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春編①『桜花爛漫、世は薄紅色』
第一話「サクラ咲く喫茶店」⑵
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中林は信じられないような面持ちで、桜が生えているあたりを指差した。
「……ここに桜の木が生えてるんですか?」
「うん」
「本当に?」
「ホント、ホント。お客様の中にも見えてる人いたし。でも中林さんが見えてないってことは、この桜は〈心の落とし物〉なんでしょうね。やっと確証が持てたわ。ありがとう」
「……」
由良の顔をジッと見つめたのち、至極羨ましそうに叫んだ。
「いいなぁー! 店内に桜が咲いてる喫茶店なんて、最高じゃないですかぁ! 写真には映らないんですもんね?」
「映らないよ。見えてるお客様も残念がってた」
「何で私には見えないんですかぁ~! こんなに桜が見たいのにぃ~!」
「さぁね。想像力が足らないんじゃない?」
「くっ、無念!」
中林は悔しそうに桜紅茶をすする。
彼女の紅茶にも桜の花びらが浮いていたが、全く気づいていなかった。
「そんな素敵な〈心の落とし物〉の落とし主って、一体どこのどなたなんでしょうね? 並外れた想像力を持っているか、無類の桜好きか……」
そこへ一人の女子高生がLAMPに駆け込んできた。
「由良さん、聞いて下さいよ! 桜が全然、満開にならないんです! "満開になったら、お花見に行こうね"って友達と約束してるのに! 由良さんの魔法で、今すぐ咲かせてくれませんか?!」
「来たな、落とし主最有力候補」
「真冬ちゃん、いらっしゃーい!」
現れたのは、すっかり常連の仲間入りを果たした女子高生、玉置真冬だった。ここ最近は春休みなのをいいことに、毎日LAMPにかよい、終電まで居つくようになってしまった。
真冬は中林に「有希さん、こんにちはー!」と挨拶を返しつつ、由良に尋ねた。
「落とし主って何のことです? 私、何か落とし物してましたっけ?」
「これのことですよ」
由良は頭上で揺れている桜を指差した。
由良と中林にしか目がいっていなかった真冬は天井を見上げ、桜に気づいた途端、「ウキャーッ!」と歓喜の悲鳴を上げた。すかさず桜へ駆け寄り、幹に抱きついた。
「お店の中に桜が咲いてるじゃないですか! しかも満開! すっごく綺麗なんですけど! 昨日はこんなのありませんでしたよね? いつの間に改装したんですか?!」
「今朝、お店に来たらこうなってたんですよ。綺麗でしょう?」
「すっごく! 今日はカウンターじゃなくて、桜の木の下の席に座っていいですか?!」
「どうぞ、ご自由に」
真冬は桜の木のそばにある四人がけのテーブルを選び、桜と向かい合うように座った。
いつもなら席につくと同時にメニューをめくるというのに、今日は桜を見上げたまま、しばらくボーッとくつろいでいた。桜の花びらが舞い落ち、真冬の頭の上にちょこんと乗った。
「癒されますなぁ……このまま眠っちゃいそう」
「寝てもいいですけど、一応喫茶店なんで、何か頼んでもらえます?」
「えー……じゃあ、桜パフェ」
「……渋った割に、結構重めのやつ頼みましたね。そろそろ昼食時ですけど」
「スイーツは別腹なんですぅ」
由良は紅茶を飲み干すと、桜パフェを作りに地下の厨房へ降りて行った。
中林はまだ紅茶が残っているらしく、「私も桜見たかったのにぃ」と未練がましく天井を見上げていた。
「……ここに桜の木が生えてるんですか?」
「うん」
「本当に?」
「ホント、ホント。お客様の中にも見えてる人いたし。でも中林さんが見えてないってことは、この桜は〈心の落とし物〉なんでしょうね。やっと確証が持てたわ。ありがとう」
「……」
由良の顔をジッと見つめたのち、至極羨ましそうに叫んだ。
「いいなぁー! 店内に桜が咲いてる喫茶店なんて、最高じゃないですかぁ! 写真には映らないんですもんね?」
「映らないよ。見えてるお客様も残念がってた」
「何で私には見えないんですかぁ~! こんなに桜が見たいのにぃ~!」
「さぁね。想像力が足らないんじゃない?」
「くっ、無念!」
中林は悔しそうに桜紅茶をすする。
彼女の紅茶にも桜の花びらが浮いていたが、全く気づいていなかった。
「そんな素敵な〈心の落とし物〉の落とし主って、一体どこのどなたなんでしょうね? 並外れた想像力を持っているか、無類の桜好きか……」
そこへ一人の女子高生がLAMPに駆け込んできた。
「由良さん、聞いて下さいよ! 桜が全然、満開にならないんです! "満開になったら、お花見に行こうね"って友達と約束してるのに! 由良さんの魔法で、今すぐ咲かせてくれませんか?!」
「来たな、落とし主最有力候補」
「真冬ちゃん、いらっしゃーい!」
現れたのは、すっかり常連の仲間入りを果たした女子高生、玉置真冬だった。ここ最近は春休みなのをいいことに、毎日LAMPにかよい、終電まで居つくようになってしまった。
真冬は中林に「有希さん、こんにちはー!」と挨拶を返しつつ、由良に尋ねた。
「落とし主って何のことです? 私、何か落とし物してましたっけ?」
「これのことですよ」
由良は頭上で揺れている桜を指差した。
由良と中林にしか目がいっていなかった真冬は天井を見上げ、桜に気づいた途端、「ウキャーッ!」と歓喜の悲鳴を上げた。すかさず桜へ駆け寄り、幹に抱きついた。
「お店の中に桜が咲いてるじゃないですか! しかも満開! すっごく綺麗なんですけど! 昨日はこんなのありませんでしたよね? いつの間に改装したんですか?!」
「今朝、お店に来たらこうなってたんですよ。綺麗でしょう?」
「すっごく! 今日はカウンターじゃなくて、桜の木の下の席に座っていいですか?!」
「どうぞ、ご自由に」
真冬は桜の木のそばにある四人がけのテーブルを選び、桜と向かい合うように座った。
いつもなら席につくと同時にメニューをめくるというのに、今日は桜を見上げたまま、しばらくボーッとくつろいでいた。桜の花びらが舞い落ち、真冬の頭の上にちょこんと乗った。
「癒されますなぁ……このまま眠っちゃいそう」
「寝てもいいですけど、一応喫茶店なんで、何か頼んでもらえます?」
「えー……じゃあ、桜パフェ」
「……渋った割に、結構重めのやつ頼みましたね。そろそろ昼食時ですけど」
「スイーツは別腹なんですぅ」
由良は紅茶を飲み干すと、桜パフェを作りに地下の厨房へ降りて行った。
中林はまだ紅茶が残っているらしく、「私も桜見たかったのにぃ」と未練がましく天井を見上げていた。
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