夫の初恋の君が家へ訪ねて来ました

文字の大きさ
13 / 14

if 中

しおりを挟む
まだざまぁにたどり着きませんでした。


「お母様、アシュレッド様では、私と殿下を会わせる事も出来ないの。殿下の側近の一人のくせに無能だわ。どうしましょう?フローラを襲う事も出来なさそうだし。」

お母様は真剣な表情で何かを考えているようだ。

「ねぇ、キャサリーン、貴女そんなに殿下が好きなの?」 

「え?いいえ。ただ、フローラよりもわたくしの方が王太子妃には相応しいはずですもの。フローラの臣下なんて真っ平です。」

私は単にフローラより下である事が嫌だった。
まるで私の方が劣っているようではないか。

「この際、公爵夫人でいいのではなくて?アシュレッド様ならば貴女にベタ惚れでしょ?」

「嫌よ。あんな愚図な男!」

「いいからお聞きなさいな。」

お母様は護衛の男に聞こえないよう声を潜めた。

「公爵夫人ともなれば、今よりもフローラにも殿下にも会うチャンスが生まれます。」

チャンスーーー
………もしかしてっ、

お母様が何を言いたいのかに気付いてお母様の顔を見る。
お母様は自信ありげに笑みを深め頷いてみせた。




お母様の話を聞いて数日間考えた。王太子妃に拘っていたけれど、公爵夫人の方が楽ではないか。
それにフローラを排除出来れば、この胸に溜まった鬱憤を晴らせる。

「お母様。わたくしアシュレッド様と結婚するわ。」

そう報告すれば、お母様は満足げに微笑んだ。 

「そうなさい。あら?彼は結婚してたかしら?」 

「大丈夫よ。アシュレッドは私に夢中だもの。結婚するって言えば喜ぶわ。感動して泣くかもしれないわね。確か結婚相手は大したことない令嬢でしたもの。」

「そう。貴女の気持ちが決まったのならアシュレッド様に会いに行きましょう。折角だから新しいドレスでも購入したら。」

「そうしようかしら?」

「お嬢様ならどんなドレスでもお似合いですわ。いっそ、アシュレッド様のお色にしては?」
コリーはイキイキと私の支度を整えてくれた。

鏡に映った自分を見る。




ーーーーー完璧。




キルケー公爵家に訪問して、アシュレッド様の奥様に会った。

さして美しくも無い凡庸な顔立ち。
身体もぽっちゃりしていて、正直みっともない。よくあんな外見で公爵夫人が務まると思ったものだ。

自分と私を比べて落ち込む彼女を見ていると、胸がスッとした。
本来、私と同じ部屋で話をするのも烏滸がましいのだ。

ブサイ伯爵令息の件で学んだ私は、彼女の外見への軽蔑を表情に出すことは無い。

私の代わりにコリーが彼女を侮辱する言葉を投げつける。

けれど使用人達が彼女を庇うのが忌々しい。
本来の仕えるべき人間を分かっていないのだ。

「あの使用人達の態度は問題だわ。」

帰宅後、お母様とコリーと一緒に公爵家の使用人の処遇について相談した。

「酷い使用人達でしたわ。全員くびです。退職金も払わずに追い出しましょう!」

「大丈夫かしら?」

「アシュレッド様ならお嬢様のする事に文句を言う事はありませんわ。」
「そうなさいな。あんな無礼な使用人、全員即刻解雇でいいでしょう。」

二人共、公爵家の使用人達にはかなり腹が立ったらしい。

私たちはアシュレッド様との結婚式のドレスや会場について話し合っていた。

そして2回目の訪問でもアシュレッド様には会えなかった。
あの執事のせいに違いない!

クビだ、クビだ、クビだ、腹が立つ!

とうとう借金の取り立て人が来て、私たちは急いで公爵家を訪れた。

アシュレッド様となかなか会えない事に苛立つ。
彼が私と会えば直ぐに解決する問題だ。

私が来たと知ったら彼は即刻この醜い女を捨てるだろう。

そしてーーーー

とうとう彼が帰って来た。
「お帰りなさいませ。アシュレッド様。」
満面の笑みで彼に駆け寄る。

けれど、想像の彼とは違う冷たい視線を私に向けた。その冷たさは身体の芯から凍えるよう。

一瞬怯んだ。

けれど、この視線の意味に気付いて直ぐに表情を取り繕う。この視線は私に向けたものでは無い。

彼は使用人達に怒っているのだろう。私たちを蔑ろにしたから。

私は潤んだ目で彼を見上げ、彼の袖を掴み涙を流してみせた。



ーーーその時



信じられない事に、彼が私の手を振り払った。
はぁ?
何様のつもり?
怒りを抑え、弱々しく彼を見上げる。

ーーそれでも、彼は冷たく蔑んだ目で私をみている。アシュレッド様のあんな表情……見た事が無い。

私が泣き崩れても抱き起こす事もせず、醜い妻の元へ歩み寄った。

はぁ?

この美しい私より、その醜い女を取るつもり?
その溺愛ぶりを見せつけるかのように
妻を抱き寄せる彼への怒りで、頭に血が逆流するのを感じた。
怒りで手が震える。

え?私の事を気持ち悪いって言った?

ーーー信じられない。

けれど、私に待っていた悪夢はそれだけでは終わらなかった。

その後起こった事は地獄のようで、とても現実とは思えなかった。





 
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...