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第9話 ルミアーナ様のギフトが半端ない

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「おかしいと思ったのよね」

「リオンって、もっと陰キャだったからな」

「わたくしは初めてお喋りしましたので、不自然には思いませんでしたわ」


 幌馬車の奥に三人が座り、入口を塞ぐかの様に、客車の後ろに俺が座る。椅子にはケツの半分も乗っていないが。


「でも異世界なんて本当にあるのか?」

「でもリオンお兄様とは、明らかに性格が違うんだよね。あの~とか、う~とか言わないし。キモヲタ度が全然違うのよね」


 仕方なく俺はリオンと魂が入れ代わったくだりを女の子達に説明した。


「それじゃあ、異空間収納の魔法も異世界の魔法なの?」

「いや、俺のいた世界には魔法は無いんだ。異空間収納は物語に出てくる便利魔法だったから、スキルメイクで作ってみたんだよ」

「魔法が無い世界ですか? それはまた随分と不便な世界ですわね。魔物に襲われたりはしないのですか?」

「俺の世界に魔物はいないんだ。それに七つ有る大陸のうち、六大陸は人間が支配しているんだ」

「んじゃ、残りの大陸に魔王がいるんだな!」

「いや魔王はいないよ……。その大陸は氷の大陸でペンギンぐらいしか済んでいないはずだ」


 南極ってペンギン以外に何か済んでいたっけ? 南極熊っていたっけ?


「まあ、平和な世界だったよ」

「それではトーマ様とお呼びした方がよろしいのかしら」

「俺としてはそっちの方が嬉しいかな。リオンはアイツの名前だからな」


 ルミアーナ様は楽しげに、クスノハ様は愉快げに、そしてシルフィは戸惑った顔で俺を見ていた。

 事情を話して俺もスッキリとした。元々にして隠し事は苦手だったし、だからボロが出たんだけど、うん、これで良かったんだ。





「皆さん、お覚悟は宜しいですか。ここから一歩でも踏み出せば後戻りは出来ません」


 王都を出立して三日目。道中では俺の現世の話をする事で女の子三人と打ち解ける事が出来た。

 だからと言って恋愛感情が育まれた訳ではなく、「あなたが誰であれ、お兄様である以上は好きには成れないからね!」とシルフィからはキッパリと言われた。

 まあ、俺もそう思うよ。





 俺達の馬車は道の無い草原に停車し、草原に降り立ち、立て看板を全員で確認していた。


『これより先 危険地帯
 これより先 アザトーイ国にあらず
 これより先 クルッテール棲息地帯
 これより先 進む者は国外追放罪とする
 これより先 進む者は逃げてこの地を踏むべからず』


「もとより覚悟の上だぜ」

「義父と母には別れを告げてきました」


 クスノハ様は笑いながら、シルフィは緊張した面持ちで、ルミアーナ様に答えた。


「あそこに見える森に、狂猿クルッテールが棲息しています。クルッテールはその鳴き声で、近くにいる魔物を呼び寄せます」


 クルッテールは見た目は可愛い猿で、尻尾がリスの様にクルッと丸まっていて、その昔はその愛嬌の良さから、その冗談みたいな名前がついた。

 しかし今は狂った猿と改めてクルッテールと呼ばれている。


「過去に呪われた森には開拓村がありました。開拓村は土地の開拓と、当時は高値で取り引きされていたクルッテールの尾や毛皮を売って生計をたてていました」


 昔々はその尻尾を使ったマフラー等の流行があったとかで、ハンターが乱獲していた時代があったらしい。


「しかしある日を境に、突然クルッテールが奇妙な鳴き声をし始めると、魔物達がよってきて人を襲うようになったのです。開拓村の人々の多くは魔物に殺され、僅かな人々が村から王国に逃げてきました。クルッテールの群れに呼ばれた数千の魔物の大群と共に」


 歴史で習った『狂猿の惨劇』だ。


「これにより、王国の北領は半壊、数千人を超える死者が出ました。それ故に呪われた森に立ち入る事は禁忌とされ、国はその危険な地を放棄、そして立ち入る者は国外追放罪とする厳しい罪に問われる事となったのです」


 ルミアーナ様の言葉を聞きながら俺らは森を見つめていた。


「フフフ、ここを超えればわたくし達は帰るべき国を失いますわ。オホホ、皆さんよ宜しくて?」

「ボクもムッソウの姓は捨てるぜ! ムッソウ流の名は捨てないけどな!」

「私もツンデーレの姓は捨てます! ルミアーナ様と同じく、ただのシルフィですね」

「アハハ、俺はトーマ・アマノガワだから」


 国外追放になったからと言って姓を捨てる必要は無い。これは旅の途中で決めた俺達の決意だ。


「シルフィさんも決意を固めてくださりましたので、わたくしのギフトを皆さんにお教えいたしますわ」


 今の今まで知らされていないルミアーナ様のギフト。皆がゴクリと生唾を飲み込んだ。


「わたくしのギフトは聖神ですわ」

「「「聖神ッッッッッ!!」」」


 神の名を冠するスキルは最上位の伝説級スキルだ。多分だけど、大陸全土を見渡してもただの一人もその冠を持つ者はいないだろう。眼の前にいるルミアーナ様を除いて……。

「す、す、凄え…………」

「か、か、神様…………」


 なるほど、街中はもちろん、アザトーイ王国を出るまでは秘密にしていたわけだ。
 
 誰かに聞かれたら大事になるし、現在の国王代理の元では、その力を悪用されかねない。


「オホホ、トーマ様はさほど驚かれないのですね」

「いえ、驚いてますよ。ただそれ以上にルミアーナ様の思慮深さに感銘を受けていました」

「オホホ、それではわたくしの思惑も察して頂けましたか」

「いえいえ、俺程度ではそこまでは分りかねますよ」

「そうですか、オホホホホホ」


 そして馬車に乗り込み、アザトーイ国の国境を越えた。  


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