鎌倉時代ってか、中世」
やるって決めたのは自分だけど、本当に勉強漬けになった。
週二だった塾が週三になって、土曜日も特別講習がある時は参加。それでも足りないかも、スタートが遅すぎると塾の先生には言われた。でも流石にあんまり毎日だとつらいってことで、週三で足りない分は親父とエンマくんが見てくれた。
英語が一番の課題だった。カナエさんに聞いたら、とにかく聞くこと、と返ってきたので、塾への行き来の間はずっと英語の教材を聞いている。それでも楽しめるようにと、エンマくんが物語になってるやつを見つけてきてくれた。
親父やエンマくんとはそんなあれこれで普通にしゃべるようになった。逆に、なんであんなに意地を張ってしまったのかなという気もする。ひどいこともたくさん言ってしまった。
「エンマくん……」
「ん?」
「ごめんね。キモいとか、いっぱい言って」
「いいよ。大丈夫だよ」
エンマくんはちょっと驚いたみたいだった。
「あのね、うちが普通じゃないのは確か。普通にできなくてソーマには申し訳ないと思う」
「普通って何?」
「それは……うーん、なんだろうね。お父さんとお母さんと子どもで暮らすことかな? でも最近はいろいろだからね。お父さんしかいなかったり、お母さんしかいなかったり、ほんとのお父さんじゃなかったりね。でもうちはそんな中でも特殊かな。お父さん二人っていうのはね」
俺はこのとき、エンマくんが父親のつもりで接してくれていたことに初めて気がついた。俺にとってエンマくんは、長い間、綺麗な顔して俺にすごく親切な、パパと自分の友達だった。
このころ、カナエさんが言っていた、diversityっていうのを調べてみた。「多様性」と出てきた。いろいろなありさま。どんなかたちもあり得るということ。
うちは普通じゃない、普通が良かったって言ったのは俺なのに、俺には普通がわからない。あの時俺はどんな形を望んで普通がいいって言ったんだっけ。やっぱりママにいて欲しかったのかな。でもエンマくんにもいて欲しい。エンマくんはいなくてはならない人だ。物心ついた時からずっとそばにいてくれて、ママみたいに世話してくれた人。
でも普通はエンマくんみたいな人が家にいることはない。じゃあ、俺が望んでる「普通」も普通じゃないんだ。
「俺のママのこと、知ってる?」
「……直接は、知らない。パパがソーマのママと結婚してる間は、俺とパパは別々に生きてたから」
「電話した時、あんたは苫渕さんの子で、もうお金も払ったから、関係ないって言われたんだ」
「そんなことを……」
「ママにとっては俺、いらない子だったのかな?」
「……そんなことない。ソーマがいらない子だなんてこと絶対ないよ。ソーマは宝物だよ。大好きだよ」
エンマくんは俺のことをいすの背もたれごと抱きしめてくれた。ママにはいらなかったんだなあ。それはわかったんだ。
「あのさ、もうちょっとしゃべっていい?」
「いいよ」
「エンマくんとパパはなんでホモなの?」
「ふふふ、それ他の人に言うなよ」
なんだか、この時のエンマくんはこんな質問を俺がするってわかってたみたいだった。すっとキッチンから温かいココアを持ってきてくれたのを覚えている。
「なんでだろうね。俺にもわかんないんだよね。ただパパのことが好きなんだよ」
「それはさ、エンマくんは俺のこと大好きって言うじゃん。それとは違うの?」
「ちがう」
「どう違うの?」
「うーん、それは好きな人ができたら一発でわかるんだけど。ソーマのことは大好きだから、大きくなって好きなように生きて欲しいと思う。元気でさ。俺の手を離れても幸せでいてくれればいいなって。でもくおんはとにかく一緒にいたいって感じ」
「一緒にいたい好き? 俺とは一緒にいなくてもいい好き?」
「そういうことなのかなあ? でも簡単に言うとそういうことかな。パパとはもうずっと一緒にいたくなっちゃった、てこと」
「ずっとっていつまで?」
「ずっとはずっとだよ。いつまでも」
「てか、一緒にいなくてもいいって好きじゃないんじゃない?」
「あ、逆に? はは。一緒にいなくてもいいっていうのは確かにあんまりいい表現じゃないな。パパのことは、俺がひとりじめしたくなっちゃったってこと。普通は、自分と違う性別の人をひとりじめしたくなるんだけどね。ソーマのことは、みんなに好きになって欲しいってこと」
「ひとりじめしたい好きと、みんなに分けたい好きってこと?」
そういうことかな、とエンマくんは言った。この数年後、俺はこの時のエンマくんの言ったことを理解した。男の人を好きになる気持ちはわからなかったけど、独り占めしたい好きな彼女ができたから。
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