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冬編③『銀世界、幾星霜』
第四話「ユキちゃんと雪だるまっ娘」⑸
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「有希ちゃん、おはよー!」
「お、おはよう」
中林は真冬に声をかけられ、足を止めた。
真冬は前日宣言したとおり、体の半分以上もある、大きな雪玉を転がしていた。
「それ、雪だるまの?」
「そう! 公園から転がしてきたの! 由良さんに訊いたら、入口の横なら置いていいって!」
「頭は?」
「体ほど大きくなくていいし、そのへんの雪かき集めて作ろうかな」
真冬は雪だるまの体が砕けないよう、慎重にLAMPの入口の横へ設置した。
続けて、歩道の両脇に寄せられた雪を使い、頭の部分を作っていく。時折体に乗せてバランスを見ては、雪を増やしたり減らしたりして調整した。
「真冬ちゃん、ちょっと聞いてもらいたい話があるんだけど……いい?」
「どうしたの? 改まって」
真冬はペタペタと雪玉に雪を貼りつけ、首を傾げる。
由良のメッセージを読んだ後、中林はひと晩かけて考えた。真冬に自分の夢を相談するかどうか。
考えた末に、決めた。「真冬に相談する」という行動自体が夢への第一歩なのだとしたら、その一歩を踏み出したいと。
真冬は緊張で声を震わせながらも、真冬に打ち明けた。
「実は最近、私も由良さんみたいに自分でレシピを考えて、作って、お客さんに食べてもらいたいなって思うようになってきたんだ。新作の案を出すことはあっても、実際に作るのは由良さんだから。そのために調理師か製菓の専門学校にかよって、本格的に勉強したいと思ってるんだけど、行くか迷ってて……」
真冬ちゃんはどう思う? とは訊かなかった。真冬に判断を任せて、責任を負わせたくはない。
また、「真冬ちゃんは"失敗したらどうしよう"って、不安にならないの?」とも訊かなかった。中林が尋ねることで、真冬を不安にさせてはいけないと思った。
話を始めたはいいが、何と尋ねたらいいのか分からない。中林は頭の中で、必死に言葉の続きを探した。
(ど、どうしよう。急にこんな相談されて、真冬ちゃん困ってるだろうなぁ)
チラッと真冬の顔色をうかがう。
すると、真冬はキラキラと目を輝かせていた。
「有希ちゃん、専門学校かようの?! 私と同学年になるじゃん!」
「う、うん。でも、まだかようって決めたわけじゃ……」
「えぇー? 私、有希ちゃんが作ったお菓子、LAMPで食べたいなぁー」
「うぐふッ」
真冬の屈託のない笑顔が、中林の心から不安や心配を取っ払う。この笑顔のためなら頑張れる……そう思えた。
「わ、分かったよ。専門学校、行くことにする。由良さんにも相談してからだけど」
「大丈夫だよ! 由良さん、有希ちゃんのこと大好きだもん!」
「えぇ……? 昨日、その由良さんに戦力外通告されて帰らされたんですけど……?」
「それも有希ちゃんのためを思って言ってくれたんでしょ? 勇気出して、言ってみ?」
真冬は完成した雪だるまの頭を胴体へ乗せる。街路樹の木の実や葉、小枝を集め、雪だるまの目と鼻と口にした。
「じゃ、私は先に行ってるから!」
「あっ、待って!」
中林は店に入ろうとする真冬を引き留め、言った。
「まだ気が早いかもしれないけど、受験が終わったらどこかに遊びに行かない?」
真冬はパッと表情が明るくなった。
「いいね! 何処に行く?」
「受験が終わる頃は春だし、お花見とか? 真冬ちゃんも何処に行きたいか考えておいてね」
「うん! 今から楽しみ!」
一歩ずつ、一歩ずつ。
雪の積もった路地を、中林は軽やかに歩いていく。雪さえ積もっていなければ、スキップでもしたい気分だ。
あんなに悩んでいたのに、真冬に相談した途端に解決してしまった。やはり、由良が見た〈心の落とし物〉は中林の密かな願望から生まれた、幻の過去だったのだ。
(昔の真冬ちゃんと私が一緒にいるとこ、見たかったなぁ。でも、いいもん。私は今の真冬ちゃんとイチャイチャするから)
中林は変わった。
あの日踏み出せなかった「一歩」を、友人と共に歩み始めた。
(冬編③『銀世界、幾星霜』第五話へ続く)
「お、おはよう」
中林は真冬に声をかけられ、足を止めた。
真冬は前日宣言したとおり、体の半分以上もある、大きな雪玉を転がしていた。
「それ、雪だるまの?」
「そう! 公園から転がしてきたの! 由良さんに訊いたら、入口の横なら置いていいって!」
「頭は?」
「体ほど大きくなくていいし、そのへんの雪かき集めて作ろうかな」
真冬は雪だるまの体が砕けないよう、慎重にLAMPの入口の横へ設置した。
続けて、歩道の両脇に寄せられた雪を使い、頭の部分を作っていく。時折体に乗せてバランスを見ては、雪を増やしたり減らしたりして調整した。
「真冬ちゃん、ちょっと聞いてもらいたい話があるんだけど……いい?」
「どうしたの? 改まって」
真冬はペタペタと雪玉に雪を貼りつけ、首を傾げる。
由良のメッセージを読んだ後、中林はひと晩かけて考えた。真冬に自分の夢を相談するかどうか。
考えた末に、決めた。「真冬に相談する」という行動自体が夢への第一歩なのだとしたら、その一歩を踏み出したいと。
真冬は緊張で声を震わせながらも、真冬に打ち明けた。
「実は最近、私も由良さんみたいに自分でレシピを考えて、作って、お客さんに食べてもらいたいなって思うようになってきたんだ。新作の案を出すことはあっても、実際に作るのは由良さんだから。そのために調理師か製菓の専門学校にかよって、本格的に勉強したいと思ってるんだけど、行くか迷ってて……」
真冬ちゃんはどう思う? とは訊かなかった。真冬に判断を任せて、責任を負わせたくはない。
また、「真冬ちゃんは"失敗したらどうしよう"って、不安にならないの?」とも訊かなかった。中林が尋ねることで、真冬を不安にさせてはいけないと思った。
話を始めたはいいが、何と尋ねたらいいのか分からない。中林は頭の中で、必死に言葉の続きを探した。
(ど、どうしよう。急にこんな相談されて、真冬ちゃん困ってるだろうなぁ)
チラッと真冬の顔色をうかがう。
すると、真冬はキラキラと目を輝かせていた。
「有希ちゃん、専門学校かようの?! 私と同学年になるじゃん!」
「う、うん。でも、まだかようって決めたわけじゃ……」
「えぇー? 私、有希ちゃんが作ったお菓子、LAMPで食べたいなぁー」
「うぐふッ」
真冬の屈託のない笑顔が、中林の心から不安や心配を取っ払う。この笑顔のためなら頑張れる……そう思えた。
「わ、分かったよ。専門学校、行くことにする。由良さんにも相談してからだけど」
「大丈夫だよ! 由良さん、有希ちゃんのこと大好きだもん!」
「えぇ……? 昨日、その由良さんに戦力外通告されて帰らされたんですけど……?」
「それも有希ちゃんのためを思って言ってくれたんでしょ? 勇気出して、言ってみ?」
真冬は完成した雪だるまの頭を胴体へ乗せる。街路樹の木の実や葉、小枝を集め、雪だるまの目と鼻と口にした。
「じゃ、私は先に行ってるから!」
「あっ、待って!」
中林は店に入ろうとする真冬を引き留め、言った。
「まだ気が早いかもしれないけど、受験が終わったらどこかに遊びに行かない?」
真冬はパッと表情が明るくなった。
「いいね! 何処に行く?」
「受験が終わる頃は春だし、お花見とか? 真冬ちゃんも何処に行きたいか考えておいてね」
「うん! 今から楽しみ!」
一歩ずつ、一歩ずつ。
雪の積もった路地を、中林は軽やかに歩いていく。雪さえ積もっていなければ、スキップでもしたい気分だ。
あんなに悩んでいたのに、真冬に相談した途端に解決してしまった。やはり、由良が見た〈心の落とし物〉は中林の密かな願望から生まれた、幻の過去だったのだ。
(昔の真冬ちゃんと私が一緒にいるとこ、見たかったなぁ。でも、いいもん。私は今の真冬ちゃんとイチャイチャするから)
中林は変わった。
あの日踏み出せなかった「一歩」を、友人と共に歩み始めた。
(冬編③『銀世界、幾星霜』第五話へ続く)
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