心の落とし物

緋色刹那

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冬編①『雪色暗幕、幻燈夜』

第五話「真冬の寂しがり屋」⑵

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 由良は女子高生から話を聞くため、「雪が本降りになってきたから」と彼女をLAMPへ招いた。
 よくよく見ると、彼女は最近LAMPへ頻繁に通いに来ている常連客だった。特別親しいわけではないが、初回のヒュッゲに参加したり、中林と商品について語り合ったりしているのを、由良は覚えていた。
(学校帰りにLAMPに寄ってるって言ってたけど、こんな遠い駅から通っていたのね)
 由良はアクセントにコーヒーがほんの少し入っているココアに、雪だるまの形をかたどった特注のマシュマロを浮かべ、カウンター席に座っている女子高生の前に出した。
「どうぞ」
 女子高生は雪だるまのマシュマロを見るなり、喜びの声を上げた。
「わぁ、雪ちゃんだ! 可愛い!」
「……雪ちゃん?」
 既視感のある呼び方に、由良は眉をひそめる。
 以前、女子高生と同じように、雪だるまのことを「雪ちゃん」と呼ぶ少女に会ったことがある。結局、その少女は〈探し人〉だったのだが、少女の本体らしき人物とは、未だに会えていなかった。
「雪だるま、お好きなんですか?」 
「もっちろん! 雪ちゃんはですねぇ、白くて、まん丸で……冷たいのに、温かいんです! 昔はよく、お父さんに作ってもらっていました。自分で作ろうとしたこともあったんですけど、なかなか上手く作れなかったんですよねー。さすがに今はプロ級の腕前ですが」
 女子高生はあの少女と同じように瞳をキラキラさせ、雪だるまについて語った。すかさずスマホのカメラを向け、ココアを激写する。
 特徴的な雪だるまの表現、昔は父親に作ってもらっており、自分では上手く作れなかったという過去……間違いなく、あの少女は彼女の過去の姿だった。しかし念のため、由良は女子高生の名前を確認した。
「そう言えば、お名前は何て仰るんでしたっけ?」
「雪ちゃんのですか?」
「いえ、貴方の」
 女子高生は不思議そうに目をパチクリさせ、答えた。
「私は玉置たまき真冬まふゆと言います。洋燈高校に通っている、高校一年生です!」
「……真冬さん、ですか。素敵なお名前ですね」
「よく言われますー。冬生まれにピッタリだねって!」
 女子高生、もといは、まふゆによく似た顔で笑った。

「それで、どうしてこんな夜遅くに駅で寝ていらっしゃったんです? 親御さんが心配しますよ」
 すると途端に、真冬はシュンと元気を無くした。
「親はいません。この近くのアパートで、一人暮らししてるんです」
 話によると、真冬は親の仕事の都合で、小学校卒業を機に県外へ引っ越したのだという。
 生まれ育った洋燈町を離れ、仲の良かった友達と別れるのは、大変寂しかった。新しい土地に馴染み、中学で友達が出来ても、「高校は洋燈町の高校に進学して、一人暮らしする!」と決めていた。
「それで今年、念願叶って洋燈高校に進学し、一人暮らしを始めました。本当は洋燈町に住みたかったんですけど、何処も家賃が高くて、予算オーバーでした。まぁ、毎日洋燈町に行けるので、住めなくてもいいんですけどね。問題は、自分が重度の寂しがり屋だと忘れていたことでした」
「……そんな大事なこと、忘れるもんなんですか?」
「忘れるもんなんです。いわゆる、ヒトリグラシーズ=ハイというやつですね」
 真冬は神妙な顔で頷いた。
「一人暮らしへの期待とワクワク感でテンションが上がって、肝心なミスに気づかないんですよ。しかも私の場合、それに気づいたのは冬を目前にした十一月の末でした」
「遅っ」

 十一月の末、真冬は学校から雪ヶ原にある自宅へ帰るため、一人電車に揺られていた。高校の友人は洋燈町に住んでいるため、駅までしか一緒に帰れなかった。
 その日は秋にしては風が冷たく、冬の訪れを感じる日だった。真冬もその変化には気づいていたが、「もう冬かぁ」と思うくらいで、特段気にしてはいなかった。
 しかし、雪ヶ原の駅に降り立った時、一際冷たい夜風が彼女に吹きつけた。一瞬にして体温を奪い、身を凍らせるような風、帰り道は暗く、果てのない闇が広がっているように見えた。
「私は寂しさと恐怖で足がすくみそうになりながらも、必死で風の中を走りました。走って、走って……やっとの思いでアパートの部屋のドアを開けると、部屋は外よりもっと暗くて、冷え切っていました。その瞬間、私は猛烈に心細くなり、自分が寂しがり屋であることを自覚したのです」
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