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冬編①『雪色暗幕、幻燈夜』
第五話「真冬の寂しがり屋」⑶
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寂しがり屋を自覚して以来、真冬はだんだん家に帰るのが嫌になった。
友達の家に泊めてもらったり、駅員に追い出されるまで駅に居着いたりするようになった。
「どうしても寂しい時は気分を紛らわそうと、楽しくなるような妄想するようになりました。『大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたいなぁ』とか、『早く雪が降らないかなぁ』とか、『LAMPの厨房は寒いそうだから、突然南極に変わってしまうかも。ペンギンとか色んな動物と会えたりして』とか、『雪だるまがいっぱい作りたいなぁ』とか、『サンタさんに会ってみたいなぁ』とか。さっきも妄想してたんですよ? LAMPが雪ヶ原の駅に合ったらいいのになぁって」
「……ロマンチストなんですね」
由良は笑顔が引きつらないよう、必死に堪える。
しかし内心はひどく衝撃を受けていた。
(こ……この子だったのか……っ! 全ての元凶は!)
真冬が語った妄想は全て、実際に由良の身に起こった〈心の落とし物〉だった。
「大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたい」という妄想だけは自覚していなかったが、言われてみれば、真冬に似た妙齢の女性がホットサングリアを飲みに来ていたような気がする。他にも真冬が話していないだけで、彼女が発端となった〈心の落とし物〉は沢山あるのかもしれない。
(妄想したことが〈心の落とし物〉として現実になるなんて、最早魔法じゃない? なんとかして妄想させないようにしないと……)
由良は真冬の対処法に頭を悩ませる。これ以上、妙な〈心の落とし物〉が現れては、仕事に支障が出てしまう。
一方、真冬は由良に「ロマンチスト」と言われ、「そうでもないですよ?」と否定した。
「だって妄想はするけど、実際に叶うなんて思ってませんもん。大人の女性になれるのはまだまだ先だし、天気予報を見れば、暫く雪が降らないことは分かってた。LAMPの厨房が南極になるなんてあり得ないし、雪だるまがいっぱい作りたいなら、宿題を早く済ませてから作ればいい。サンタさんは……いたら会ってみたいですけど、もうクリスマスイブは終わってしまったので、きっとお休みでしょうね」
「……なるほど」
由良は真冬の真意を聞き、彼女が何故これほど妄想しているのに〈心の落とし物〉が見えないのか、理解した。
(この子は空想家である以上に、現実主義者なんだ。夢を見てはいるけど、夢を信じてはいない。だから〈心の落とし物〉を量産しながらも、一つも目にすることはなかった)
由良はそこまで考察を広げ、あることに疑問を持った。
(……いや、一つだけあったな)
そのことを真冬に尋ねようとすると、ちょうど本人の口から答えが出てきた。
「なので、LAMPが雪ヶ原駅に現れた時は、すっごくビックリしました! まさか本当に現れるなんて……今回は割と本気で叶って欲しいと思っていたので、すっごく嬉しかったです!」
真冬は満面の笑顔でそう言うと、ありがたそうにココアを飲んだ。
(つまり、今回は信じたわけね……自分の妄想を)
由良は言葉には出さず、納得した。
(見えるとなると、ますます対策を考えないとね。何かいいアイデアはないかしら?)
由良が思案していると、ココアを飲み終わった真冬が名残惜しそうにマシュマロを見て言った。
「雪ちゃん食べるの、もったいないなぁ……この雪ちゃんマシュマロ、何処に売ってるんですか?」
「うちのは特注なんで、非売品ですよ。でも、似たマシュマロなら他所でも売ってるかもしれませんね。いっそ、既製品のマシュマロを二つくっつけて、自作してもいいかもしれません」
「確かに! 明日買ってこよっと!」
その時、由良は真冬が寂しくならない、いいアイデアを思いついた。
友達の家に泊めてもらったり、駅員に追い出されるまで駅に居着いたりするようになった。
「どうしても寂しい時は気分を紛らわそうと、楽しくなるような妄想するようになりました。『大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたいなぁ』とか、『早く雪が降らないかなぁ』とか、『LAMPの厨房は寒いそうだから、突然南極に変わってしまうかも。ペンギンとか色んな動物と会えたりして』とか、『雪だるまがいっぱい作りたいなぁ』とか、『サンタさんに会ってみたいなぁ』とか。さっきも妄想してたんですよ? LAMPが雪ヶ原の駅に合ったらいいのになぁって」
「……ロマンチストなんですね」
由良は笑顔が引きつらないよう、必死に堪える。
しかし内心はひどく衝撃を受けていた。
(こ……この子だったのか……っ! 全ての元凶は!)
真冬が語った妄想は全て、実際に由良の身に起こった〈心の落とし物〉だった。
「大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたい」という妄想だけは自覚していなかったが、言われてみれば、真冬に似た妙齢の女性がホットサングリアを飲みに来ていたような気がする。他にも真冬が話していないだけで、彼女が発端となった〈心の落とし物〉は沢山あるのかもしれない。
(妄想したことが〈心の落とし物〉として現実になるなんて、最早魔法じゃない? なんとかして妄想させないようにしないと……)
由良は真冬の対処法に頭を悩ませる。これ以上、妙な〈心の落とし物〉が現れては、仕事に支障が出てしまう。
一方、真冬は由良に「ロマンチスト」と言われ、「そうでもないですよ?」と否定した。
「だって妄想はするけど、実際に叶うなんて思ってませんもん。大人の女性になれるのはまだまだ先だし、天気予報を見れば、暫く雪が降らないことは分かってた。LAMPの厨房が南極になるなんてあり得ないし、雪だるまがいっぱい作りたいなら、宿題を早く済ませてから作ればいい。サンタさんは……いたら会ってみたいですけど、もうクリスマスイブは終わってしまったので、きっとお休みでしょうね」
「……なるほど」
由良は真冬の真意を聞き、彼女が何故これほど妄想しているのに〈心の落とし物〉が見えないのか、理解した。
(この子は空想家である以上に、現実主義者なんだ。夢を見てはいるけど、夢を信じてはいない。だから〈心の落とし物〉を量産しながらも、一つも目にすることはなかった)
由良はそこまで考察を広げ、あることに疑問を持った。
(……いや、一つだけあったな)
そのことを真冬に尋ねようとすると、ちょうど本人の口から答えが出てきた。
「なので、LAMPが雪ヶ原駅に現れた時は、すっごくビックリしました! まさか本当に現れるなんて……今回は割と本気で叶って欲しいと思っていたので、すっごく嬉しかったです!」
真冬は満面の笑顔でそう言うと、ありがたそうにココアを飲んだ。
(つまり、今回は信じたわけね……自分の妄想を)
由良は言葉には出さず、納得した。
(見えるとなると、ますます対策を考えないとね。何かいいアイデアはないかしら?)
由良が思案していると、ココアを飲み終わった真冬が名残惜しそうにマシュマロを見て言った。
「雪ちゃん食べるの、もったいないなぁ……この雪ちゃんマシュマロ、何処に売ってるんですか?」
「うちのは特注なんで、非売品ですよ。でも、似たマシュマロなら他所でも売ってるかもしれませんね。いっそ、既製品のマシュマロを二つくっつけて、自作してもいいかもしれません」
「確かに! 明日買ってこよっと!」
その時、由良は真冬が寂しくならない、いいアイデアを思いついた。
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