君のかけら fragment

黒遠

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 ソーマは寝てしまった。いつも9時過ぎには寝てくれる。寝ていないのかもしれないけど、部屋からは出てこなくなる。だから9時を過ぎると油断してしまってたというのはあるんだけど。

「なんか、ソーマも大人になって来たなって感じがした」
「よく答えたね。俺そんな風に回答できるかわからない」
「ちゃんと答えないといけないと思って……。ここで答え方を間違うとまた口を効いてもらえなくなるかなと」
「まあそうかもな」

 先日、歴史の勉強を見ているときに、ソーマからどうしてパパとエンマくんは、と聞かれた。

 どうしてかな。ずっと昔からそれは考えていたことだ。ソーマが生まれるずっと前から。
 だって自分がまさか男の人を好きになってずっと一緒にいたくなるなんて考えたこともなかった。自分はどこかの女の子と恋に落ちて結婚するんだろうって思ってた。たぶんくおんの方もそう。

 どんな偶然なのか。もののはずみで始まった恋が、今はこうして幸せに一緒に暮らすまでになってしまった。くおんなしの生活なんてもう考えられない。

「で、パパが好きなのと僕が好きなのは違うのかって聞かれて」
「あー、まあね。なんて答えた?」
「独り占めしたくなっちゃった好きと、みんなに好きになってほしい好きだよって言ったら分かってくれたみたい。なんだっけな、独り占めしたい好きと……ソーマの方がうまい言い方したんだよ。みんなに分けたい好き、かな」

 台所で洗い物をしていたくおんが片づけを終えた。

「なんだって?」
「だから……」

 くおんが後ろから俺を抱きしめてきた。だからこういうことをリビングでするから……

「俺は? どんな好き?」
「リビングであんまり……」
「優秀な設計士さんが内鍵をつけてくれたんで……」
「もうソーマ外せる身長だろ」
「でもすぐには開かない」

 うなじを唇が撫でる。まあ、改めて自分のことをどう好きかなんてなかなか言わない。油断したのは俺の方。

「もっかい言って」
「……ひとりじめしたいすき」

 首筋を甘く咬まれる。独り占め。思えばくおんはもうずっと俺のことをひとりじめしている。初めてセックスしたのも。初恋も。片想いの相手もぜんぶくおん。キスされる。だめだ。これ以上するなら部屋に行かなくちゃ。両思いも。失恋も。あの失恋はほんとに痛かったな……。

「行こう?」

 くおんとキスするとやりたいのかキスだけでいいのかわかる。別れてる間さえ俺の中にずっといた。四年も離れてたのに。俺のベッドに転がり込む。離れてた間何をしていたのかほとんど思い出せない。素肌で触れ合う。満たされる。一緒に暮らすのも。子育ても。くおんだけ。中に入ってくる。熱い体。俺の中を知ってるのもくおんだけだ。

「……何考えてる?」
「……くおんだけだなって」
「何が?」
「ぜんぶ。俺のこと……ひとり…じめして」

 何を話しているのかわからなくなるくらい気持ちいい。くおんが俺のことをずっと。

「お前も……」

 ゆっくり、ゆっくりなのにすぐいきそうになってしまう。

「俺のこと……独り占めしてんだろ」

 体が溶けて混ざってしまったみたい。

「お前が十六のときから」

 うん。知ってる。くおんが俺のことをびっくりするくらいずっと。俺が凛と過ごしてた間も。

「っ……いく」
「…ん……」

 こうして二人で眠るのが最高に幸せ。これがなるべく長い間続けばいいと思う。永久に独り占めしたい。永久に独り占めしてほしい。






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