売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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はじまりの場所

はじまりの場所(1)

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 ラインハルトはユリウスを気遣ってか、かなりゆっくりめに馬を歩かせていたようだった。それもあって、陽が沈みかけた頃にようやく、故郷の家に辿り着いた。
 離れていたのは、たかだか半年やそこらなのに、数年ぶりに帰って来たような懐かしさを覚えた。
 近くで見ると、十日会わなかっただけなのに、ラインハルトはひどくやつれた顔をしていた。削げた頬には無精ひげが生えていて、隈もひどい。
 舞踏会の前の一週間は、城外を駆けまわっていたのだ。そして事件が起こり、休む暇もなく都へ行くことになった。まともに眠っていないのではないかと心配になる。
 馬車を外し、ラインハルトがニゲルの手綱を引き、厩舎へと向かう。ユリウスもつき従った。

 小屋には五頭の馬がいて、草を食んでいるところだった。
 西日が、そのたてがみを、やわらかな色に輝かせている。
 乾いた草の匂いと、むしゃむしゃと咀嚼する音が、気持ちを落ち着かせてくれる。
 ニゲルを馬房に入れ、水と草を与えたあと、ラインハルトは家へと案内しようとするユリウスを引き止めた。

「ここでしばらく話をしてもいいか?」

「ここで」って、ここは単なる馬小屋だ。

「え? いや、でも……。お疲れでしょうから、早く家に入って体を休めてください。お食事も準備しますから……」

 こんなところで王弟殿下と話をしていたと知られたら、叱られるのはユリウスだ。

「できればここがいい。ここが、お前と……、ユーリと出会った場所だから」

 ……出会った場所……?

 ユリウスは意味が分からず、ぱちぱちと目を瞬かせた。
 ラインハルトが家に来たことは何度かあるが、記憶が正しければ、初めて彼を見たのは家の中の応接室のはずだ。

 戸惑うユリウスに構うことなく、ラインハルトは厩舎の柵に腰を下ろした。
 手招きされ、ユリウスもその隣におずおずと腰を下ろす。

「昔、しばらくここでエイギルが世話になっていたことがあっただろ? そのとき、エイギルにルトって従者がいたの、覚えてるか?」

 ユリウスは顎に指をあて宙を見上げて、六才の頃へと記憶を遡った。

「そう言えば、いましたね」

 ぼさぼさの長い前髪でいつも顔が隠れていたから、顔は思い出せない。エイギルと違って無口で、話しかけても「ああ」と「いや」以外の返事が返ってくることはほとんどなかった。
 ただ、彼と会話をしたのは、ほとんどがこの馬小屋だったのはなんとなく覚えている。

『人といるより馬といるほうが気楽でいい』

 ここに来る理由を訊くと、確かいつもそう答えていて……。

「その、ルトが俺だ」


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