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冬編①『雪色暗幕、幻燈夜』
第五話「真冬の寂しがり屋」⑷
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「真冬さん」
「はい?」
急に名前を呼ばれてポカンとしている真冬に、由良は神妙な顔である物を手渡した。
「これは、寂しくならないお守りです。貴方に差し上げます」
「えっ?!」
それは先日購入した福袋に入っていた、薄いピンクの手袋だった。手の甲には笑顔の雪だるまが編み込まれており、手首の部分には蝶々結びされたピンクのリボンがついている。かなり可愛らしいデザインだが、由良の趣味ではなかったので、中林か日向子に渡そうと思い、LAMPに持って来たのだ。
しかしあまりにも可愛らしいデザインだったため、二人にも受け取ってもらえず、どうするか困っていた。
「この手袋……じゃなくて、お守りを持っていれば、貴方は寂しくありません。だから、一人でアパートに戻っても、もう大丈夫。無事に春を迎えられますよ」
「い、いいんですか?! こんな可愛い手袋、もらっちゃっても?!」
「是非。むしろ、もらって下さい。このまま私が持ってても、タンスの肥やしになるので」
「じゃ、じゃあ……」
真冬は恐る恐る手袋を受け取ると、早速両手にはめた。すっかり手袋を気に入ったらしく、何度も手を返しては、食い入るように雪だるまを見つめる。
やがて満足した様子で「えへへ」と笑うと、由良に礼を言った。
「素敵なお守り、ありがとうございます。これからは楽しく帰れそうです」
「それなら良かった。またいつでもお店に来て下さいね」
「はい! 明日、帰りに寄ります!」
真冬は由良に手を振り、LAMPを後にした。由良もカウンターから手を振り、真冬を見送る。
駅にチラついていた雪は、とっくに止んでいた。積もることなく、路面を濡らすにとどまっている。
「雪、止んじゃったのかー。せっかく、また雪ちゃんが作れると思ったのにぃ」
真冬は雪が積もらなかったことを残念に思いつつ、受け取った手袋を見て、ムフフと笑った。
お守りとしてのご利益はないのは、真冬にも分かっている。それなのに手袋を見ていると、不思議と元気が出てきた。真冬が雪だるま好きなのもあるが、それ以上に「大好きなLAMPの店員である由良からもらった手袋」というのが大きかった。
「あっ! そういえば、どうやってお店をここまで持ってきたのか、聞くの忘れてた!」
真冬ははた、と立ち止まり、慌ててLAMPに戻る。
しかしLAMPは既に消え、元の閉鎖した売店に戻っていた。
「……え?」
突然お祭りが終わってしまったかのような衝撃に、真冬は呆然と立ち尽くす。
閉鎖された売店の窓から中を覗いてみたが、LAMPの内装とはまるで異なっていた。
「もしかして……店員さんって、魔法使いなのかな?」
あまりに突飛な現象を目の当たりにし、真冬も同じくらい突飛な結論に辿り着く。
実際に魔法使いに近いのは真冬の方だったが、自分が原因だとは思わなかった。現実的に考えれば「幻覚」だとか「ドッキリ」だとかと考える方が妥当だが、今の真冬はそうは思えなかった。
「そっか……そっか、そっか、そっかぁ! 店員さんは魔法使いだったんだ! だから私の悩みに気づいて、ここまで来てくれたんだ! うん、絶対そうに違いない!」
真冬は嬉々として妄想を広げながら、改札へと向かった。スカートのポケットから雪だるま型のパスケースを取り出し、中のICカードを改札に当てる。
いつもなら憂鬱な気分でくぐる改札が、今日はなんだか清々しかった。
「明日、お店に行ったら『店員さんは魔法使いなんですか?』って、聞いてみよっと!」
真冬は駅を出て、真っ直ぐアパートに帰った。
道の窪みに溜まっていた水溜りが、駐輪場に停められていた自転車をぼんやりと映し、ピンクに色づいて見えた。
『雪色暗幕、幻燈夜』第五話「真冬の寂しがり屋」ならびに、『雪色暗幕、幻燈夜』終わり
「はい?」
急に名前を呼ばれてポカンとしている真冬に、由良は神妙な顔である物を手渡した。
「これは、寂しくならないお守りです。貴方に差し上げます」
「えっ?!」
それは先日購入した福袋に入っていた、薄いピンクの手袋だった。手の甲には笑顔の雪だるまが編み込まれており、手首の部分には蝶々結びされたピンクのリボンがついている。かなり可愛らしいデザインだが、由良の趣味ではなかったので、中林か日向子に渡そうと思い、LAMPに持って来たのだ。
しかしあまりにも可愛らしいデザインだったため、二人にも受け取ってもらえず、どうするか困っていた。
「この手袋……じゃなくて、お守りを持っていれば、貴方は寂しくありません。だから、一人でアパートに戻っても、もう大丈夫。無事に春を迎えられますよ」
「い、いいんですか?! こんな可愛い手袋、もらっちゃっても?!」
「是非。むしろ、もらって下さい。このまま私が持ってても、タンスの肥やしになるので」
「じゃ、じゃあ……」
真冬は恐る恐る手袋を受け取ると、早速両手にはめた。すっかり手袋を気に入ったらしく、何度も手を返しては、食い入るように雪だるまを見つめる。
やがて満足した様子で「えへへ」と笑うと、由良に礼を言った。
「素敵なお守り、ありがとうございます。これからは楽しく帰れそうです」
「それなら良かった。またいつでもお店に来て下さいね」
「はい! 明日、帰りに寄ります!」
真冬は由良に手を振り、LAMPを後にした。由良もカウンターから手を振り、真冬を見送る。
駅にチラついていた雪は、とっくに止んでいた。積もることなく、路面を濡らすにとどまっている。
「雪、止んじゃったのかー。せっかく、また雪ちゃんが作れると思ったのにぃ」
真冬は雪が積もらなかったことを残念に思いつつ、受け取った手袋を見て、ムフフと笑った。
お守りとしてのご利益はないのは、真冬にも分かっている。それなのに手袋を見ていると、不思議と元気が出てきた。真冬が雪だるま好きなのもあるが、それ以上に「大好きなLAMPの店員である由良からもらった手袋」というのが大きかった。
「あっ! そういえば、どうやってお店をここまで持ってきたのか、聞くの忘れてた!」
真冬ははた、と立ち止まり、慌ててLAMPに戻る。
しかしLAMPは既に消え、元の閉鎖した売店に戻っていた。
「……え?」
突然お祭りが終わってしまったかのような衝撃に、真冬は呆然と立ち尽くす。
閉鎖された売店の窓から中を覗いてみたが、LAMPの内装とはまるで異なっていた。
「もしかして……店員さんって、魔法使いなのかな?」
あまりに突飛な現象を目の当たりにし、真冬も同じくらい突飛な結論に辿り着く。
実際に魔法使いに近いのは真冬の方だったが、自分が原因だとは思わなかった。現実的に考えれば「幻覚」だとか「ドッキリ」だとかと考える方が妥当だが、今の真冬はそうは思えなかった。
「そっか……そっか、そっか、そっかぁ! 店員さんは魔法使いだったんだ! だから私の悩みに気づいて、ここまで来てくれたんだ! うん、絶対そうに違いない!」
真冬は嬉々として妄想を広げながら、改札へと向かった。スカートのポケットから雪だるま型のパスケースを取り出し、中のICカードを改札に当てる。
いつもなら憂鬱な気分でくぐる改札が、今日はなんだか清々しかった。
「明日、お店に行ったら『店員さんは魔法使いなんですか?』って、聞いてみよっと!」
真冬は駅を出て、真っ直ぐアパートに帰った。
道の窪みに溜まっていた水溜りが、駐輪場に停められていた自転車をぼんやりと映し、ピンクに色づいて見えた。
『雪色暗幕、幻燈夜』第五話「真冬の寂しがり屋」ならびに、『雪色暗幕、幻燈夜』終わり
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